科学

恐怖体験が免疫システムに及ぼす影響が明らかに

科学

恐怖という感情は、人間の生存にとって欠かせないものです。

 

危険を察知し、即座に「戦うか逃げるか」の反応を引き起こすこの感情は、アドレナリン系を活性化させ私たちの体を守る準備をします。

 

一方で、持続的なストレスは慢性的な低度炎症と関連し、体に悪影響を及ぼすことが知られています。

  

しかし、過去の研究では、短期的で急性的なアドレナリン系の活性化は、免疫システムを調整し、低度炎症を軽減する可能性があることが示されています。

 

今回紹介する研究は、恐怖系のアトラクションやホラー映画などによる心理的なストレスを与えた際の免疫の変化について調べたものです。

 

どうやら、そういったエンタメよりの恐怖体験も良いストレスになるようです。

 

以下の研究を基にまとめていきます。

 

参考研究)

Unraveling the effect of recreational fear on inflammation: A prospective cohort field study(2024/11/science Directより)

 

 

お化け屋敷を活用した恐怖体験と炎症反応 

 

デンマーク・オーフス大学の研究チームは、「娯楽としての恐怖」が免疫システムや低度炎症にどのような影響を与えるかを調査する研究を行いました。

 

デンマーク・ヴァイレ市にあるリアルなお化け屋敷で113人の成人を対象に調査が行われ、参加者の炎症レベルや免疫細胞の変化が詳細に分析されました。

 

調査では、以下の2つのポイントに焦点が当てられました:

1. 低度炎症(hs-CRP > 3 mg/L)を持つ参加者が、体験後3日間でどのように変化するか

2. 全体の炎症マーカーや免疫細胞の平均値が時間とともにどのように変化するか

 

hs-CRP(high sensitive C-reactive protein)とは高感度CPRとも呼ばれ、感染や組織障害に反応するタンパク質です。

 

炎症の度合いを測る際によく用いられ、他の検査と併用して病気の重症度や治療の経過観察に利用されます。

 

お化け屋敷では、殺人ピエロ、ゾンビ、血まみれのチェーンソーを持つ襲撃者など一般的な恐怖体験が実施されました。

 

体験の直前、と直後には血液検査を行い、体験中は心拍数と恐怖レベルを測定しました。

 

そして体験から3日後に血液検査を実施、炎症マーカーや免疫細胞の変化を追跡しました。

 

 

研究結果:恐怖がもたらす身体の変化  

  

113人の参加者の内訳は、女性69人(61.1%)、男性44人(38.9%)、平均年齢は29.7歳でした。

 

体験時間の平均は50分51秒で、平均心拍数は111.1 BPM、主観的な恐怖レベルは5.4(1~9のスケール)と記録されました。

  

以下に調査の結果をまとめます。

 

【炎症レベルの変化 】

1. 低度炎症を持つ22人の参加者(hs-CRP > 3 mg/L)

• 体験前の平均hs-CRP値は5.7 mg/L

• 体験後3日目の平均hs-CRP値は3.7 mg/L

• 平均で2.0 mg/Lの減少(p = 0.003)

• このグループの82%(18人)が炎症レベルを低下させ、そのうち10人は正常値に戻りました 

 

2. 正常値の参加者

• 炎症が正常値だった91人のグループでも、白血球(リンパ球や単球)が減少しました

 

3. 炎症が一時的に増加した例

• 7人の参加者は、体験時には正常値だったものの、3日後には低度炎症の状態に変化しました

ただし、この変化は統計的に有意ではありませんでした

 

 

恐怖と免疫システムのつながり

  

研究結果から、娯楽としての恐怖が免疫システムを調整する可能性が浮かび上がりました。

  

特に低度炎症を持つ参加者では、hs-CRP値が顕著に減少し、免疫バランスの改善が見られました。

  

この現象は、恐怖がアドレナリン系を活性化させることで、免疫細胞の一時的な再調整を促進するためと考えられています。

  

恐怖や急性ストレスは、副腎を刺激してアドレナリンを分泌します。

 

この過程では、免疫細胞にあるアドレナリン受容体が活性化され、「闘争か逃走か」の反応が引き起こされます。

 

この反応は、体を潜在的なトラウマや感染に備えさせるもので、結果として免疫システムに影響を与えるとされています。

   

寒中水泳や過呼吸が抗炎症効果をもたらすことはこれまでも知られていましたが、今回の研究は、ホラー体験などの娯楽的な恐怖が同様のメカニズムを利用する可能性を示唆しています。

 

 

今後の課題

この研究にはいくつかの限界もあります。

 

たとえば、制御群が設けられておらず、比較対象が偏っている点です。

 

また、炎症レベルの変化が一時的なものであるか、長期的な健康改善につながるかは不明です。

 

今後の研究では、より長期間にわたる追跡調査や、他の健康指標との関連性を検証する必要があります。

 

 

まとめ

・娯楽としての恐怖体験によるアドレナリン系の活性化が、hs-CRP値の減少につながることが示された

・こういった体験は免疫細胞のバランスを再調整し、体を健康な状態に戻す可能性がある

・娯楽としての恐怖が慢性的な健康改善に役立つ可能性がある
 

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