科学

プラスチック容器が心不全のリスクを高める可能性について

科学

メリーランド大学による化学物質と健康への影響をはじめ、近年ではプラスチック製の食品容器の安全性について多くの研究が行われています。(The benefits of removing toxic chemicals from plasticsより

まとめ記事↓

 

特に、加熱されたプラスチック容器が有害な化学物質を食品に溶出させる可能性が指摘されており、それが心血管疾患のリスクを高める要因となる可能性があります。

 

中国・寧夏医科大学の研究チームは、プラスチック容器から溶け出す化学物質が体内でどのような影響を及ぼすのかを詳しく調査しました。

 

ラットを用いた実験の結果、プラスチック容器に高温の水を注ぐことで溶出する化学物質が腸内細菌のバランスを崩し、最終的に心筋の損傷につながる可能性があることが明らかになりました。

 

本記事では、対象となった研究の詳細から、プラスチックと心血管疾患の関係、そして日常生活におけるリスク回避の方法について解説します。

 

参考記事)

Your Takeaway Food Packaging Could Increase Your Risk of Heart Failure(2025/02/20)

 

参考研究)

Effects of leachate from disposable plastic takeout containers on the cardiovascular system after thermal contact(2024/11/26更新)

 

 

ラットを用いた実験で明らかになった心筋への影響

寧夏医科大学の研究チームは、プラスチック容器から溶け出す化学物質が体に与える影響を調べるため、ラットを用いた実験を実施しました。

 

実験は、24匹のラットを対象に、加熱されたプラスチック容器から溶け出した化学物質を含む水を3か月間与え続けるという実験を行いました。

 

Effects of leachate from disposable plastic takeout containers on the cardiovascular system after thermal contactより

 

その結果、心筋組織の変化、腸内細菌の変化、血液中の炎症マーカーの増加といった変化が観察されました。

 

 

① 心筋組織の変化

実験の結果、プラスチック由来の化学物質を摂取したラットの心筋組織に明らかな異常が見られました。

• 筋繊維の損傷やずれ(正常な心筋組織の構造が崩れる)

• 炎症性細胞の浸潤(心筋組織内に免疫細胞が集まり、炎症が起こる)

• ミトコンドリアの膨張(細胞のエネルギー生成機能が損なわれる)

• 心筋細胞間の出血(心筋組織内で異常な出血が発生)

Effects of leachate from disposable plastic takeout containers on the cardiovascular system after thermal contactより

  

図のA、B、C、Dはプラスチックを与え続けたげっ歯類の心臓組織を表しています。

 

Dは通常の食事を与えた対照群を表しています。

 

黒い矢印は炎症性細胞浸潤を表し、黒い星は心筋細胞間出血を表しています。

 

この結果は、プラスチックから溶け出した化学物質が心筋組織に直接的なダメージを与える可能性があることを示唆しています。

 

 

② 腸内細菌の変化

実験では、プラスチック由来の化学物質を摂取したラットの腸内細菌の構成が大きく変化していることも確認されました。

• 炎症に関連する腸内細菌が増加

• 腸内のバリア機能が低下し、体内に炎症性物質が流入しやすくなる

 

腸内細菌のバランスが崩れることで、全身の炎症反応が促進され、それが心血管系にも悪影響を与える可能性があると研究者は指摘しています。


 

③ 血液中の炎症マーカーの増加

さらに、ラットの血液を分析したところ、炎症に関与する免疫メッセンジャーの濃度が上昇していました。

 

これは、心血管疾患のリスクを高める要因となることが知られています。

 

研究者たちは、プラスチック容器から溶け出した化学物質が腸内細菌を変化させ、それが全身の炎症を引き起こし、最終的に心筋にダメージを与える可能性があると結論づけています。

 

 

人間にも同じ影響があるのか?

現時点では、この実験結果が人間にもそのまま当てはまるかどうかは明確ではありません

 

しかし、研究者たちは「高温の食品をプラスチック容器に入れることは避けるべき」と強く警告しています。

 

研究チームが過去に実施した3,179人の高齢者(中国人)を対象に実施された調査では、プラスチックへの曝露が多い人ほど、うっ血性心不全を発症するリスクが高いという結果が得られており、今回の研究はその原因や背景を追求するものとして実施されました。

 

また、マイクロプラスチックが血栓や動脈プラークに蓄積しているという研究結果も報告されており、プラスチックと心血管疾患の関係は今後さらに詳しく調査される必要があると考えられます。(Multimodal detection and analysis of microplastics in human thrombi from multiple anatomically distinct sitesより

 

 

プラスチックの加熱がもたらすリスク

プラスチック容器は加熱されることで、より多くの化学物質を食品に溶出させることがわかっています。

 

特に、電子レンジで加熱した際には、ナノプラスチックやマイクロプラスチックが食品に大量に放出されることが報告されています。(Assessing the Release of Microplastics and Nanoplastics from Plastic Containers and Reusable Food Pouches: Implications for Human Healthより

 

参考まとめ記事)↓

 

わずか3分間の電子レンジ加熱で数十億個のプラスチック粒子が放出されることが判明しましたが、これらの微細なプラスチックがどれほど体内に吸収されるのか、また体内にどのくらいの期間留まるのかについては、まだ十分な研究がなされていないのが現状でもあります。 

 

さらに、熱されたプラスチック製の使い捨てスプーンやフォークを口に入れるだけで、腸内細菌の多様性が低下することも報告されており、研究の著者は「プラスチック製品から放出される微小の物質が、微生物叢と炎症因子を混乱に関係し、炎症や心筋損傷を引き起こす可能性がある」と述べています。

  

 

日常生活でできるリスク回避

プラスチック容器が健康に与える影響が懸念される中、以下の対策を講じることでリスクを軽減できる可能性があります。

 

• 高温の食品をプラスチック容器に入れない(ガラスや陶器の容器を使用する)

• 電子レンジでプラスチック製の食品容器を加熱しない

• 食品の保存や調理にプラスチック製品をできるだけ避ける

 

プラスチックが人体に与える影響については、まだ解明されていない点が多いですが、日常的な使用を減らすことで健康リスクを低減できる可能性があります。

 

今後さらに研究が進められることで、プラスチックが人体に与える影響の全貌が明らかになることが期待されます。

 

 

まとめ

・加熱されたプラスチック容器から有害な化学物質が食品に溶け出し、心筋にダメージを与える可能性がある

・プラスチックの加熱により、マイクロプラスチックが食品中に大量に放出される

・腸内細菌の変化が炎症を引き起こし、心血管疾患のリスクを高める可能性がある

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