16時間断食をはじめとする断続的断食は、近年健康志向の高まりとともに広く知られるようになった食生活のスタイルです。
特に体重減少や炎症の軽減などの健康効果が期待されていますが、その一方で、すべての人に適しているわけではなく注意が必要です。
中国の西湖大学(浙江省)から発表された最新の研究では、断続的断食が毛髪の再生を遅らせる可能性があることが報告されました。
この発見は主にマウスを対象とした実験に基づいていますが、人間にも同様の影響が及ぶ可能性があるとされています。
西湖大学で幹細胞生物学を専門とするBing Zhang氏は、「断続的断食がもたらす多くの健康効果を否定するものではない」と述べていますが、「その効果にはまだ解明されていない部分があり、副作用(負の影響)についても慎重に検討する必要がある」と指摘しています。
以下に研究の内容をまとめていきます。
参考記事)
・Intermittent Fasting Could Have a Downside For Those Wishing to Grow Their Hair(2024/12/14)
参考研究)
・Intermittent fasting triggers interorgan communication to suppress hair follicle regeneration(2024/12/13)
研究の背景
過去の研究では、間欠的断食が血液、腸、筋肉に関連する幹細胞のストレス耐性を高める効果があるとされてきました。
これまでの研究で、断続的断食が以下のような健康効果をもたらす可能性があることが示されています。
• 体重減少:摂取カロリーの抑制と脂肪代謝の活性化
• 炎症の抑制:体内の炎症性マーカーの減少
• 幹細胞のストレス耐性の向上:血液や筋肉、腸管組織における幹細胞の活性化
しかし、皮膚や毛髪などの末端組織への影響については、十分に研究されていませんでした。
しかし、皮膚や毛髪などの末梢組織への影響については、ほとんど研究されていません。
これを受け研究チームは、“断食による代謝の変化が、皮膚組織の再生を促進する可能性がある”という仮説を立てました。
皮膚組織再生は、古い細胞や損傷した細胞が新しい細胞と置き換えられるプロセスです。
このプロセスは健康状態や環境によって大きく左右されるため、断食よる影響も少なからず受けるだろうという点も仮説を立てた大きな理由です。
以上を検証するため、チームは剃毛されたマウスを対象に断続的断食の影響を調べまることにしました。
以下に、実験の方法と結果をまとめます。
実験方法と結果
マウスは3つのグループに分けられました。
1. 時間制限断食グループ
• 1日8時間だけ摂食を許可(残り16時間は断食)
2. 隔日断食グループ
• 1日おきに摂食を許可(24時間ごとに断食と摂食を交互に繰り返す)
3. 対照群(制限なし)
• 食事制限をせず、常に摂食が可能な状態
剃毛後、それぞれのグループの毛髪再生の速度を観察しました。
実験の結果、 対照群のマウスでは、30日以内にほぼ全ての毛髪が再生した一方、断続的断食グループでは、96日経過しても部分的な再生にとどまる結果となりました。
これにより、断続的断食が毛髪再生を遅らせる可能性が示唆されました
毛髪再生が遅れる原因
毛髪の再生は、毛包幹細胞(HFSCs)の活動に依存しています。
これらの幹細胞は、活性状態と休止状態を繰り返しており、毛髪は幹細胞が活性状態に戻ったときに再生されます。
しかし、ここで以下のような断食の影響が現れます。
1. 断食中に脂肪組織から遊離脂肪酸が放出され、毛包周辺に蓄積
2. これにより、幹細胞内で活性酸素種(ROS)が増加
3. 活性酸素種は細胞にダメージを与え、幹細胞のアポトーシス(細胞死)を引き起こす
このメカニズムを裏付けるように、対照(通常の食事)グループでは、剃毛後約20日で幹細胞が活性状態に戻り、毛髪再生が順調に進みました。
一方、断続的断食グループでは、幹細胞がアポトーシスを起こし、再生速度が大幅に遅れたのです。
人間への影響
Zhang氏の研究チームは、断続的断食が人間にも同様の影響を与える可能性があるかを調べるため、小規模な臨床試験を実施しました。
試験の概要
• 被験者:健康な若年成人49名
• 方法:2つのグループで比較検討
1. 断続的断食グループ:18時間の断食を含む時間制限食事を実施
2. 対照群:通常の食生活を継続
その結果、断続的断食グループでは、毛髪の再生速度が通常の食事グループに比べて遅い傾向が確認されました。
また、抗酸化能力を遺伝的に強化した幹細胞と、抗酸化物質であるビタミンEを局所的に使用した細胞は活性酸素種に耐性を示し、断続的断食中でも幹細胞のアポトーシスが減少したことが示されました。
つまり、抗酸化物質によって断続的断食の悪影響が軽減される可能性が示唆されたと言えます。
ただし、この試験は小規模かつ短期間のものであるため、さらなる研究が必要としています。
研究チームは、今後以下のような研究を計画しています。
1. 断続的断食が他の組織(例:皮膚や筋肉)に与える影響の調査
2. 皮膚の創傷治癒に対する断続的断食の影響の解明
3. 幹細胞の生存を助け、断続的断食中の毛髪再生を促進する代謝物の特定
代謝は生物の活動における重要なメカニズムです。
正であれ負であれ、このメカニズムが人体にどのような影響をもたらしているのかを知ることは、人の健康を理解する上で大きな課題となるでしょう。
まとめ
・断続的断食は、マウスにおいて毛髪再生を遅らせる可能性があることが確認された
・原因は、活性酸素種(ROS)の蓄積による毛包幹細胞のアポトーシスと考えられる
・人間への影響についてはさらなる大規模な研究が必要
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