過敏性腸症候群(Irritable bowel syndrome;IBS)は、多くの人が悩む消化器系の疾患で、主な症状には腹痛、膨満感、下痢、便秘などがあります。
症候群という名前の通り、この疾患の正確な原因は完全には解明されていません。
特定の食品や生活習慣が症状を悪化させるとされ、中でも食事による腸の状態の悪化は顕著とされています。
この記事では、そんなIBSの症状に関する医学レビューを参考に、症状を引き起こす可能性が高い5つの食品について解説します。
1. 高FODMAP食品
FODMAPとは、「発酵性オリゴ糖、二糖類、単糖類、およびポリオール類」の頭文字を取ったもので、これらの短鎖炭水化物は消化が難しく、小腸や大腸で発酵する傾向があります。
発酵の過程でガスが発生し、腹痛、膨満感、下痢といったIBS症状を引き起こすことが指摘されています。
【高FODMAP食品の例】
• 果物・野菜:リンゴ、梨、チェリー、アプリコット、タマネギ、ニンニク、カリフラワー
• 穀物:小麦、ライ麦、大麦
• 豆類:レンズ豆、ひよこ豆、エンドウ豆
• 乳製品:牛乳、ヨーグルト、アイスクリーム(乳タンパク質であるカゼインが影響する場合もある)
• 人工甘味料:ソルビトール、エリスリトール、キシリトール(ガムやプロテインバー、砂糖不使用キャンディーに多い)
・その他:ハチミツ、ケチャップ、固形のスープ
高FODMAP食品は全ての人に問題を起こすわけではありません。
研究では、低FODMAP食を試して、自分にとって影響のある食品を特定するのが良いとしています。(Controversies and reality of the FODMAP diet for patients with irritable bowel syndrome より)
上に示した論文ではこれに対する議論についても取り上げられており、低FODMAP食以外の要素も考えられる点や、薬剤による研究のように盲検試験の結果が得られにくいことから、臨床的な効果を謳うことは難しいとしています。
低FODMAP食を場合には、可能な限り医師との相談の上で行うことが必要としています。
しかし、試しに小麦や乳製品を断ってみたり、人工甘味料などを控えるなどをして様子を見ると、症状が軽減された例は多いため、部分的に高FODMAP食品を制限してみることは良い取り組みではないかと考えます。
2. グルテンを含む食品
グルテンは、小麦、ライ麦、大麦に含まれるタンパク質で、パン、パスタ、クッキー、シリアルなど多くの加工食品に使用されています。
グルテンを摂取することで、IBSの症状として腹痛、下痢、便意の緊急性が現れることがあります。(Dietary Triggers in Irritable Bowel Syndrome: Is There a Role for Gluten?より)
上記の研究によると、IBS患者がグルテンフリーの食事を続けると、下痢や便通の頻度が改善することが示されています。
ただし、IBSはセリアック病(グルテンに対する自己免疫疾患)とは異なるため、グルテンを完全に排除する必要があるわけではありません。
医師や管理栄養士と相談し、自分に合った量を見つけることが重要です。
グルテンについては以下でもまとめていますのでご参照ください。
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3. 脂っこい食品
揚げ物やバターたっぷりの料理など脂肪分の多い食品は、消化に時間がかかるため、腸内ガス、膨満感、下痢を引き起こしやすいです。(Diet in irritable bowel syndrome: What to recommend, not what to forbid to patients!より)
特にIBSの人にとっては、これらの食品が症状のトリガーになることが少なくありません。
【高脂肪食品の例】
• 揚げ物(フライドポテト、唐揚げ、天ぷらなど)
• バターや油を多く含む料理
• ペイストリーやドーナツなどの菓子類
• 高脂肪の乳製品(濃厚なクリームや全脂牛乳)
脂質は健康に欠かせない栄養素ですが、健康的な脂肪を選ぶことがIBS管理には重要です。
オリーブオイル、アボカド、ナッツ、種子などの脂肪源は、比較的消化しやすい選択肢です。
日本人においてはこれらの脂質が合うかはまた議論の的ですが、飽食の時代である現代では脂肪酸の摂取量は多すぎると言われています。
茶碗一杯のご飯と簡単なおかずですでに一日の必須脂肪酸の摂取量を確保できるので、脂肪については摂る努力よりも減らす努力の方が難しいくらいです。
脂肪の摂取量などに関しては以下の記事にてまとめているので参考までに……。
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4. 辛いもの
辛い食品に含まれるカプサイシンという化合物が、腸の働きを刺激し、腹痛、下痢、膨満感を引き起こすことがあります。(Consumption of spicy foods and the prevalence of irritable bowel syndromeより)
【辛い食品の例】
• 唐辛子、ハバネロ、ホットソース
• スパイス(レッドペッパー、チリフレーク、カイエンペッパー)
研究によると、辛い食品を週に10回以上摂取する人は、IBSの症状を優位に悪化させることが示されています。
ただし、辛さを完全に排除する必要はなく、少量から試して耐えられるレベルを探すことが推奨されます。
代わりにオレガノやバジル、パセリなどのハーブで風味をつけるのも良い方法です。
5. カフェイン
コーヒーやエナジードリンク、紅茶に含まれるカフェインは、腸の動きを促進するため、下痢や腹痛を引き起こす可能性があります。(Diet in irritable bowel syndrome: What to recommend, not what to forbid to patients!より)
また、カフェインは胃酸の分泌を増やすため、消化器官に負担をかけることがあります。
ただし、レビューで言及されているように、カフェインの摂取を控えたからといってIBSの症状が改善したという明確な証拠がないことにも注意が必要です。
もしかすると、カフェインを摂取したことで睡眠が浅くなることで、サーカディアンリズムが乱れ、結果的に腸内に悪影響があるのかもしれません。
カフェインを完全に避ける必要はありませんが、低カフェイン飲料や少量から試してみるのが良いでしょう。
IBS症状を和らげる食品
一方で、IBS症状を緩和する食品も多くあります。
以下は、IBS患者でも比較的安心して摂取できる食品の例です。(Addressing the Role of Food in Irritable Bowel Syndrome Symptom Managementより)
• 低FODMAPの果物: バナナ、ブルーベリー、ブドウ、キウイ、オレンジ、ラズベリーなど
• 低FODMAPの野菜:ニンジン、キュウリ、レタス、ほうれん草、ピーマン、トマトなど
• 低脂肪のタンパク源: 鶏胸肉、七面鳥、サーモンなど
• 発酵食品: ヨーグルト、ピクルス、ザワークラウトなど
• 低FODMAP穀物: 白米、玄米、オート麦、キヌアなど
食品だけでなく、生活習慣の改善もIBS症状の緩和に役立ちます。
レビューでは、以下のポイントが推奨されています。(Treatment for Irritable Bowel Syndromeより)
1. ストレス管理:瞑想、深呼吸、ヨガ、定期的な運動を取り入れる
2. 十分な睡眠:睡眠不足はIBS症状を悪化させる可能性があります
3. ハーブティーの活用:ペパーミントティーや生姜茶、フェンネルティーは効果が期待できます
まとめ
・高FODMAP食品、グルテン、脂っこい食品、辛い食品、カフェインはIBS症状を悪化させる可能性がある
・低FODMAP食品や発酵食品は、IBS症状を和らげる可能性がある
・ストレス管理や睡眠改善などの生活習慣の見直しが、症状の緩和に効果的
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