心理学歴史

【歴史を変えた心理学⑦】カール・ユングと無意識

心理学

【前回記事】

 

この記事では著書“図鑑心理学”を参考に、歴史に影響を与えた心理学についてまとめていきます。

 

心理学が生まれる以前、心や精神とはどのようなものだったのかに始まり、近代の心理学までをテーマとして、本書から勉強になった内容を取り上げていきます。

  

今回のテーマは「カール・ユングと無意識」です。

   

    

 

カール・ユングの生い立ち

カール・グスタフ・ユング(1875~1961年)

 

1875年、スイスのケスヴィルにカール・ユングが誕生しました。

 

プロテスタント牧師である父のもとで生まれ、彼が生まれる前に兄が亡くなっているため、唯一生き残った一人息子として育てられます。

  

母親はうつ病に苦しんでおり、 彼が子どもの頃はほとんど入院生活を送っていました。

 

カールは父の影響でラテン語や思想を学び、1886年にはバーゼルの上級ギムナジウムに通い始めます。

 

この頃から神と人、善と悪について考えており、いつしか「自分には二つの人格がある」と考えるようになりました。

 

バーゼル大学の医学部に入学するころには、ニーチェの「ツァラトゥストラはこう言った」をはじめ、カントやゲーテなどの哲学書や詩集を好んで読むようになります。

 

ここで得た知見が、後に彼が執筆する心理学者としての著作にも度々引用されていきます。

 

さて、この頃から15年ほど前、バーゼル大学の講師としてフリードリヒ・ニーチェが教鞭を執っていました。

 

フリードリヒ・(ヴィルヘルム)・ニーチェ(1844~1900年)

 

ユングが同大学に入学した当初も彼について議論が交わされており、反ニーチェ的な思想もありました。

 

そんな中ユングはニーチェの著作に感銘を受け、この頃に読んだ「彼の著作が近代心理学を受け入れる第一歩となった」と述べています。

 

後に、彼が「ナンバー2」と呼ぶ第二人格皆の尊敬を集める老人の人格)の存在を述べることになります。

 

これはニーチェのツァラトゥストラがモデルになったと言われています。

 

バーゼル大学を卒業したユングは、その後の兵役で歩兵として訓練を受けた後、1901年にチューリッヒ大学病院付属精神病院のブルクヘルツリ病院で働き始めます。

 

そこで彼は精神科医のオイゲン・ブロイラーと出会い、精神医学に傾倒していきます。

 

オイゲン・ブロイラー(1857~1939年)

 

ユングはブロイラーの支持のもとで1902年に「心霊現象の心理と病理」を執筆し、自らの神秘体験と情動体験についての考察をまとめています。

 

ユングがブロイラーの推薦もありパリへ留学、帰国後も論文を執筆しながら自ら開業医として生計を立て、心理学の研究にも没頭していくようになります。

 

あるときユングはジークムント・フロイトの著書「夢判断」についてのレポートを記すことになります。

 

フロイト著「夢判断」1900年

 

現在では、“夢には心の整理や願望などの深層心理が現れる”という考え方が受け入れられていますが、当時はそういった深層心理と夢との関連性に関心がもたれてはいませんでした。

 

ユングはフロイトの「夢判断」が、自身の治療経験と理論に合致するものであることに衝撃を受けました。

 

これを受けてユングは自身の実験研究をフロイトに送り、二人の文通が始まっていきます。

 

1907年にフロイトの自宅に招かれたことで二人は初めて対面することになり、そこで13時間もの間ひたすら議論を交わし続けたそうです。

 

ここからユングは、フロイトのもとで精神医学や心理学の知見を得ることになります。

 

ユングは間もなくフロイトと肩を並べるほどになっていきますが、フロイトが“個人的な無意識”に注目したこたから、ユングは無意識の根底にあるものについてより深く探究したいと考えました。

 

フロイトは、「全ての心は、一連の無意識の動機づけによって動かされる」と考えていました。

 

こうした原始的な欲求は生存にとって有利に働き、これを理解することは、精神疾患の機能不全を解明するだけなく、人格とは何かを明らかにすることにつながります。

 

ユングは、ヨーロッパをはじめ、エジプトやアフリカなど、各国を旅する中でそれぞれの国の文化や人について研究していました。

 

それらの経験から彼は、「多くの文化的な差異を超えて、世界中のあらゆる社会は同じように機能している」と指摘するようになります。

 

日本における桃太郎、ギリシャ神話におけるヘラクレス、エジプト神話におけるホルスなど、数多くの神話が様々な文化ごとに残されています。

 

そしてそれらは、同じ種類の事柄(英雄、怪物、救世主など)について語られている場合がほとんどです。

 

ユングは、古代から受け継がれてきた神話の共通点から、「無意識の心によってこれらの物語が後の世代に伝えられ、私たちと祖先とを結びつける集合的記憶としての役割を担っている」と考えていたのです。

 

ユングはこれを“集合的無意識”と呼びました。

 

集合的無意識は神話に由来し、神話は私たちに直接は経験したことのない事柄や教訓を教えてくれます。

 

そして、そのような太古の考えが私たちの意識に影響を及ぼすと主張しました。

 

私たちには“個人的無意識”というものが存在し、その根底には、神話などによって古くから伝わってき人類に共通する“集合的無意識”が関係していると考えたのです。

 

ユングは、神話に現れる登場人物を“原型”と呼びました。

 

原型には多くの神話に共通する、英雄、純真無垢な子ども、母親、いたずらっ子(トリックスター)などとともに、光と影、死や創生、神の啓示といった重要な概念が含まれています。

 

人間にはそういった原型が存在し、人格を形成していると考えたようです。

 

私達が意識的に考え、行動していることの大半は、実際は無意識的な活動、中でも“原型”によってコントロールされている……。

 

ユングのこういった考えは後に、無意識に関する心理学のみならず、文学やスピリチュアリズムなどに大きな影響を与えるものとなっていったのです。

 

 

まとめ

・ユングは、哲学者ニーチェの思想や精神科医ブロイラーとの出会いによって心理学的な思想が形成されていった

・彼は、古くからの神話や言い伝えなどを通して“集合的無意識”が形成されると主張した

・神話に現れる登場人物を“原型”と呼び、人格を形成する要因として考えた

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