科学

大人になっても脳のニューロンを増やそう!最新研究から分かったこと

科学

子どもは大人の何倍も学びを吸収する」ということはよく聞く話です。

 

このことが本当かどうかは分かりませんが、神経細胞(ニューロン)の新生乳幼児の頃が最も多く作られるとされています。

 

この“神経新生(ニューロン新生)”は、記憶や学習、認知機能の維持に関わると考えられている一方、どの程度の頻度で起きるのか、またその重要性については多くの議論があります。

 

特に、海馬と呼ばれる脳の特定の領域でニューロン新生が確認されており、ここが記憶や空間認識の形成、さらには言語学習に重要な役割を果たしていることが示唆されています。

 

本記事では、これまでの研究や新しい発見を基に、大人の脳におけるニューロン新生の存在についてまとめていきます。

 

参考研究)

Human Adult Neurogenesis: Evidence and Remaining Questions(2018/07/05)

Functions of adult-born neurons in hippocampal memory interference and indexing(2019/09/02)

 

関連研究)

Exercise for Brain Regeneration in Epilepsy

 

 

ニューロン新生の発見

 

1998年、スウェーデンの神経科学者Peter S. Erikssonとアメリカの神経科学者Fred H. Gageは「Neurogenesis in the adult human hippocampus成人の海馬における神経新生)」にて画期的な研究結果を発表しました。

 

細胞の増殖の程度(腫瘍)を調べるために患者に投与されていた化学物質「ブロモデオキシウリジン(BrdU)」を利用し、人間の脳内で新しいニューロンが生成されることを初めて直接的に証明したのです。(BrdUはDNA複製時に細胞に取り込まれるため、分裂中の細胞を特定することが可能)

 

この研究では、患者の死後に海馬組織を調査し、新しいニューロンが生成されていることが確認されました。

 

この発見は、それまで動物実験で得られていた成果を人間に拡張したもので、成人期におけるニューロン新生の存在を初めて直接示すものとなりました。

 

さらに、放射性炭素(14C)を用いたDNA「誕生日追跡法」も、ニューロン新生の存在を支持する重要な証拠です。

 

Spaldingら(2013年)は、14C濃度変化を基に、ニューロンがいつ形成されたのかを特定。(Dynamics of neurogenesis in adult humans. Cellより)

 

この手法により、成人海馬におけるニューロン新生が生涯にわたって続いていることが示されました。

 

また、同様の研究が他の脳領域(線条体;運動処理や意思決定に関与する脳の領域など)でも行われ、ニューロン新生が特定の条件下で発生している可能性が示唆されています。

 

 

神経新生を裏付ける複数の証拠

ニューロン新生の研究は、特定のタンパク質マーカーや細胞の形態的特徴の解析を通じて進められており、過去の研究では主に以下のようなことがわかっています。

  

1. タンパク質マーカーの発現 

ニューロン新生を示す特定のタンパク質マーカーが、ヒトの脳組織でも確認

0歳から100歳までの54人の海馬サンプルを調査し、これらのマーカーが成人期にも存在することを確認

一方で、新生ニューロンが年齢とともに急激に減少することも報告

2. 幹細胞の存在 

成人の海馬からニューロン生成能力を持つ幹細胞が分離

成人の脳においても新しいニューロンを生成する能力が存在することを確認

  

3. ステレオロジーによる評価

ステレオロジーと呼ばれる客観的な評価手法を採用し、海馬内の新生ニューロンが年齢に影響されないことが報告

この結果は、年齢とともにニューロン新生が減少するという従来の研究結果と異なる

ニューロン新生が年齢の影響を受けにくい可能性が示唆

 

4. DNA修復の影響の排除

DNA修復やメチル化といったプロセスが、ニューロン新生と誤認される可能性が指摘

しかし、BrdUや14Cを用いた研究では、これらの影響が十分に排除されており、ニューロン新生を正確に証明していることを確認

参考)

Benefits of dedifferentiated stem cells for neural regeneration(Bauer and Patterson, 2005)

Neural progenitors, neurogenesis and the evolution of the neocortex

(Huttner, 2014)

 

 

ニューロン新生の役割 

 

ニューロン新生が成人の脳で果たす役割は、記憶や学習、認知機能に関連すると考えられています。

  

特に、本研究による分析では以下の点が注目されています。

  

1. 記憶と学習 

動物モデルでは、新しいニューロンが記憶形成や空間認識に重要である

新しいニューロンが新しい環境を学ぶ能力に直接影響を与え、人間でも、こうした機能がニューロン新生と関連している可能性がある(マウスによる研究)

  

2. 聴覚学習との関連 

人間のニューロン新生が特に「聴覚学習(他者の話を聞いて情報を学ぶ能力)」と関連していることが示唆

この発見は、日常生活での会話やコミュニケーションにおける記憶力を支える基盤となる可能性がある

  

3. 認知機能の維持と治療の可能性 

高齢者や神経疾患患者において、ニューロン新生が認知機能低下の防止や回復に寄与する可能性が示唆

例)運動療法を通じてニューロン新生を促進することが、新しい治療アプローチとして検討される

  

ニューロン新生を人間の脳で直接観察するには技術的な制約が多く、動物モデルからの知見をどのように人間に応用するかが課題です。

 

現在進行中の臨床試験では、てんかん患者を対象に運動療法が認知機能に与える影響を調査しています。

 

これらの研究が進むことで、ニューロン新生を活用した治療法が実現することに期待がもたれます。

  

 

まとめ 

・DNA追跡法、タンパク質マーカー、幹細胞研究など、多角的な手法がニューロン新生を支持している

・特に聴覚学習がニューロンの形成に重要で、老化や疾患への治療可能性が示唆される

・運動療法や薬物治療を通じた認知機能回復の実現に期待が持たれる

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