【前回記事】
この記事では、著書“図鑑心理学”と自分が学んできた内容を参考に、歴史に影響を与えた心理学についてまとめていきます。
心理学が生まれる以前、心や精神とはどのようなものだったのかに始まり、近代の心理学までをテーマとして、本書から興味深かった内容を取り上げていきます。
今回のテーマは、「神経信号と電気システム」についてです。
神経信号
「人間の行動は、心や情動によるものではなく、それまでの経験や環境によるものだ」と主張したB.F.スキナー。
彼の研究の後、激しい論争の中で人の行動のメカニズムについての研究が盛んに行われていました。
1952年、イギリスの生理学者アラン・ホジキンら科学者たちは、心理学の役割について大きく影響を及ぼす神経信号の働きを明らかにしました。
神経機能の一つの要因が電気であることが最初に示されたのは18世紀頃、ルイージ・ガルヴァーニがカエルの延髄に電気を流し、脚が動くことを証明したことから始まります。
その後、アレッサンドロ・ボルタやフレデリック・ダニエルによって、一次電池などが発明されていくことになります。(詳しくはコチラ「電池の発明~アレッサンドロ・ボルタ~」、「ジョン・フレデリック・ダニエルとダニエル電池」)
電気刺激によって動物の体の一部が動くことが明らかになってくると、死体や切断された身体に電気を流して動かすという興行師まで現れるようになります。
それ以来、 脳と脳細胞(ニューロン)と電気や電気を利用した場(電界)について多くの研究で進展がありました。
電気システム
電気は、脳が体から伝わる感覚や感情などの情報を受容し、どのように筋肉に運動指令を与えるかなどの仕組みを解明するための重要な研究手段です。
脳波計(ElectroEncephaloGraphy)という文字どおり脳波を測定する装置の開発においても電気が利用されています。
しかし、20世紀に入っても、神経細胞が電気信号を生成するためのメカニズムがどのようなものであるかは大きな謎とされていました。
あるとき、イギリスで生理学の研究をおこなっていたアラン・ホジキンとアンドリュー・ハクスリーら研究者たちは、イカの神経からこの謎を解き明かす突破口を発見しました。
彼らが研究対象にイカを選んだのは、この生物の軸索が巨大で観察しやすかったためです。
(※ニューロン=細胞体、樹状突起、軸索、神経終末からなる神経細胞)
軸索は、細胞体とシナプスをつなぐ道のようなもので、細胞から出力された情報をシナプスに送り、他の細胞に情報を伝達する役割があります。
ホジキンとハクスリーは、この巨大な神経を電位固定と呼ばれる手法を用いて観察を行いました。
これは、軸索の電圧を変化させることで、荷電粒子(イオン)やさまざまな化学物質がどのように神経に出入りするのか、また様子に変化が生じるかを測定するものです。
研究は1935年に始まりましたが、第二次世界大戦によって彼らの研究は一旦中止。
戦後になると、ドイツ生まれの生理学者ベルナード・カッツが神経末梢部における伝達物質の発見に貢献し、研究チームは1952年にそれらの成果を発表しました。
これらの研究が現在の神経伝達のシステムの解明につながっていきます。
イオンチャネルとニューロンの働き
ニューロンは、刺激がない場合は何の働きもしませんが、信号を受け取ると、ナトリウムイオン(Na+)とカリウムイオン(K+)と塩化物イオンによって電位が変化し、軸索に伝わっていきます。
ニューロンが静止しているとき、ニューロン内部の電荷はマイナスであるのに対して、外部の電荷はプラスになっています。
これは、細胞の内側と外側の間にリン脂質が存在し、イオンの細胞内への出入りが遮断されていることによるものです。
しかし、脂質の所々にNa+チャネルやK+チャネルといったイオンを通すためのゲートのようなものが存在するため、刺激によって扉が開くことでイオンが出入り可能になります。
今、刺激によって扉が開くと言いましたが、正確にはK+は、カリウムイオン漏洩チャネルによって自由に行き来することができます。
(また、Na+・K+ポンプというものも存在し、細胞の中と外でNa+とK+を調整する役割がありますが、今回は詳しい内容は割愛します。)
ニューロンの安静時には、細胞内にはK+が多く、細胞外にはNa+が多い状態となっています。
このため、K+は、カリウムイオン漏洩チャネルを通じ、濃度の薄い細胞外に移動して濃度を保とうとします。
陽イオンであるK+が細胞内から出ていくことで、細胞内の電位はマイナスに傾きます。
このときの細胞内の電位を“静止電位”と言い、細胞の外側を0ミリボルトとしたとき、細胞内はおよそ-70ミリボルトとされています。
さて、この状態で興奮が軸索に伝わると、ニューロンからの化学刺激によってNa+チャネルが細胞の主要部分に近い軸索膜で開きます。
これにより、Na+は細胞内にわずかに流入できるようになります。
電位は軸索のこの部分で変化し始め、-70ミリボルトだった細胞内の電位が-69、-68……と上昇し始めます。
電位が一定の臨界値(-55ミリボルト)を超えると、効果が加速して他のNa+チャネルが一斉に開きます。
このときの電位(膜電位)が正の値に転じたときの、静止電位からの変化量を“活動電位”と言います。
もし、電位が臨界値を超えない場合、活動電位は発生することはなく、グラフのような急な上昇はみられません。
やがて、細胞の外側の電荷がマイナスに、内側の電荷がプラスに変わると、軸索の極性は切り替わります。
この突然のスイッチが入った後は、Na+が細胞内から放出され、ゆっくりと電位が下がって静止電位が回復されることでシステムは静止状態に戻ります。
さまざまな点でこのプロセスが繰り返されると、「活動電位」のスパイクが生じます。
このスパイクが神経インパルス(神経細胞内で情報を伝達するための主要なメカニズム)なのです。
まとめ
・アラン・ホジキンらは、神経信号の働きを明らかにした
・戦後になると、神経伝達物質の発見や電位の検出技術の向上によって、神経細胞のメカニズムが分るようになってきた
・神経細胞による電気信号の伝達は、人間の心理を解明する手助けになるかもしれない
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