【前回記事】
この記事では著書“図鑑心理学”と自分が学んできた内容を参考に、歴史に影響を与えた心理学についてまとめていきます。
心理学が生まれる以前、心や精神とはどのようなものだったのかに始まり、近代の心理学までをテーマとして、本書から勉強になった内容を取り上げていきます。
今回のテーマは「自閉スペクトラム症」についてです。
自閉症とアスペルガー
自閉スペクトラム症(自閉症)は、現在では非常によく知られた病名です。
他者とのコミュニケーション能力が低く、社会的な交流や柔軟な思考が極端に苦手であったり、限定的な行動や反復行動がみられる病気です。
時代によって自閉症や高機能自閉症などと呼ばれ、症状の定義が曖昧なことから“自閉スペクトラム(境界線・範囲が明確ではない状態が連続している状態)症”と呼ばれています。
この病症のひとつにアスペルガー症候群があります。
1930年代に初めて、「自閉症は児童期に発症する特異な障害である」ことを発表したオーストリアの医師、ハンス・アスペルガーに由来した名前です。
自閉症(Autism)という用語そのものは、この障害が知られる以前から用いられていました。
この用語は、 ギリシャ語の“自己(autos)”を表わす単語に由来し、1910年にオイゲン・ブロイラーが統合失調症の患者が自己の内的世界に引きこもっている様子を説明するのにこの用語を用いました。
1938年、ハンス・アスペルガーは、児童期に現れる社会性を欠いた行動を説明する際にこの用語を使いました。
自閉症は言語によるコミュニケーショが著しく困難であるのに対し、アスペルガーの患者は、 言語・非言語を介したコミュニケーションが可能でした。
しかし、いずれも彼らは決まって外部の世界を避け、自らを自閉的な存在であり続けようとしているようでした。
また、長時間にわたって反復的な課題を遂行する傾向にあり、対象物を順序通りに並べたり積み重ねたりすることが多いことも共通する特徴でした。
現在の先進医学なら、彼が診察していた子どもの多くは、アスぺルガー症候群と診断されるでしょう。
話すことも問題を解くことも、他の人に比べてすぐれてはいなくても同じ程度にはできますが、彼らは社会的相互作用が苦手で、なじみのない状況には明らかに苦痛を感じているようでした。
従来の自閉症という用語は、今日の臨床現場では最重度の症状に対して用いられ、その場合、精神症状と運動技能の低さが顕著であるとされています。
自閉スペクトラム症
人口のおよそ1%の人が自閉スペクトラム症(自閉症)の症状を示すと推定されています。
症状は生後6か月頃に見られますが、一般に4歳頃に診断を受けます。
そうした人たちは発達障害であり、自己や主体の意味を発達させ始める時期になると、自閉症患者と健常者との違いが現れてきます。
自閉症の障害は、ゲシュタルト心理学で指摘されているように、知覚されたものをカテゴリー化する力が弱いことに原因があります。
【ゲシュタルト心理学】
ゲシュタルト心理学は、「人は、もの事を一部ではなく全体で捉える」という考えのもとで生み出された心理学の分野です。
例えば、車や自転車で走行している際、家や歩道を一つ一つ認識するのではなく、全体のまとまりと認識して運転しているはずです。
また、ひとつの文字を注視し続けていたり同じ文字を書き続けていると、「こんな字だったっけ?」と、全体性が失われてしまう現象(ゲシュタルト崩壊)も、ゲシュタルト心理学の分野にあたります。
後に、マックス・ヴェルトハイマーやヴォルフガング・ケーラー、クルト・レヴィンらによって理論が確立されていきます。
マックス・ヴェルトハイマー(1880~1943年)
本書では、このカテゴリー化の困難さを、レストランでの食事を例にして紹介されています。
「自閉症でない人は、レストランの一室にテーブルや椅子、ナイフ、フォーク、 メニューなどが置かれているところを認識することができます。
すべてのレストランはそれぞれ違っていますが、いくつかの点で共通しています。
自閉症の人は、人の助けがなければそのことを理解できません。
初めてのレストランに行くたびに、あるいは初めての経験をするたびに新たに処理がなされる必要があり、そうすることでようやく自閉症の人は理解したり、快適に感じたりすることができます。」
つまり、レストランで個別具体化された情報が、他のシチュエーションに活かすことができないということです。
新しい場所や事柄に恐怖や困惑を覚えることがあるため、自分に馴染みのある場所や限定的に興味のあるものに関心を示すことで快適さを求めているとされています。
サヴァン症候群
サヴァン症候群は、知的障害や発達障害などを持ちながらも、特定の分野に突出した能力を発揮することができる症状です。
桁の多い数の暗記や日時の正確な記憶、一度聞いた曲を即座に演奏するなど様々です。
自閉症患者の中にもごく一部にサヴァン(天才)が現れることがありますが、これらの能力は、共感覚と関係していると考えられています。
共感覚は、ある刺激に対して通常の感覚だけでなく異なる種類の感覚をも生じさせる特殊な知覚現象のことです。
31歳で後天的にサヴァン症候群になったジェイソン・パジェット氏。
強盗に襲われ脳損傷に陥った彼は、その後「すべてのものが、幾何学的な図形として見えるようになっていた」と述べ、数理学や幾何学アートの世界に没頭するようになりました。(31歳で天才になった男より)
これは脳の損傷によって、脳内のなんらかの領域に異常をきたし、共感覚が現れたのではないかと考えらています。
パジェット氏の場合は特別ですが、共感覚者の中には、音に味覚に感じたり、数字を色で感じることもあるそうです。
これと同じように、自閉症のサヴァン症候群患者は、社会的なコミュニケーションに用いられる脳の特定の領域が別の形で利用されているのかもしれません。
まとめ
・自閉スペクトラム症(自閉症)は社会的な交流や柔軟な思考が極端に苦手であったり、限定的な行動や反復行動がみられる病気
・この障害は、知覚されたものをカテゴリー化する力が弱いことに原因があると考えられている
・中には、知的障害や発達障害などを持ちながらも、特定の分野に突出した能力を発揮する者もいる
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