【前回記事】
この記事では著書“図鑑心理学”を参考に、歴史に影響を与えた心理学についてまとめていきます。
心理学が生まれる以前、心や精神とはどのようなものだったのかに始まり、近代の心理学までをテーマとして、本書から勉強になった内容を取り上げていきます。
今回のテーマは「アドラーとコンプレックス」についてです。
アドラーの生い立ち
1870年2月7日、オーストリアの裕福なユダヤ人家庭に生まれたアルフレッド・アドラー。
幼い頃の彼は、くる病(代謝異常による骨の石灰化障害)に苦しみ、外で満足に体を動かすことができませんでした。
そういった境遇から、元気に遊ぶ兄を見て劣等感を抱きながら成長していきました。
病を克服した彼は、弟がジフテリアで他界したことや、自身が肺炎にかかって生死をさまよった経験から医師を目指すようになりました。
1888年にウィーン大学の医学部に入学、1895年に卒業すると、中下層階級の人が多く住むウィーンの地区にて開業医として診療所を始めます。
近くには遊園地があり、患者として軽業師や大道芸人が多く訪れるようになりました。
アドラーは、彼らを診察していくうちにあることに気づきます。
それは、彼らは皆幼い頃は病弱で、何らかの“劣等感”を抱いて成長してきたのです。
それらを克服するために努力し、強みに変える者もいれば、弱みを捨て別の一芸に秀でる者もいました。
そういった過去が原動力となり、彼らの行動に影響していると考えるようになったアドラー。
彼は、次第に精神医学としての道を志すようになります。
当時ウィーンでは、フロイトの精神分析、とりわけ彼が著した“夢判断”が話題となっていました。
夢判断は、人間が抱える無意識が夢として反映されるとして考察された論文です。
無意識という概念は、フロイトやユングを経て広く受け入れられるようになる概念ですが、当時はまだ新しい考え方でした。
アドラーがフロイトの勉強会に参加したことをきっかけに、二人はともに研究するようになっていきます。
1914年になると第一次世界大戦が勃発します。
アドラーはここで精神科医として従軍し、兵士の精神状態を分析し、負傷者が再び戦争に参加できるかどうかを判断する任務に当たっていました。
ここで神経症の兵士らと接した経験が、彼が“人間性”とは何かを考えるきっかけになっていきます。
フロイトもこの第一次世界大戦に参加した際、人間性について考察しましたが、二人の考えは相反するものでした。
フロイトが、「人間には攻撃欲求がある」と考えたのに対し、アドラーは、「人間は仲間である(共同体感覚)」という考えに至りました。
これは、“戦争という大義名分があったとしても、多くの兵士は敵兵に対して引き金を引くことにためらいがある”ということに気づいたからです。
フロイトは「人はなぜ戦うのか」に着目し、アドラーは「戦わないために人はどうすべきか」という考え方の違いが生まれたことも注目すべきポイントです。
これらのことから、“人の行動全てには目的がある”という目的論を提唱していくことになります。
この考えは、コンプレックスを抱えることでさえも、目的があるということに他なりません。
例えば、「人と話すのが苦手」という人は、「人と話さなければ傷つく心配もないから、話すのが苦手ということにしておこう」という状態を作り出しているに過ぎないのです。
だったら、アドラーが過去に接してきた軽業師や大道芸人のように、コンプレックスをバネにして行動した方が、人生をより善く生きることができるだろうと言えます。
逆に、「ネガティブな情動をもたらす劣等感があると、人 生において挑戦すべき課題に取り組むのを断念してしまう」とアドラーは述べています。
過去に何があったかは大きな問題ではなく、これからどうすれば良いかを考え行動することが、コンプレックスと上手く付き合う手段となり得るでしょう。
アドラーによれば、神経質な人ほど劣等感に苦しみます。
彼らは成長しても、 子どもの頃に感じた劣等意識をまだ突き破れずにいます。
例え何かで成功して他者から高い評価が得られても、 安心感はもたらされることはなく、また次の課題に挑戦していくことになり、劣等感を払拭することはできないのです。
それとは対照的に、優越コンプレックスをもつ人は、 次々に目標に向かって突き進みたいという欲求にかられます。
まずは、こういったコンプレックスを克服するためには、以下のようなアプローチが有効とされています。
①劣等感を受け入れる
理想とかけ離れた自分やできない自分を自覚し、事実だけを整理することが第一です。
例1)
自分は太っていてダメだ→×
自分は太っている→⚪︎
例2)
自分は勉強ができず順位が低くて頭が悪い→×
定期テストの順位が〇〇位だ→⚪︎
数学が苦手→⚪︎
②具体的な目標を決める
現実と理想を埋めるための目標を設定を決めます。
いきなり理想通りにはいかないので、スモールステップを心がけることがポイントです。
例1)
このズボンを履けるようにする
ウェストを〇〇cm短くする
例2)
次のテストで最低80位以内、最高60位以内
次回は数学のテストに絞って90点以上をとる
③正しい努力を継続する
体重を減らしたいなら、食べる量を減らすか、食べた分だけ運動をする……。
勉強ができるようになりたいなら、できるまで反復する時間を作る……。
目標から逆算して、どれくらいのペースで行動するかを決めていきます。
例1)
野菜の割合を増やす
夜6時以降は食べない
毎朝(または毎晩)家から公園までを散歩する
例2)
その日に習ったことはその日のうちに復習する
説明できるようになるまで寝ない
夏休みの課題は1日に〇〇ページずつ進める
など、無理せずできる範囲の行動を決めて、実行していきます。
この時、結果がすぐに現れなくても、行動している自分を褒めることが大切です。
また、新しいことに手を出すのではなく、決めたことを淡々と進めていくことも重要です。
④他人と比較しない
例え本人にやる意思があったとしても、周りからの影響でやめてしまうことはたくさんあります。
あの人に比べて自分はまだ太っている……、クラスでトップの子のように勉強ができない……。
などなど、考えなくいいことに気を取られてモチベーションがダウンしてしまう。
そんなこと考えているうちに、自分の行動がばかばかしくなり、もっと楽なものに目が移っていつの間にかやめてしまうことなんてざらです。
SNSなど、ごく一面だけを綺麗に写しているような媒体から得るものほとんど毒です。
比較することは悪いことではありませんが、比較してやる気が落ちるくらいなら最初から見ない方がいいです。
個人的な経験からも、この一連のアプローチはとても有効に感じます。
自分の学習塾の勉強においても、①今の自分を受け入れ→②次の目標を設定し→③できるまで行動する、これをやって成績が落ちた生徒は見たことがありません。
逆に、できないことに向き合わず(返却されたテストを捨てる)→ダラダラと与えられた時間を過ごし→分かったふりをしている場合は言わずもがなです。
まとめ
・アドラーは、過去の劣等感を克服することが、何かを成し遂げる原動力と考えた
・フロイトが、「なぜ人は争うのか」と考えたのに対し、アドラーは、「どうしたら争わずにすむか」を考えた
・過ネガティブな劣等感を嘆くよりも、コンプレックスをバネにして行動した方が、人生をより善く生きることができる
コメント