古生代カンブリア紀に光の刺激(光スイッチ説)によって多様化した生物がいたように、人類の進化も太陽の光と深く結びついています。
兼ねてからの研究から、太陽光が私たちの祖先が直立二足歩行を始めた理由の一つであると考えられ、肌の色や髪質、目の大きさ、そして体内時計のリズムまでも形作ってきたと考えられるようになってきています。
しかし、産業革命以降の技術の進歩により、太陽の光に加えて人工の光も私たちの生活に入り込んできました。
今回のテーマは、そんな太陽の光の刺激が進化に与えた影響と、近代の人工照明による懸念点についてです。
以下にまとめていきます。
参考記事)
・Light Shaped Human Evolution, And It’s Still Changing Us Today(2024/10/24)
参考研究)
・The evolution of human skin pigmentation involved the interactions of genetic, environmental, and cultural variables(2021/04/07)
・The evolution of the upright posture and gait—a review and a new synthesis(2010/02)
・The epidemiology of UV induced skin cancer(2001/10)
ヒトの進化と光
私たちが日中活動し、夜に眠る習慣が残っているのも太陽光の影響です。
さらに、私たちの生物学の多くの側面にも光が関与しています。
最初の現生人類は、温暖なアフリカの気候で進化しました。
強い日光から身を守るために、直立二足歩行を始めたと考えられています。
立ち上がることで、直射日光を浴びる面積が減り、身体への負担が軽減されるからです。
また、巻き毛も強い日差しから頭皮を保護するために進化したと考えられています。
巻き毛は、直毛よりも厚い絶縁層を形成し、頭皮を守ります。
初期のホモ・サピエンスは、色素の濃い肌によって太陽から保護されていました。
日光は、葉酸(ビタミンB9)を分解し、老化を促進し、DNAを損傷させます。
これに対し、メラニンなどの働きによって肌を黒くすることで、そういった負の影響を防ぎ、適度な量の紫外線を取り込むことで、ビタミンDを生成するように適応した者が子孫を残していきました。
温暖な地域で生活する人々の肌が黒い理由も、このような光の刺激に対応するためであると考えられています。
しかし、温暖な地域を離れて光が弱い温帯地域に移住するにつれ、人々の肌は遺伝的に明るくなりました。
これにより、異なる地域で異なる遺伝子を通じて、肌の色が進化しました。
北極に近い地域では、紫外線が少なくなるため、濃い色素が必ずしも必要ではなくなり、より多くの光を取り込むために肌が明るくなっていったのです。
しかし、これは同時に、日焼けや皮膚がんに対する保護が弱くなるというデメリットももたらしました。
生活地域の変化と皮膚の色素
オーストラリアは、皮膚がんの発生率が世界で最も高い国の一つです。
これは、植民地時代の歴史によって、アングロサクソンやケルト系の人々が多く住んだためです。
彼らの肌は、太陽の光に対して防御機能となる色素が十分でないことから、日焼けしやすいうえ、日光が目の変異にも関係していることが分かっています。
高緯度地域出身の人々は、虹彩の色素が少なく、眼窩が大きいことがあります。
これにより、貴重な光をより多く取り込むことができるようになっているのです。
しかし、オーストラリアの強い日差しのもとでは、これが眼のがんリスクを高める要因にもなっています。
体内時計を変えることは難しい
光によって引き起こされる体内時計(概日リズム:サーカディアンリズム)は、進化の歴史の中で深く根付いたシステムです。
人間は本来、日中に活動するよう適応してきました。
明るい光の下では、色彩に富んだ視覚を持ち、暗い場所では視力が低下します。
また、聴覚や嗅覚が鋭くなることもないため、暗闇での生活には向いていません。
私たちの最も近い親戚であるチンパンジー、ゴリラ、オランウータンも昼行性で、夜に眠る習慣があります。
このことから、初期の人類も同様の昼行性だったと考えられます。
このライフスタイルは、おそらく霊長類が誕生した時代にまで遡るものです。
初期の哺乳類は基本的に夜行性で、恐竜から身を隠すために暗闇を利用していました。
しかし、恐竜が絶滅したことで、一部の哺乳類が昼行性へと進化する道が開かれ、霊長類もその例外ではありません。
私たちの24時間サイクルが揺るぎないのは、このリズムが進化の歴史に深く刻まれているからです。
産業革命以前から火、ろうそくが使用され、労働時間の効率化を測るためにオイルランプ、ガスランプ、そして電灯といった照明が発明されていきました。
日光に頼る生活から解放された私たちですが、睡眠不足やシフト勤務、時差ボケなど、日常のサイクルが乱れるという弊害が生まれ、これによって認知能力や身体能力の低下が懸念されています。
ここ数十年では特に、視力に悪影響が出てきています。
自然光に触れる機会が少なくなり、人工の光の下で過ごす時間が長くなることで、近視になる可能性が高まります。
25年の間で近視に関連する遺伝子が増加したことも分かっており、ある意味人間の適応能力に驚かされます。
短期的にもこのような影響が見られていますが、長期ではどのような結果を生むのかを予測することは難しいです。
いずれにしろ、光の刺激が多すぎる現代では、サングラスなどの目を保護するアイテムを活用することが推奨されます。
まとめ
・太陽光が人類の直立歩行や肌の色、髪質などの進化に影響を与えたと考えることができる
・日光に適応した体内時計(サーカディアンリズム)は、昼活動・夜睡眠のリズムを作った
・人工照明の普及による自然光の不足の影響により、遺伝子の影響による視力低下などを引き起こしている
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