イタリアの物理学者エヴァンジェリスタ・トリチェリは、“真空”に関する実験で自然科学に大きな発展をもたらした人物であり、“気圧”を発見した人物です。
今回はアリストテレスの仮説では説明できなかった、“真空”と“気圧”についてまとめていこうと思います。
アリストテレスの真空嫌悪説
自然は真空を嫌う。
古代ギリシャの哲学者アリストテレスは、空気や水などあらゆる自然は真空を嫌い、なにもない空間を作らないようになってると考えました。
これを元にアリストテレスは、吸い上げ式ポンプの原理を説きました。
吸い上げ式ポンプが水を地下から地上に上げるのは、ポンプを引いてできたすき間(真空)を埋めるために水が移動するからであるという説です。
ガリレオの疑問
10m以上になると水が吸い上がらないのは何故…?
これに疑問を呈した人物がガリレオ・ガリレイです。
ガリレオは、ある一定以上の深さを掘った吸い上げ式ポンプでは水が出てこないことに疑問をもちました。
水がでなくなってからでもポンプは押し引きできます。(何もない空間をつくれる)
この空間を埋めるための水の移動が起こらないということは、アリストテレスの理論では説明のできない事象だったのです。
トリチェリを弟子入りさせる
トリチェリよ…、ワシのところに来い!
ガリレイが真空の研究を始めたのは晩年のことでした。
しかし体の衰えもあり以前のように研究ができないことから、自身の研究の後継者を探していました。
そこで白羽の矢が立ったのが、エヴァンジェリスタ・トリチェリです。
ガリレオはトリチェリが投射体の研究をしているところに目をつけ、それをきっかけに彼を弟子入りさせます。
真空の仮説を彼に余すことなく伝えたガリレオ。
その数カ月後、彼に研究を託すかのようにこの世を去ってしまいます。
気圧の仮説
空気には重さがある…?
トリチェリは、ガリレオからもらったヒントからある仮説を立てます。
それは、
「空気の重さによって、ポンプから吸い上がる水の量が決まる」
というものでした。
実際に検証しようと思うも、ひとつやふたつの井戸では参考になりません。
10m以上の井戸をいくつもつくることは物理的に難しいことでした。
ここでも役に立ったのはガリレオの教えのひとつ“水銀”でした。
人類初の人工真空
同じ体積で比べると、水銀は水の13.6倍もの重さがあります。
空気の重さを調べるのに水では10m以上の管が必要なところ、水銀なら1m前後の管で十分です。
これを基にトリチェリはある実験をはじめます。
“水銀で満たされた管”と“水銀で満たされた容器”を用意し、水銀がこぼれないように管を頭から容器に沈める。
すると、満たされているハズの水銀の管に空間ができました。
この空間こそ、人類初の人の手によって作り出された真空です。
真空嫌悪説の否定
これによって、吸い上げ式ポンプから水が吸い上げられるのは、真空を嫌って水が隙間を埋めようとするのではないことが明らかになりました。
アリストテレスの真空嫌悪説は否定されるとともに、水を押し出す力は大気の圧力によるものであることも判明します。
これはアリストテレス以降信じられていた今までの自然観を覆すものでした。
師であるガリレオが天動説を唱えたときと同じように、これは神の教えに逆らうものです。
世間から糾弾されることは明らかであったため、この事実が判明してからもしばらくの間は発表されませんでした。
結局この研究が世間で広く認知されるようになったのは、トリチェリ(享年39歳)が腸チフスでこの世を去った後でした。
彼の名は、圧力の単位のひとつTorr(トル)として今でも根付いています。
Torr=水銀柱を1㎜押し上げる圧力
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