ケンブリッジ大学から発表された最新の研究によると、ADHD(注意欠如・多動症)のある人は、平均より約8年短い寿命を持つ可能性があることが分かりました。
この結果は、ADHDに関連するリスクの高い行動や生活習慣によって説明できると考えられます。
専門家は、ADHDの管理には医師と協力し、薬物療法と心理療法を組み合わせた持続可能な治療計画を立てることが重要だと指摘しています。
今回のテーマとして以下にまとめます。
参考研究)
・Life expectancy and years of life lost for adults with diagnosed ADHD in the UK: matched cohort study(2025/01/23)
ADHDと寿命の関係とは?

ADHDは正式には「注意欠如・多動症(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder)」と呼ばれる慢性的な疾患です。
注意力の維持や衝動の制御が難しくなるという特徴があり、世界の人口の約7%が影響を受けていると推定されています。(General Prevalence of ADHDより)
本研究は、過去のADHDと平均余命に関する研究を踏まえ、寿命との関連性を明らかにしようという考えのもとで実施されました。
精神科医であるBarry K. Herman博士は、「本結果は、過去の研究と同様の傾向を示している」とコメントしています。
では、研究の内容について見ていきます。
研究が明らかにしたこと
研究では、イギリス国内の792の一般診療所のデータが分析されました。
その結果、以下の相関性が発見されました。

• ADHDと診断された30,000人以上の成人と、ADHDではない30万人以上の成人を比較
• ADHDのある男性の平均寿命は約6.8年短縮
• ADHDのある女性の平均寿命は約8.6年短縮
なお、女性の平均寿命は男性より長いため、ADHDのある女性が男性より短命というわけではありません。
しかし、ADHDが女性の死亡率に及ぼす影響が大きいことが示唆されており、研究者はこの点をさらに調査する必要があると述べています。
また、2019年にアメリカで行われた研究では、小児期にADHDと診断された人の平均寿命が約8年短縮されると推定されていました。(Hyperactive Child Syndrome and Estimated Life Expectancy at Young Adult Follow-Up: The Role of ADHD Persistence and Other Potential Predictorsより)
この研究では、ADHDが成人期まで続いた場合、寿命の短縮は最大13年に達する可能性があると報告されています。
ただし、この研究は自己申告による生活習慣データに基づいており、実際の死亡データではなかった点が異なります。
さらに、2022年のメタ分析では、ADHDのある人は不慮の事故などによる死亡リスクが高いものの、病気による死亡リスクは一般人口と大差がないことが示されました。(Mortality in Persons With Autism Spectrum Disorder or Attention-Deficit/Hyperactivity DisorderA Systematic Review and Meta-analysisより)
研究の限界とは?
今回の研究は大規模なデータを用いたものですが、いくつかの限界があると指摘されています。
1. 国ごとの医療制度の違い
• 研究の対象はイギリスの人々だが、アメリカや他国の人々とは健康管理や寿命の基準が異なる
2. 診断の遅れや未診断のケース
• ADHDの診断には時間がかかることが多く、未診断の人が多く存在する
• このため、実際の影響は研究結果と異なる可能性がある
なぜADHDが寿命を縮めるのか?
ADHD自体は心疾患や糖尿病のように直接命に関わる病気ではありません。
しかし、ADHDに伴う行動や生活習慣が寿命を短くする要因になっていると考えられます。
1. 衝動性によるリスクの増加
ADHDのある人は衝動的な行動を取りやすく、意思決定に影響を及ぼすことが知られています。
• 事故のリスクが高い(交通事故など)
• 危険な行動をとりやすい
• 薬物やアルコールの乱用率が高い
2. 社会的要因と健康管理の問題
ADHDのある人は、以下のような社会的な問題に直面することが多いです。
• 安定した住居や経済的安定を得るのが難しい
• 健康管理が不十分になりがち(定期的な診察を受けない、治療を継続できない)
• うつ病や不安障害などの精神疾患と関連がある
3. ADHDの薬の長期的影響
ADHDの治療には「中枢神経刺激薬(例:アデラルなど)」が使われることが一般的ですが、これらの薬が長期的に心血管系に影響を与える可能性が指摘されています。
2023年の研究によると、ADHD薬の長期使用は高血圧や動脈疾患のリスクを増加させることが示唆されています。
また、 ADHD薬を1年間使用するごとに心血管疾患のリスクが4%増加するというデータもあります。
ADHDと向き合うためにできること
Nathan Carroll博士は、「診断自体が危険なのではなく、ADHDに伴う社会的な課題が問題」と述べています。
そのため、ADHDの診断を避けるのではなく、適切な治療を受けるために、なるべく早く医師に相談すること推奨しています。
心身ともに健康的な生活をいじするために、以下の点を意識して欲しいことも研究で述べられています。
1. ADHDの包括的な治療を受ける
• 薬物療法(医師の指導のもとで適切に使用する)
• 行動療法や心理療法を併用する
2. 生活習慣を見直す
• 規則正しいルーチンを作る
• アプリや手帳を活用し、予定やタスクを管理する
3. 専門家と協力する
• 精神科医やカウンセラーと相談しながら自分に合った管理方法を見つける
• 家族や学校、職場のサポートを得る
Michelle Dees博士は、「ADHDのある人に合わせた管理戦略を構築すれば、大きなポジティブな影響を与えることができる」と述べています。
適切なサポートを受けることで、ADHDを持つ人もリスクを最小限に抑えながら、自分の能力を最大限に発揮できる環境を整えることが可能としています。
まとめ
・ADHDのある人は平均よりも6.8~8.6年寿命が短いことが研究で判明
・衝動性や生活習慣の問題が寿命短縮の要因と考えられる
・薬物療法・行動療法・生活習慣の改善を組み合わせることが重要
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