大腸がんは、オーストラリアにおいて4番目に多いがん種であり、毎年15,000件以上が新たに診断されています。
がんによる死亡原因としては、肺がんに次いで2番目に多いものです。
ここ最近の報道では、50歳未満の若年層における大腸がんの増加傾向が注目されており、オーストラリアではこの年齢層における大腸がん発症率が世界でも特に高い水準にあるとされています。
このようなニュースは非常に憂慮すべきものですが、一方で、過去20年にわたってオーストラリア全体での新規大腸がん発症率はむしろ減少傾向にあるという事実も忘れてはなりません。
依然として大腸がんの多くは50歳以上の成人に見られ、同世代に対する全国的なスクリーニング制度の導入によって、その発症率は着実に減少しています。

それではなぜ、若年層においてのみ発症率が増加しているのか、そのリスクを軽減するためには何ができるのか……。
これらの点を踏まえ、研究の内容を以下にまとめます。
参考記事)
・Bowel Cancer in Young People Is Rising – Here’s How to Reduce Your Risk(2025/06/05)
参考研究)
・Geographic and age variations in mutational processes in colorectal cancer(2025/04/25)
・Trends in Colon and Rectal Cancer Incidence in Australia from 1982 to 2014: Analysis of Data on Over 375,000 Cases(2019/01/07)
全国的なスクリーニング制度の効果
オーストラリアは、大腸がんの人口ベースのスクリーニング制度を世界に先駆けて導入した国のひとつです。
2006年に開始された「National Bowel Cancer Screening Program(国家大腸がんスクリーニング制度)」では、50歳から74歳までの成人に対し、2年ごとに検便キットが郵送されます。
このキットを用いた便潜血検査は、がんや前がん病変の兆候となる微量の血液を検出するものであり、早期発見や生存率の向上につながっています。
しかしながら、この制度への参加率は約40%と依然として低水準にとどまっており、より多くの人が検査に参加すれば、大腸がんの発症率はさらに減少する可能性があるとされています。
若年層における増加傾向

これに対し、50歳未満の若年層では、過去数年のデータから発症率の上昇が明らかになっています。
モナシュ大学のSuzanne Mahady氏とその研究チームによる研究では、1982年から2014年の間に、50歳未満の人々において大腸がんおよび直腸がんの増加が確認されました。
さらに、査読前の研究として発表されたデータでは、2020年までの傾向もこの増加を裏付けており、1990年代に生まれた人は1950年代生まれの人と比べて、大腸がんのリスクが2〜3倍に達することが示唆されています。
このような傾向はオーストラリアだけにとどまらず、多くの国々で類似のパターンが確認されているものの、特にオーストラリアでは、若年層における発症率が世界の中でも群を抜いて高い水準にあると指摘されています。
原因はまだ不明──食生活と腸内環境に焦点

現在のところ、この発症増加の明確な原因は解明されていません。
いくつかの研究では、食生活や生活習慣、肥満、赤身肉の摂取などが注目されていますが、食生活が病気の原因かどうかを証明するのは困難です。
というのも、食生活に関する研究は長期間にわたる追跡調査が必要となるからです。
その後に仮説を検証するためにランダム化比較試験を実施することが理想的ですが、参加者に対して数年間も特定の食生活を守らせることも、調査するに当たっての大きな壁になります。
そのため、食事と大腸がんの因果関係を科学的に証明するのはきわめて困難であるとされています。
また、近年ではE. coli(大腸菌)感染の幼少期における影響に注目した研究も行われており、一部の菌株に感染することが、DNAの初期変異を引き起こし、後年のがんリスクを高める可能性があるとする仮説も提唱されています。
さらに、腸内マイクロバイオーム(腸内細菌叢)の変化が関係している可能性もあり、これらの新たな仮説には今後さらなる研究が必要とされています。
リスクを減らすためにできること
では、私たちはどのようにして大腸がんのリスクを軽減できるのでしょうか。
まず何より重要なのは、新たに現れた症状や気になる症状に対して注意深くなることです。
特に、便に血が混じっている場合や、排便習慣の変化がある場合には、速やかに医師の診察を受けることが推奨されています。
また、これまで便潜血検査のキットは50歳以上の人にしか郵送されていませんでしたが、2024年からは45〜49歳の人も希望すればキットを請求することが可能となりました。
依然としてスクリーニング制度の参加率が低いため、50歳以上でキットを受け取った人は、可能な限り早く検査を実施することが強く勧められています。
この参加率を向上させることこそが、オーストラリア全体での大腸がんによる負担を軽減する最も効果的な方法のひとつとされています。
まとめ
・若年層における大腸がんの発症率が増加しており、1990年代生まれの人は過去世代と比べて2〜3倍のリスクを抱えている
・スクリーニング制度の効果は明らかであり、45歳から検査を受けることも可能になっている
・便に血が混じる、排便の変化などの症状が見られた場合には、年齢に関わらず早期に医師の診察を受けるべきである
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