私たちの生活には、仕事や人間関係、健康問題、経済的な不安など、さまざまなストレス要因が存在します。
空腹や筋肉痛などの短期的なストレスは、体が困難に対処するための自然な反応で、短時間で解消されることが多く、場合によっては体に良い影響をもたらす場合があります。
しかし、慢性的な痛みや会社での悩みごとなど、長期的なストレスは心身に悪影響を及ぼします。
今回のテーマは、そんな慢性的なストレスが体に与える影響についてです。
各研究からのまとめを以下に連ね、「こんなトラブルがあるな」と感じる部分があったら、何らかのストレスがあるサインとして、環境や習慣を見直すきっかけにしてもらえたら幸いです。
参考記事)
・Stress won’t go away? Maybe you are suffering from chronic stress(2024/10/22)
・The Effects of Stress on the Body, From Your Brain to Your Stomach(2023/04/16)
・HAIR LOSS: WHO GETS AND CAUSES
参考研究)
・Physiology, Stress Reaction(2024/05/07)
・THE IMPACT OF STRESS ON BODY FUNCTION: A REVIE(2017/05/20)
ストレスとは?
ストレスは、生活の中で発生する課題や要求に対する心と体の反応です。
脳が危険を感知すると、副腎(腎臓の上にある小さな器官)に信号を送り、コルチゾールやアドレナリンといったホルモンを分泌させます。
これにより、警戒心が高まり、心拍数や血圧、呼吸数、血糖値、筋肉の緊張が増加します。
このような体の変化は、危機的な状況に迅速に対応するための“闘争や逃走反応”を引き起こします。
古来、動物が極限状態であっても、獲物を追いかけたり逃げたりするために起こる反応だと考えられています。
短期的には役立つ反応ですが、ストレスが長期にわたって続くと、健康に様々な悪影響を及ぼします。
慢性的なストレスが体に与える影響
【呼吸器系:喘息や呼吸困難】
ストレスは、喘息や呼吸器系の問題に悪影響を及ぼします。
特に喘息を持つ人にとって、ストレスや強い感情は症状を悪化させる要因となります。
ストレスがかかると、呼吸が浅く速くなり、筋肉が緊張してしまいます。
こうした反応が繰り返されると、慢性的な呼吸困難や喘息の悪化に繋がる恐れがあります。
これを軽減するための簡単な方法の一つが呼吸を整えることです。
・鼻から息を吸い込み、口からゆっくりと息を吐く
・7秒間息を吸い込み、7秒間息を止めてから、7秒間息を吐く
・呼吸に集中する
・これを3回繰り返す
こういった呼吸を行うことで心と体をリラックスさせることができます。
【消化器系:胃腸のトラブル】
ストレスは、消化器系に深刻な影響を及ぼします。
過度に緊張するとお腹が緩くなることがあるように、ストレスホルモンが消化のプロセスを妨げ、便秘、下痢、消化不良、食欲不振、胃痛などの症状を引き起こすことがあります。
特に、過敏性腸症候群(IBS)と呼ばれる消化器疾患は、ストレスが引き金となって症状が悪化することが多いです。
IBSの主な症状には、腹痛、便秘、下痢などがあります。
小麦、高糖質、高脂質の食事を避けたり、定期的に運動を行うなど、健康的な食事や活動的な行動の実践、瞑想などのストレス解消法を取り入れることで、胃腸のトラブルを緩和することが可能です。
【髪の健康:脱毛や抜毛症】
ストレスは、髪の健康にも影響を及ぼします。
特に、離婚や親しい人の死といったストレスの多い出来事を経験した後に、脱毛が進行することがあります。
通常、ストレスが解消されると髪の抜ける量も減少し、通常のボリュームに戻るまでには約6〜9か月かかるとされています。
また、ストレスや不安が原因で「抜毛症(トリコチロマニア)」という、髪の毛を引き抜く癖が現れることもあります(人口の1〜2%程度)。
そういった特別な症状の場合は、認知行動療法や習慣逆転法などの治療法が有効ですが、普段の抜け毛対策には、やはり健康的な食事習慣が基本となります。
その上で、亜鉛やビタミンDなどの髪の毛に必要な栄養素をとると良いでしょう。
【心血管系:心臓病や高血圧】
ストレスは、心臓と血管に大きな負担をかけ、心臓病や高血圧のリスクを高めます。
ストレスによって血管が収縮し、血圧が上昇します。
長期間にわたって血圧が増加し続けると、心血管の負担が増え、高血圧、動脈硬化、心臓発作などのリスクが高まります。
ストレスの多い仕事環境や人間関係の問題が原因で心血管リスクが増大することが多く、特に労働者の10%〜40%が仕事関連のストレスを感じているとされています。
