コレステロールは細胞膜や体の働きを微調整するホルモンや、脂肪消化吸収する胆汁酸を形成するために必要な物質です。
髪や皮膚を滑らかにする働きもあり、コレステロールが足りないと血管の細胞が弱くなって脳内出血などが起こりやすくなったりします。
また、善玉コレステロールと悪玉コレステロールは長い間、血管や心臓と深い関わりがある化合物として知られてきました。
過去10年間の間で、善玉コレステロール(HDL:高密度リポタンパク質)の影響に関する研究では、しばしば矛盾した結果が得られることが確認されています。
では、その矛盾から見えてきたことは何なのか。
今回は、2023年1月12日にScience Newsにて取り上げられた、善玉コレステロールに関する大規模研究についてのお話です。
参考記事)HDL ‘good’ cholesterol isn’t always good for heart health
低レベルの善玉コレステロールの影響
2022年11月に行われた大規模研究では、アメリカに暮らすおよそ3万人の白人と黒人(いずれも45歳以上)を対象に、善玉コレステロールとその影響について10年間の追跡調査を行いました。
研究では、高い値の善玉コレステロールは、黒人と白人の参加者の心臓病に対する保護とは関連はしていなかったことが示唆されています。
一方、低い値の善玉コレステロールについては、白人に対しては、心臓病のリスクが高いことが明らかになりました。
この研究は、黒人と白人を対象とした低レベルの善玉コレステロールに関するリスクの違いを発見した最初の研究です。
善玉と悪玉
コレステロールは長い間、善玉と悪玉として説明されてきました。
悪玉コレステロール(LDL:低密度リポタンパク質)は、心臓病などに対してより高いリスクがあると……。
このように定義された根拠となったきっかけは、1948年に米国政府主導で行なわれた、“Framingham Heart Study”によるものです。
その後1977年に行われた、inverse relationship between HDL cholesterol and coronary disease risk にて、善玉コレステロールと冠動脈疾患のリスクとの間に反比例の関係があることが報告されました。
しかし、それ以降の測定技術の発達に伴う研究によって、“善玉コレステロールの値が高い=心臓の健康に良い”という前提が覆されてきました。
参考1)Good cholesterol may not be what keeps the heart healthy良いコレステロールは心臓を健康に保つものではないかもしれない) 2012年5月
参考2)Cholesteryl Ester Transfer Protein Inhibition for Preventing Cardiovascular Events(要約:HDL コレステロールを増加させるために開発された種類の薬剤は、その数値を大幅に増加させた→しかし心血管リスクに関しては違いがなかった)2019年2月
善玉コレステロールは、余分なコレステロールを動脈から肝臓に運び、排泄します。
これによって、コレステロールが動脈壁に蓄積するのを防ぐとされます。
体内からコレステロールを取り除くことは、HDLが行う多くの仕事の一つに過ぎません。
HDLには、心血管疾患を防ぐと思われる炎症作用やその他の方作用もあります。
しかし、特定の状況ではコレステロールを受け取る能力が低下し、炎症の一因になることもあります。
研究の第一人者であるRohatgi氏は「状況や要因に応じてHDLの役割が変化する点が、HDL粒子の研究を難しいものにしている」と言います。
先に紹介した大規模研究では、採取的に追跡を行なうことができた24,000人の参加者のうち42%が黒人であり、冠状動脈性心臓病を発症していませんでした。
【心臓発作または死亡者数】
・黒人参加者10,095人中664人
・白人参加者13806人中951人
LDL(悪玉)コレステロールの値の上昇は、過去の研究と一致するように、冠状動脈性心臓病のリスクが高いことが判明しました。
一方、HDLコレステロールの値の上昇については、必ずしも心臓病を保護する役割があるわけではなく、低い値の場合は白人のリスクが高いということを予測するのみでした。
この発見は、善玉コレステロールが心血管疾患リスクに対する判断材料として再検討する必要があるかもしれないことを示唆しています。
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