科学

食物繊維が感染症を防ぐ? 高まる腸内細菌の重要性

科学

私たちの体は、単に人間としての細胞だけで構成されているわけではありません。

 

私たちの体内や体表には、数兆もの微生物が生息しており、その数は銀河系の星の数を超えると言われています。

 

これらの微生物は、私たちの健康にとって不可欠な役割を果たしていますが、科学者たちはその正確な働きや仕組みをいまだに解明中です。

 

Nature Microbiologyに掲載された最新の研究では、腸内細菌が有害な細菌から私たちを守るメカニズムについて探求しました。

 

この研究は、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)と呼ばれる一群の細菌に焦点を当てられたものです。

 

今回のテーマとしてまとめていきます。

 

参考記事)

Eating Fiber Could Protect You From Infections. Here’s Why.(2025/01/18)

 

参考研究)

Ecological dynamics of Enterobacteriaceae in the human gut microbiome across global populations(2025/01/10)

 

 

Enterobacteriaceaeとは?

エンテロバクター科の一種 Citrobacter freundii

 

Enterobacteriaceae(エンテロバクター科)は、多くの細菌を含む大きなグループです。

 

その中には大腸菌(Escherichia coli)が含まれており、この細菌は通常少量であれば無害です。

 

しかし、腸内で過剰に増殖すると感染症や健康問題を引き起こすことがあります。

 

これらの細菌を抑制するために重要なのが、腸内の環境、特に食事の内容が関係していることがわかりました。

 

今回の研究では、45カ国から集められた12,000以上の便サンプルを分析しました。

 

この大規模なデータセットをもとに、DNAシークエンシング技術を活用して、各サンプル内に存在する微生物の種類と量を特定しました。

 

その結果、Enterobacteriaceaeを持つ人の腸内微生物群は、それを持たない人のものと根本的に異なることが明らかになりました。

 

 

腸内細菌のパターンと予測精度 

研究チームは、腸内に存在する微生物の種類や遺伝子を詳細に分析しました。

 

この結果、約80%の精度でEnterobacteriaceaeが腸内に存在するかどうかを予測できることがわかりました。

 

これは、腸内環境や微生物群の構成が、有害な細菌の増殖を防ぐために大きな役割を果たしていることを示唆しています。

 

研究を進める中で、2つのグループの細菌が明確に分かれました。

 

一つはEnterobacteriaceaeと共存する細菌(共生細菌)で、もう一つはEnterobacteriaceaeとほとんど一緒に見られない細菌(排除細菌)です。

 

特に注目された排除細菌の一つが、Faecalibacteriumという種類の細菌です。

 

Faecalibacterium MVZ Institut für Mikroökologie GmbHより

  

この細菌は、食物繊維を分解することで短鎖脂肪酸(short-chain fatty acids)を生成します。

 

この短鎖脂肪酸は、Enterobacteriaceaeの増殖を抑える働きを持つことがわかっています。

  

短鎖脂肪酸は以前から、腸の炎症を軽減し、消化器系の機能を向上させるなど、多くの健康効果があることが知られています。

 

この研究では、短鎖脂肪酸の存在が、共生細菌と排除細菌を区別する重要な要因であることも確認されました。

 

 

共生細菌の適応力 

もう一つの興味深い発見は、共生細菌が持つ適応力の高さです。

 

これらの細菌は、さまざまな種類の栄養素を分解でき、Enterobacteriaceaeが適応できる環境でも生存可能な能力を持っています。

 

これは、以前のマウスを用いた研究結果とは異なるもので、従来は“同じ栄養を必要とする細菌は腸内で共存しにくい”と考えられていました。

 

しかし、この研究は腸内環境(栄養素、pH、酸素レベルなど)が、腸内細菌の共存や排除において重要な役割を果たしていることを示しています。

 

 

プロバイオティクスに代わるアプローチ 

今回の研究結果は、抗生物質を使わずに感染症を予防・治療する新たな方法の可能性を示唆しています。

 

有害な細菌を直接殺すのではなく、排除細菌を増やしたり、それを支える食事を提供することで、腸内の健康を保つ方法が発見されたと言えます。

 

プロバイオティクス(腸内に善玉菌を追加する方法)は、多くの場合、腸内で短期間しか定着しないことが知られています。

 

一方、特定の細菌を支えるための食事療法は、より効果的かつ持続的な解決策となる可能性があります。

 

さらに、有害細菌が利用する特定の経路を標的にし、その生存を困難にする治療法も開発できるでしょう。

 

 

さらなる研究の必要性 

今回の研究は、腸内細菌の相互作用やメカニズムに関する重要な知見を提供しましたが、まだ多くの課題が残されています。

 

たとえば、南米やアフリカの地域は腸内細菌に関する研究が十分に進んでいないため、地域ごとの腸内細菌の違いについては未知の部分が多く残されています。

  

また、この研究は腸内細菌の構成やパターンについて重要な情報を示しましたが、その背後にある因果関係やメカニズムを完全に解明するには至っていません。

 

今後の研究では、メタボロミクス(微生物が生成する化学物質の研究)トランスクリプトミクス(遺伝子の発現の研究)を活用し、腸内環境が私たちの健康に与える影響をより深く理解する必要があります。

 

さらに、具体的な食事療法、例えば高繊維食と低繊維食が、長期的にどのように有害細菌や病気の発生率に影響を与えるのかを検証する研究が求められています。

 

  

まとめ

・腸内の短鎖脂肪酸が有害細菌の増殖を抑える鍵となる

・腸内環境が細菌の共存や排除を左右する主要な要因である

・食物繊維を活用した治療法が抗生物質に代わる可能性がある

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