こうしたリスクを軽減するためには、以下の点を意識することが推奨されます。
・高塩分、高脂肪、添加糖分を少なくする(ジャンクフードとジュース、揚げ物が主)
・果物、野菜、全粒穀物をたっぷり含む植物ベースの食事
・毎週少なくとも150分の中程度の強度の運動
・禁煙
【頭痛や片頭痛】
ストレスは緊張型頭痛や片頭痛の原因にもなります。
特に、「締め付けられるような痛み」を感じる緊張型頭痛は、頭部や首、肩の筋肉が緊張することで引き起こされることが多いです。
ストレスが長引くと筋肉の緊張が増し、頭痛が悪化することがあります。
こうした症状には、頭痛薬の使用が役立つ場合もありますが、根本的な原因であるストレスの管理が大切です。
リラクゼーションやマッサージ、アロマテラピー、ヨガなどのストレス緩和法を取り入れることで、頭痛の軽減が期待できます。
【血糖値と糖尿病】
ストレスは、血糖値にも影響を与えます。
特にニ型糖尿病の患者にとっては、血糖値が高くなる原因となり、正常な生活習慣を継続することが難しくなることがあります。
糖尿病治療においては、食事や運動などの生活習慣を改善することが重要ですが、ストレスが原因でこの改善が難しくなることもあるため、日常的なストレス管理が必要です。
【食欲と体重増加】
短期的なストレスの場合、食欲が低下することが多いですが、慢性的なストレスが続くと、コルチゾールというホルモンが増加し、食欲が増進します。
特に砂糖や脂肪が多い食品に対する欲求が強くなり、体重が増加する傾向があります。
また、ストレス時に食べることで快感を得ようとする「感情的な食事」も増えることがあり、これも体重増加や不健康な食習慣に繋がることがあります。
健康的な高タンパク質や良質な脂肪を含むスナックを用意し、ストレス時に過食を防ぐための対策を行うことが大切です。
【睡眠障害:不眠症】
ストレスは、眠気を感じさせにくくする「過覚醒」という生物学的な状態を引き起こすことがあり、不眠症に繋がることが多いです。
不眠症は、睡眠に入ることが難しくなる、または眠り続けることが難しくなる睡眠障害です。
短期的なストレスであれば一時的な不眠症で済むことが多いですが、慢性的なストレスが続くと睡眠リズムが崩れ、長期的な不眠症や睡眠障害が引き起こされる可能性があります。
良質な睡眠を保つために、寝る前にカフェインやアルコールを避け、毎日同じ時間に就寝する、寝室を快適な環境に保つなどの睡眠衛生を整えることが重要です。
【認知機能:記憶力と学習能力の低下】
ストレスは記憶や学習に影響を与えることが研究されています。
特に教育の現場では、試験や評価、期限がストレスとなり、記憶力や学習効率に悪影響を及ぼすことがあります。
慢性的なストレスは脳の「海馬」という記憶を司る部分の機能に悪影響を及ぼすことが分かっています。
これを改善するためには、運動や十分な睡眠、マインドフルネスが推奨されており、集中力や記憶力の向上にも効果が期待されます。
【早期老化】
ストレスは細胞レベルでの老化を引き起こし、特に長期間続くと細胞の老化が加速することがあります。
この点についてのメカニズムは、ほとんど解明されていませんが、程よい空腹や運動などの良いストレスは、染色体の末端にある「テロメアの延長を抑え」させ、そうでない慢性的なストレスは、「テロメアを短縮」させる傾向にあることが分かってきています。
しかし、テロメアが残っていても寿命を迎えることもあるため、この分野においては今後の研究に期待が持たれます。
【性的健康:性欲の低下】
慢性的なストレスが原因で性欲の低下が見られることがあります。
性的な欲求は複数の要因によって決まりますが、ストレスはその一因として大きな影響を与えます。
リラクゼーションや健康的な生活習慣が、性欲改善に役立ちます。
【皮膚トラブル:ニキビや乾癬】
ストレスは、肌にも悪影響を及ぼし、特にニキビや乾癬の症状が悪化することがよくあります。
これは、食事による影響も強く、小麦の成分による免疫の撹乱が肌のトラブルに直結するなどの懸念が示されています。
肌の状態が悪化すると、さらなるストレスの原因となることが多いため、リラクゼーションやストレス緩和法が推奨されます。
まとめ
・慢性的なストレスは、体の各部位に様々な悪影響を及ぼす
・呼吸器系や消化器系、心血管系、精神的な健康、睡眠、さらには肌や髪にも悪影響をもたらす可能性がある
・健康的な睡眠習慣を確保し、定期的な運動(週に150分以上の運動)を心がけることが推奨されている
・リラクゼーション活動のリラクゼーション法(瞑想、ヨガ、漸進的筋弛緩法など)も有効とされている
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