南極といえばどのようなイメージがあるでしょうか。
最果てに広がる極寒の地、アザラシやペンギンの聖地、はたまた南極条約や昭和基地……。
かつてその場所は、温暖で湿潤な気候があり、木々が生い茂っていたかもしれません。
今回紹介するのは、南極の環境に関する新たな発見についてです。
どうやら、現在とは全く異なった環境だったようです。
参考記事)
・First-Ever Amber Discovered in Antarctica Shows Rainforest Existed Near South Pole(2024/11/14)
参考研究)
・First discovery of Antarctic amber(2024/11/12)
南極で初、琥珀の発見
Cambridge University Pressは、ドイツとイギリスの科学者たちによって、南極で初めて琥珀が発見されたことを発表しました。
この琥珀は約8300万~9200万年前、地球上で最南端の地域で育っていた針葉樹から流れ出た樹脂が化石化したものです。
この貴重な発見により、白亜紀中期に南極近くに湿地を伴う熱帯雨林が広がっていたことが新たに示されました。
この環境は、現在のニュージーランドやパタゴニアの森林と似ており、針葉樹が主要な植生だったと考えられます。
この環境下では、樹脂を生産する針葉樹が生息し、豊かな生態系が広がっていました。当時の南極は、冬になると数ヶ月間にわたり完全に暗闇に覆われる環境でしたが、これらの樹木は休眠状態で冬を乗り越えたと考えられます。
今回の発見以前、最南端で発見された琥珀といえば、オーストラリアのオトウェイ盆地やニュージーランドのツプアンギ層のような南の温暖な地域でのみ発見されていました。
今回の発見により、“かつては地球上の全ての大陸で、樹脂を生成する樹木が生息できる気候条件が存在していた”ことが明らかになりました。
アルフレッド・ヴェゲナー研究所(ドイツ)の海洋地質学者ヨハン・クラゲス氏は、「この発見は、南極の森がどのように存在していたかを探る重要な鍵となる。琥珀の中に昆虫や微生物の痕跡が含まれているのかを調べることで、過去の生態系に関する新たな知見を得ることができるだろう」と語っています。
長期に渡る科学的探究の成果
南極では、19世紀初頭から植物の化石が発掘されてきました。
これらの化石の多くは、数億年前に存在した超大陸ゴンドワナの時代に遡るものです。
ゴンドワナが分裂して南極が現在の位置へ移動する過程で、森林がどのように変化し、最終的に消滅したのかについては未解明の部分が多く残されています。
2017年、西南極の海底を掘削した研究チームが、白亜紀中期の南極の森林に関する驚くほど保存状態の良い証拠を発見しました。(Temperate rainforests near the South Pole during peak Cretaceous warmth より)
この研究では、根や花粉、胞子の化石が見つかり、過去の生態系についての新たな知見が得られました。
そして今回、新たな掘削で発見された琥珀により、南極に樹脂を生産する針葉樹が存在していたことが直接的に示されたのです。
発見された琥珀は、泥岩層の中に存在していました。
この泥岩層は約3メートルの厚みがあり、その中から0.5~1.0ミリメートルの微小な琥珀の欠片が複数見つかりました。
それぞれの琥珀は黄色からオレンジ色を帯びており、表面には典型的なさざ波状の亀裂が見られます。
この亀裂は、樹脂が樹木から漏れ出し、火災や昆虫など外的な要因によるダメージによるものだとされています。
琥珀の保存と未来の研究
この琥珀が保存された背景には、当時の湿潤な環境が関係していると考えられます。
樹脂が流れ出した後、高水位の環境によって早期に堆積物で覆われ、紫外線や酸化から守られたことで、長期間にわたって保存されたのです。
また、琥珀には微小な樹皮の片が含まれている可能性も指摘されており、さらなる分析が進められています。
科学者たちは、こうした小さな手がかりをもとに、約9000万年前の南極の森がどのように機能していたのか、その詳細を明らかにしつつあります。
この琥珀の研究は、地球の過去の気候変動や生態系の進化を理解する上で、極めて重要な意味を持っています。
大陸の移動では説明がつかない動植物の分布や進化の変遷など、生命の進歩に関する謎が明らかになるなど、今後の研究に期待が持たれています。
まとめ
・南極で初めて琥珀が発見されたことで、白亜紀中期に南極に湿潤な熱帯雨林が存在していたことが示された
・当時、極の樹木は厳しい冬の中でも生き延びていたと考えられる
・琥珀の中に樹皮や生命の痕跡が含まれている可能性があり、過去の生態系についての新たな洞察をもたらす
コメント