食物アレルギーを激減させた生後6か月のアレルゲン対策

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近年、世界中で小児の食物アレルギーが増加傾向にある中、その発症を大幅に抑える方法が注目を集めています。

   

最新の研究によると、赤ちゃんの生後6か月頃に卵やピーナッツバターを導入することで、これらの食品に対するアレルギーの発症リスクを劇的に下げられる可能性があることがわかりました。 

   

この発見は、広く信じられていた「1歳まではアレルゲンとなる食品を避けるべき」という2000年頃に米国小児科学会から発表された方針とは正反対のものです。

  

Early introduction of foods to prevent food allergy より

当該の記事が現在閲覧できない状態のため、別の研究の一部を引用) 

  

今では、この方針は撤回されていますが、長年、親たちはアレルギーを恐れ、慎重に離乳食を進めてきました。

  

近年の研究から、むしろ早期に特定の食材に慣れさせることこそが、アレルギー予防につながるという新たな視点が、科学的な裏付けとともに示されつつあります。

 

以下に研究の内容をまとめます。

 

参考記事)

One Piece of Advice to Parents Slashed Food Allergies in Children(2025/07/14)

 

参考研究)

Infant diet recommendations reduce IgE-mediated egg, peanut and cow’s milk allergies(2025/06/17)

Timing of Allergenic Food Introduction to the Infant Diet and Risk of Allergic or Autoimmune Disease(2016/09/20)

 

 

西オーストラリア大学が主導した研究の概要

 

研究では、オーストラリア国内の2つの乳児グループが比較されました。

• 第1グループ(506人):特別な食事指導を受けず、従来どおりの育児方法を採用した家庭

• 第2グループ(566人):生後6か月頃に卵とピーナッツバターを離乳食として取り入れるよう指導された家庭

 

指導内容は、オーストラリア・アジア臨床免疫学会(ASCIA:Australasian Society of Clinical Immunology and Allergy)が推奨するアレルギー予防ガイドラインに基づいています。

 

第2グループの保護者には、これらのガイドラインが冊子として配布され、積極的にその内容を実践しました。

 

 

驚異的なリスク低下

研究を主導した西オーストラリア大学教授のSummer Walker氏によると、「ガイドラインに従って卵とピーナッツバターを早期導入した乳児のアレルギー発症率は著しく低下した」とのことです。

 

具体的には以下のような結果が得られました。

Infant diet recommendations reduce IgE-mediated egg, peanut and cow’s milk allergiesより

• 卵アレルギーの発症率:12% → 3%

• ピーナッツアレルギーの発症率:6% → 1%

 

つまり、生後6か月の時点でこれらの食品を取り入れたことで、12か月時点でのアレルギーの有病率が劇的に下がったのです。

 

また、牛乳も研究の対象として導入されましたが、こちらについてはアレルギー発症率の差は小さく、明確な効果は見られませんでした。

 

  

アレルギーの遺伝リスクが高い層でも効果的

今回の研究では、乳児が12か月になるまでの間に現れるアレルギー反応の有無を追跡しました。

 

研究チームは、「現場レベルでガイドラインを導入することで、その実効性と安全性が確認できた」と述べています。

  

特に注目すべき点として、研究に参加した乳児たちはすべて、家族の中にアレルギーの既往を持つ親族がいるという「遺伝的リスクの高い層」であったことが挙げられます。

 

つまり、遺伝的にアレルギーの発症リスクが高い子どもにおいても、早期の食品導入がアレルギー予防に有効である可能性が示されたのです。

 

  

アレルギーの発症メカニズムは依然として複雑 

ただし、研究者たちはこの結果を過大評価しないよう注意を促しています。

 

今回の調査対象は12か月時点までのアレルギーのみであり、長期的な発症リスクの推移については今後の研究が必要です。

  

また、卵やピーナッツに対するアレルギーが「完全になくなった」わけではありませんでした。

 

一定数の子どもたちは、早期導入にも関わらずアレルギーを発症したことも事実です。

 

この点についてWalker氏は、「アレルギーの発症にはさまざまな要因が関与しており、単純な原因と結果だけでは語れない」と述べています。

 

 

親はどうすべきか? 

このような研究結果が示されてもなお、保護者の中にはいつ、どのようにアレルゲンとなる食品を導入すればよいのか判断に迷うケースが多く見られます

 

特に、家族にアレルギーの既往がある場合、慎重になりすぎてしまうのは自然なことです。

 

研究に参加した管理栄養士のDebbie Palmer氏は、「多くの家庭が、アレルゲン導入の適切なタイミングについて確信を持てずにいる。医療従事者が明確で一貫した情報を伝えることが必要不可欠」と語ります。

 

そのためにも、研究チームはASCIAガイドラインのさらなる普及と、保健師や小児科医による情報提供の重要性を訴えています。

 

 

食事と免疫の関係:再評価のとき 

 

かつては、アレルゲンを避けることが最善と考えられてきましたが、むしろ早期の曝露が免疫系の適応を促す可能性があることが、今回の研究で示されました。

 

近年のアレルギーの増加傾向を背景に、食生活と免疫応答との関連性を再評価する必要があると研究者たちは指摘します。

 

この研究は、アレルギーという複雑で個別性の高いテーマにおいて、今後の予防指針に大きな影響を与える重要な知見と言えるでしょう。

 

引き続き、長期的な追跡調査や他地域での同様の研究が求められます。

 

 

まとめ

・生後6か月頃に卵やピーナッツバターを導入すると、アレルギー発症リスクが大きく減少することが明らかになった

・家族にアレルギー歴がある乳児でも、この方法は予防効果を示した

・今後はガイドラインの普及と、保護者への明確な情報提供が鍵を握るとされている

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