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【チャールズ・ダーウィンの歴史⑳】生物の分布と進化論のアップデート

歴史

【前回記事】

 

 生物の分布の謎

 

生存競争の中で生物は遺伝と淘汰を繰り返し、環境に適した種が様々なタイプへと分岐していく。

 

ダーウィンの進化論を要約するとこのような内容になります。

 

太古の昔から現在に至るまでの生物の分岐は、彼の系統樹に表わされているような歴史を辿ったといっても違和感はありません。

  

しかし、ここにおいても彼には解決すべき難題が残っていました。

 

それは、生物が途方もない距離を隔てて分布しているという地理的な謎でした。

 

ある大陸で繁殖している植物が、遠く離れた島でも同じ種として繁殖しているという理由がわからなかったのです。

 

粉々に打ち砕いたかに思えた神の創造論が、再び彼の前に立ちはだかります。

 

神の意志によってそうなった……」、という考え方が根強く残っていた時代であり、進化論が受け入れられるためには、この理由が説明されることが望まれました。

 

ダーウィンはこれに対し、それぞれの種や系統には一つの発祥地があると主張しました。

 

彼がビーグル号の旅で発見したアルマジロやナマケモノの種は、化石を含めてもアメリカ大陸でしか発見されていませんでした。

 

これは共通の祖先がその地で誕生し、その大陸の中で分布していったことが考えられます。

 

もし、生物が神によって創造されているとしたら、気候条件が合っている別の大陸でも同じ種が発見されるか生物発祥の地が複数あっても良いはずです。

 

よって、生物の地理的なの分布を解き明かすことは、進化論を確立させるための重要なステップだったのです。

  

  

植物は海を渡れるのか

 

ダーウィンが観察した限りでは、海や湖に生息する水草や貝は、陸地があることでその種の生息域を広げることができません。

 

しかし、太平洋の島々には、同じ種の植物が海を越えて生息していることも確認されていました。

 

類縁関係のある生物が一つの地点から始まったという理論を成立させるためには、必ず解決しなければいけない疑問です。

 

まず彼は、植物の種が海を渡れるかどうかを確認するため、種子を海水に浸す実験を行ないました。

 

87種類の種子を28日間海水に浸したところ、そのうちの64種類が発芽することが分かりました。

  

続けて137日間まで浸しても数種類は発芽が可能でした。

 

親しい植物学者のフッカーはこの結果を見て、「発芽するとしても、種子が海底に沈んでしまえば元も子もない」と指摘しました。

 

確かに、種子がどれだけ強靭だとしても、海中に漂うなどして陸にたどり着けなければ意味がありません。

 

そこでダーウィンは、94種類の熟した果実をつけたままの種子で実験を行いました。

 

果実の多くは沈んでしまいましたが、乾燥させると28日間以上も海水に浮いているものありました。

 

当時の航海技術によって、大西洋の海流の速度も分かっていたため、海水に浮かんでるうちに移動する距離も推定できました。

 

その距離はなんと1500kmに及ぶことが示唆され、島から島へと種子が移動するには十分であると考えられます。

 

さらにダーウィンはもっと複雑な移動経路を考えました。

 

例えば、島から島へと渡り歩くサギなどの鳥類が運んでくれるといったものです。

 

初めのうちは、鳥のエサとなる魚が種子を食べることを期待しましたが、何度実験しても魚は種子を吐き出してしまい、どうもうまくいきませんでした。

 

いいアイデアかと思いましたが、ダーウィンはどれも上手くいかないことに落ち込む様子もありました。

 

そんな中、8歳になる息子のフランシスが「種子を食べた渡り鳥が海の上で雷に打たれて死んだとしたら、しばらくは海の上を漂ようんじゃない?」と言いました。

 

ダーウィンはそのアイデアを即行動に移しました。

 

エンドウ豆は本来、海水に浸かると発芽能力を失ってしまいます。

 

しかし、エンドウ豆を食べたハトが30日間海水の上を漂うなどした場合は別でした。

 

彼が試してみたところ、死んだハトの素囊(そのう)から取り出したエンドウ豆はしっかりと発芽したのです。

 

さらに、タカやフクロウなど肉食の猛禽類のペレット(口から吐き出す未消化の塊)を調べたところ、そういった種子を食べた鳥の素囊なども含まれていました。

 

そういった種子も発芽能力を失っていないことが分かり、猛禽類の力を借りれば種子が長距離を移動することが可能なことが分かりました。

 

これで、植物が海を渡る理由を発見することができました。

 

続く実験では、海水だけでなく、淡水などでも似たことが起きていることも分かりました。

 

ある湖の泥が鳥の体やくちばしに付着し、別の湖などに移動して落とされた場合、その泥にはいくつもの水草の種などが含まれ、すぐに発芽しました。

 

また、稚貝などが乾燥に耐え、鳥とともに他の湖に移動することも示唆され、淡水性の貝も分布を広げることが可能であることも判明しました。

 

創造論の根拠のひとつである、「生物がこんなに移動できるわけがない」という論理を真っ向から批判した実験でもあります。

 

現在でも、生物の分布や移動手段については、研究が続けられていますが、その根底はダーウィンの果てしない、執念があったと言えるでしょう。

 

 

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