この地球上で最も生命力が強い生物は何でしょう。
ゴキブリ、プラナリア、はたまた極限環境に潜む深海生物?
生物に多少なりとも興味がある人であれば、きっとクマムシを想像するのではないでしょうか。
摂氏-272度で凍らせても、真空にさらされても、人間の致死量の500倍のX線を浴びても、秒速825メートルの弾丸の先に詰められても生き延びることができます。
クマムシの生命力は宇宙でもその能力を発揮します。
この能力を人の細胞にも応用することができたら……。
今回紹介するのは、Science Newsにて紹介された、クマムシについての研究です。
参考記事)
Tardigrades could teach us how to handle the rigors of space travel
参考論文)
Desiccation-induced fibrous condensation of CAHS protein from an anhydrobiotic tardigrade 他
今日クマムシは、住宅、森、山など様々な場所で見つけることができます。
彼らは湿った苔に覆われた場所を好みますが、そういった場所は毎年何度も乾燥することが分かっています。
かつて海の生物が長い間、鱗を獲得するまで陸に適応することができなかったように、乾燥は、細胞に損傷を与えどの生物にとっても壊滅的な影響を与えます。
乾燥することは、高レベルの過酸化物質や活性酸素による障害を引き起こします。
細胞膜にしわやひび割れが起こり、細胞のDNAを切り刻んでしまいます。
クマムシは、これらの損傷に対処するために特別な戦略を持つようになりました。
彼らは、乾くにつれて他の動物に見られるものとは異なるタンパク質を生成します。
そのタンパク質は、水分があるうちは柔らかく、形がありません。
しかし水分がなくなってくると、タンパク質は自己組織化して繊維状になり、ダンボールに詰める梱包材のように細胞内を満たします。
こうすることで、細胞膜やそのほかのタンパク質を支え、それらが壊れたり広がったりするのを防いでいます。
また、クマムシ一種(ヨコヅナクマムシなど)には、地球上の他の生物には見られない特別なタンパク質も生成するものもいます。
Dsup(ダメージサプレッサー)と呼ばれるこのタンパク質は、活性酸素などからDNAを物理的に保護すると考えられています。
Dsupタンパク質は、ヌクレオソーム(ヒストンに巻きついたDNA)を雲のように取り囲み、酸化による損傷からDNAを守る働きをしています。
科学者たちは、このDsupタンパク質に注目し、このたんぱく質の遺伝子を一つ細胞に挿入する実験を行っています。
こうして作られた細胞の多くは、通常耐えられないレベルのX線や過酸化物質、化学物質に耐性を持つことが明らかになりました。
また、Dsupの遺伝子を取り込んだ植物(タバコ植物)は、化学物質や紫外線からのDNA損傷を防いだ他、それを持たない植物よりも、成長速度が速くなる等の効果も見られました。
これらの結果は、細胞を殺す化学療法に耐性をつけたり、有害な化学物質や放射線への曝露によって引き起こされるアポトーシス(細胞の自己破壊)を阻害することに役立つとし、今後の研究に期待が持たれています。
未来、人類が宇宙で生活するようになった時、「この小さな虫がいなかったら、私達はこのように宇宙で生活できていなかったんだよ」なんて言われるのかもしれませんね。
以上、クマムシが持つ特別な遺伝子についての話でした。
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