(↑前回記事)
前回の記事では“労働力の価値と労働の価値”についてまとめていきました。
労働者も資本家も労働力を売買しているはずなのに、お金は労働力ではなく労働に対して支払っているということが分かりました。
この微妙な差が、資本家による搾取の実態を見えにくくしているとマルクスは主張しています。
今回の記事は、労働者に支払われる給料についての話です。
時間給や日給など、現代でも身近に感じる内容も交えてまとめていきます。
お金を盗まれる資本家
今回の話(資本論では25章中の18、19章あたり)では、まずマルクスは労働力の売買について言及しています。
労働力の売買は、通常1日、1週間、1ヶ月と期間を設けて行われます。
資本家が労働者と契約した期間は、持続する労働に対してお金を支払っていることになります。
契約期間の間は、労働者をなるべくたくさん働かせることが資本家の目的です。
労働者が働くべき時間に働かなかった場合、資本家が労働者に賃金が盗まれていると言えます。
現代で例えると、営業マンが営業をしながら公園で必要以上に休んでいた場合や、営業に行ったふりをして暇を潰していた場合などです。
労働者が資本家に不利益を与える数少ないパターンですね。
だからこそ資本家は、労働者に少しでも長く、少しでも多くの労働をしてもらう必要があるのです。
時間賃金による搾取
しかし労働者は“労働と価格や賃金の違いなどは気にしていない”とマルクスは言っています。
労働者が関心を持つのは受け取る給料の額のみであって、資本家に与えた利益や労働時間についての細かい計算は意識しない……。
一定の賃金さえ払ってもらえればそれでいい……。
と考える労働者が多くいたことが、彼の分析から読み取れます。
例えば、1日8時間の労働で8,000円の日給を受け取る労働者がいたとします。
一例ではありますが、このとき資本家は最初の4時間分で労働者に払う給料8,000円分を回収し、残りの4時間は剰余価値として8,000円を手に入れます。
このとき資本家が、更に剰余価値を欲しいと思ったときにとる行動は何でしょう?
そうです、労働者に残業(労働時間の延長)をさせるのです。
資本家はこう言います。
「あと1,000円払うからあと2時間多く働いてくれないか?」
通常、労働者の日給を時給に換算すると1,000円です。(日給8,000円÷労働時間時間8時間)
しかし、残業による時給はその半分の500円です。(残業代1,000円÷残業時間2時間)
資本家の申し出は労働者にとって明らかに不利です。
ある労働者はこの申し出を辞退しますが、多くの労働者は
「一定の賃金さえ払ってもらえればそれでいい……。」
と考え、喜んでこの申し出を受けます。
結果、残業をすればするほど資本家が儲け、労働者が損をする仕組みが上手く出来上がっているのです。
出来高払いなら労働者に有利?
出来高払いは一定の作業の成果に対して支払われる賃金形態です。
労働者にとってみれば、働けば働くほど貰える賃金を増やすことができり比較的フェアな給与体系に思えます。
しかしマルクスは、出来高払いは資本家にとっても最も都合の良い賃金形態であると言っています。
先ほどの例をもとにして例えます。
1本50円で売られているペンを1時間で40本作ることができるAさんがいます。
彼は8時間で320本のペンを作ることができます。(50円×320本=16,000円の売り上げ)
先程の例に合わせると、日給だと8,000円が妥当です。
もし資本家が出来高払いとして設定するならば、1本25円が妥当です。(日給8,000円÷総本数320本)
出来高払いでも時間給にしても、Aさんは本来1日に16,000円の価値を生み出す“労働力”があります。
しかしどちらの場合も労働力ではなく、行った労働に対しての価格でしか賃金を受け取れないことが分かります。
(前回のおさらい)
労働力の価値=労働者が身につけている技能や体力など、働くこと自体のこと
労働の価値=それら技能や体力を使い、労働者が働いたことによって生み出される価値
労働力ではなく労働に対して賃金が支払われている以上、出来高払いになったとしても労働者から搾取する構造は変わっていないのです。
“出来払いは一定の時間に対して支払われる賃金が形を変えたものでしかない”とマルクスは資本論にまとめています。
労働者が労働者を搾取する
またマルクスは、資本主義社会における中抜きの構造も予言していました。
彼は資本論の中でこう述べています。
「出来払いが馴染んでくると、資本家と労働者の間に中間搾取者が入り込む隙を作ってしまう。」
…と。
つまり“仕事の下請け”が生まれるというわけです。
1個25円で受けたペンを製造する仕事を、1個20円で下請けに仕事させる…。
資本家が労働者に与えた仕事が、労働者が別の労働者に割り振ることができるようになります。
この構造は、資本家が労働者から搾取するのではなく、労働者が労働者を搾取するという負のスパイラルを生み出していることが分かりますね。
マルクスは、これができるのは出来高制のおかげであると言っています。
まとめ
・資本家は労働者の労働力を一定期間買っている
・労働者がその期間内でサボることは、資本家から賃金を盗んでいる
・しかしそんなことを考える労働者は少ない
・資本家はそんな労働者の意識を使って上手く労働させる
・労働力ではなく、労働に対して賃金が支払われている限り搾取されている状態
・出来高払いでもそれは変わらない
・むしろ資本家にとって都合が良く、労働者が労働者を搾取する賃金形態と言える
以上、“時間賃金と出来高払いでの搾取”でした!
時間外労働や中抜きなど、現代にも通じる生々しい労働関係の話でしたね。
今ではサービス残業という、マルクスもびっくりのスペシャルな労働状況もあります。
本人がそれを楽しんでいるならまだ良いですが、上司や同僚からの圧力であったり、単なる義務感でやっているなら避けるべき状態ですね。
もし今の待遇や賃金に不満があるなら、自分が生み出せる価値(労働の価値)を整理してみると、新しい生き方が見えるかもしれません。
なかったとしても、何をやったら自分に価値が生まれるのかに気づくきっかけになるかもしれませんね。
いずれにしろ、お金を貰えればそれでいいという考え方では、今の社会は生きにくいよう感じます。
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