科学

1mlの水に数十億個:ティーバッグから放出されるマイクロプラスチック

科学

私たちの日常生活の中で、マイクロプラスチックは至るところに存在しています。

 

食品包装からボトル飲料、さらには人体や海に至るまで、これらの微小なプラスチック片が浸透していることは多くの研究で示されています。

 

今回紹介するのは、紅茶やお茶などで利用することが多いであろう“ティーバッグ”とそれが放出する“マイクロプラスチック”についての研究です。

  

本研究はスペインのバルセロナ自治大学(Autonomous University of Barcelona, UAB)の研究者が主導したものです。

研究から、ティーバッグ1つが1mlの水に浸されるたびに、数十億個ものマイクロプラスチックおよびナノプラスチック(MNPL: Micro- and Nanoplastic Particles)が放出される可能性があることが明らかになりました。

  

以下に研究内容をまとめていきます。

  

参考記事)

A Single Tea Bag Could Release Billions of Microplastics Into The Body(2024/12/27)

 

参考研究)

Teabag-derived micro/nanoplastics (true-to-life MNPLs) as a surrogate for real-life exposure scenarios(ScienceDirect 2024年11月より)

 

 

研究の背景

 

この研究では、市販されている3種類のティーバッグが対象となりました。

  

これらは、プラスチック素材を用いて製造されたティーバッグが水に浸された際どの程度の微小プラスチックが放出されるかを評価することを目的としています。

 

ティーバッグから放出される微小プラスチック粒子の量やサイズ、そしてこれらが人体にどのような影響を及ぼす可能性があるかについて、徹底的な分析が行われました。

 

この研究の特徴は、最新技術を駆使して粒子の物理的および化学的特性を詳細に測定した点にあります。

 

特に、レーザー技術を使用して光の速度と散乱を計測し、粒子の構造や挙動を正確に捉えることができました。

 

この方法により、これまでにない高精度なデータが得られました。

 

以下より、研究データについてまとめます。

 

 

ティーバッグの種類と放出されるプラスチック量 

研究対象となったのはポリプロピレンセルロースナイロンの3種類のティーバッグで、それぞれ1mlの水に放出されるプラスチックの量が測定されました。

 

1. ポリプロピレン製のティーバッグ

• 平均して1mlあたり12億個以上のマイクプラスチックの粒子が放出された

• 放出された粒子の平均サイズは約136.7ナノメートル

 

2. セルロース製のティーバッグ

• 平均して1mlあたり1億3500万個の粒子が放出された

• 粒子のサイズは約244ナノメートルと、他の素材よりやや大きめ

 

3. ナイロン製のティーバッグ

• 平均して1mlあたり818万個の粒子が放出された

• 粒子の平均サイズは約138.4ナノメートル

 

Teabag-derived micro/nanoplastics (true-to-life MNPLs) as a surrogate for real-life exposure scenariosより

 

これらのデータから分かるように、素材ごとに放出される粒子の量やサイズに大きな差があることが確認されました。

 

特にポリプロピレン製のティーバッグが、最も多くの粒子を放出していることが注目されます。

 

  

マイクロプラスチックと人体への影響

次に、この研究では放出されたマイクロ(およびナノ)プラスチック粒子が人体にどのような影響を及ぼすかについても検討されました。

  

特に、腸内の粘液を生成する細胞を用いた実験では、以下のことが明らかになりました。

  

1. マイクロプラスチックは細胞に吸収されやすく、細胞核に到達することが可能

2. プラスチックの種類やサイズによって、細胞との相互作用や影響が異なる

3. 細胞内での吸収は、長期的に健康リスクを引き起こす可能性がある

 

組織に入ったプラスチック(緑色)を示すスキャン(細胞核は青、細胞膜は赤)

 

研究者たちは、この吸収が人体に及ぼす影響として、遺伝毒性(Genotoxicity)や発がん性(Carcinogenicity)のリスクを指摘しています。

 

さらに、プラスチック粒子が細胞内に蓄積することで、免疫応答の変化や臓器への特異的な影響を及ぼす可能性があるとされています。

  

これまでの研究でも、マイクロプラスチックが腸内環境に悪影響を与え、炎症性腸疾患(IBD)などの病気と関連する可能性が示唆されています。

  

また、これらの粒子が正常な細胞の働きを妨げ、感染症のリスクを高める可能性もあると考えられています。

  

  

規制の必要性と今後の展望

研究チームは、食品包装やティーバッグに使用されるプラスチック素材に対する規制や標準化が急務であると訴えています。

 

マイクロプラスチックが人体や環境に与える影響についてはまだ多くの疑問が残されていますが、これまでの研究結果から、そのリスクを軽視することはできません。

 

食品包装におけるプラスチックの使用が増加し続ける現代、科学的研究と政策立案が連携し、この問題に取り組む必要がある。食品の安全性と消費者の健康を守るための取り組みが求められている。」と研究者たちは述べています。

 

 

まとめ

・ティーバッグの素材により放出されるマイクロプラスチックの量が異なる

・ポリプロピレン製が最も多く放出する

・人体への影響として、細胞内蓄積や健康リスクが懸念される

・食品安全と消費者の健康保護の観点から、食品包装に使用されるプラスチックの規制強化が急務

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