科学

『バイオエナジェネティックエイジ』とアルツハイマー病予防との関係

科学

近年、アルツハイマー病のリスクは主に遺伝や加齢によって左右されると考えられています。

 

デューク大学による最新の研究により、食事や運動など個人の行動が、アルツハイマー病のリスクに対して大きな影響を及ぼす可能性が示唆されました。

 

本研究では、従来の年齢とは異なる新たな指標、すなわちbioenergetic age(バイオエナジェネティックスエイジ)に焦点を当て、これがアルツハイマー病リスクの正確な評価や予防策の策定に寄与する可能性が明らかになりました。

 

以下に研究の内容をまとめていきます。

 

参考研究)

Individual bioenergetic capacity as a potential source of resilience to Alzheimer’s disease(2025/02/24)

 

 

研究の主な内容

bioenergetics(バイオエナジェネティックス)は、生体内でのエネルギー変換に焦点を当てた生化学の分野であり、バイオエナジェネティックスエイジは、細胞がどれほど効率的にエネルギーを生成しているか、つまりどれほど若々しく機能しているかを示す指標です。

 

今回の研究では、アルツハイマー病の進行や認知機能の低下に関連する要因として、バイオエナジェネティックスエイジの重要性が検証されました。

 

具体的には、研究チームは血中に存在する脂肪酸代謝物の一種であるacylcarnitine(アシルカルニチン)を指標として、患者のバイオエナジェネティックスエイジを評価する試みを行いました。

 

アシルカルニチンの濃度が高い場合、より高いバイオエナジェネティックスエイジに対応し、結果としてアルツハイマー病の病理学的変化や認知機能の低下が顕著であることが確認されました。

 

Individual bioenergetic capacity as a potential source of resilience to Alzheimer’s diseaseより

 

また、認知機能の低下を評価するテストにより、アシルカルニチンレベルが低い患者は、レベルが高い患者に比べて年あたりの認知機能低下の進行が約半分であったことが分かりました。

 

この進行速度は、アルツハイマー病治療薬であるレカネマブを服用している患者と同程度であったため、バイオエナジェネティックスエイジを低減させることがアルツハイマー病の進行抑制に有効である可能性が示唆されました。

 

 

研究の展望

 

本研究の筆頭研究者である生理学者のJan Krumsiek氏は、今回の発見について「従来の治療の不確実な副作用を回避しながら、患者自身がリスク低減に取り組めるという点は非常に大きな意義がある」とコメントしています。

 

Krumsiek氏はまた、同様のエネルギー生成効率の違いが、初期症状が似通っている患者間でなぜアルツハイマー病の進行に差が生じるのかを説明する手掛かりとなるとも述べています。

 

研究チームは、既に新生児の代謝・ミトコンドリア障害の診断に利用されている血中アシルカルニチンレベルを測定する技術を用いることで、個々のバイオエナジェネティックスエイジを正確に評価し、より早期に治療アプローチを開始する可能性を検討しています。

 

具体的には、運動や栄養改善などの生活習慣の見直しが、バイオエナジェネティックスエイジの低減に寄与し、結果としてアルツハイマー病のリスク軽減に結びつく可能性が期待されます。

 

 

今後の課題

本研究は、従来の加齢に基づくリスク評価だけでは捉えきれなかった、細胞レベルでのエネルギー生成効率という新たな視点を提供するものです。

 

バイオエナジェネティックスエイジの低減は、アルツハイマー病の発症リスクや進行を効果的に抑制する新たなアプローチとして期待され、今後の研究において、どのような介入方法が最も効果的であるかをさらに検証する必要があるとされています。

 

また、今回の発見により、アルツハイマー病や同様の症状を示しながらも長期間症状が出ない患者に見られる特別なbioenergetic capacityが、今後の治療戦略の重要な鍵となる可能性が示唆されました。

 

この知見は、個々の患者の遺伝的背景と生活習慣に基づいた個別化治療の実現に向けた一歩として大きな期待を集めています。

 

 

まとめ

・bioenergetic age(バイオエナジェティックエイジ)は、細胞のエネルギー生成効率を示す新たな指標であり、アルツハイマー病リスクの評価に役立つ可能性がある

血中のアシルカルニチンレベルが高いと、認知機能の低下が進みやすいことが示され、バイオエナジェティックエイジの低減が治療効果に匹敵する効果を持つとされている

・今回の発見は、個別化治療の早期開始や生活習慣の改善によるリスク低減の可能性を示唆している

コメント

タイトルとURLをコピーしました