心理学

【歴史を変えた心理学㉔】精神科医は偽物の患者を見破れるか 〜ローゼンハン実験〜

心理学

【前回記事】

 

この記事では、著書“図鑑心理学”と自分が学んできた内容を参考に、歴史に影響を与えた心理学についてまとめていきます。

    

心理学が生まれる以前、心や精神とはどのようなものだったのかに始まり、近代の心理学までをテーマとして、本書から興味深かった内容を取り上げていきます。

    

今回のテーマは、「ローゼンハン実験」についてです。

 

 

デイビッド・ローゼンハンと精神医学

デイビッド・ローゼンハン(1929~2012年)

 

もしあなたが医師から「君には重篤な精神疾患がある」と診断され、隔離施設で拘束されているとしたら、健康であることを証明するためにどのように医師を説得すればよいでしょうか。

 

アメリカの心理学者デイビッド・ローゼンハンは、こういった“精神疾患の診断に関する重大な問題点”について研究を行った人物です。

 

スタンフォード大学教授だった彼は、反精神医学者ロナルド・ディビッド・レインの主張に関心をもっていました。

 

レインは、精神分裂病(現在では統合失調症と呼ばれている)の患者に対して、「入院治療によって隔離・回復させよう」という当時主流だった精神医学的なアプローチを批判していました。

 

隔離させることでより心が閉鎖的になり、なんの治療にもならないと考えていたのです。

 

それよりはむしろ、彼らを積極的に地域に解放し、地域の側も含めて病気を理解することで、治癒を目指した方がよいとしていました。

 

そのため、彼は自らの私財を投じて医者と患者の共同住居を設けて治療活動を行っていきました。

 

こういった経緯からローゼンハンも、精神疾患患者に対して正しい診断や治療ができているのかについて大きな疑問を持っていました。

 

1973年、ローゼンハンは他の7名の研究者の協力を得て、精神科医がどの程度間違いを犯しているのかを明らかにするため、ある実験を行いました。

 

 

ローゼンハン実験

ローゼンハン実験舞台となった病院の一つセント・エリザベス病院 Tomより

 

この実験は、各研究者が精神科のある病院に入院し、精神障害に対する診断や治療の有効性を確かめる、という趣旨のもとで行われました。

 

8人の研究員らはアメリカ各地の精神病院に偽りの名前で入院し、全員が「幻聴に悩まされている」と訴えました。

 

彼らは共通して、「幻聴は、何を言っているのかはハッキリしないものの、『ドシン』という音がする」と医師に報告しました。

 

8名全員が入院を許され、その後の検査によって7人が“精神分裂病(統合失調症)”と診断されました。

 

また、ニセ患者(研究員)らは入院時に「もう幻聴は聞こえなくなった」と伝えています。

 

研究者らは、各病院で診断の状況や医療スタッフの行動がわかるような克明な記録を取りました。

 

この記録する行動も、医療スタッフは精神疾患による異常な心理状態の証拠であると見なしました。

 

最初に入院生活から解放されたニセ患者は、7日間で退院することができましたが、他の者たちは2週間以上入院させられました。

 

ニセ患者らの入院期間は7〜52日間で、平均入院期間は19日間でした。

 

入院している他の患者が、研究者が“患者のふり”をしているのに気づいたことはありましたが、医療スタッフは誰も気づきませんでした。

 

問診の中では一貫して幻聴がないことを伝え続けましたが、退院するためには「精神障害があり、今自分は回復期であることを認めること」、「抗精神病薬を服用すること」が条件でした。

 

ローゼンハンがこの研究結果を公表すると多くの反応が寄せられました。

 

精神科の医療機関からは、ローゼンハンへの挑戦と言わんばかりに「もう一度、同じようにニセ患者を送り込むように」と要請されました。

 

ローゼンハンら研究員はこの要請に対し、二次研究として各病院に“3ヶ月に1人以上の患者を送り込む”ことを告知。

 

対象となった病院では医療スタッフに対して、「ニセ患者にだまされないように」と警告を出しました。

 

その結果、合計193名の入院に対して、精神科医は23名がニセ患者であると特定しました。

 

【内訳】

・判断された患者数

→193人

 

・少なくとも1人のスタッフによって疑似患者として自信を持って判断された患者数

→41人

  

・1人の精神科医によって疑われた患者数

→23人

 

・1人の精神科医と他の1人のスタッフによって疑われる患者数

→19人

 

しかし、ローゼンハンは、このとき一人もニセ患者を送ってはいませんでした。

 

これらの研究結果からローゼンハンは、「精神科医が正気の人と狂っている人の違いを正確に見分けることができないことを示している」と主張しています。

 

また、間違ったレッテルが貼り付けられた患者は、そのレッテルに従って医療行為が行われてしまうとし、患者を“非常識”とラベリングする前に、個人の特定の問題や行動に焦点を当てるべきだと提案しています。

 

 

まとめ

・ローゼンハンは、当時の精神医学に疑問を持ち、いくつかの精神病院にニセの患者を送り込んだ

・精神病院はニセの患者を見破ることができなかった

・精神病院は、再度ニセの患者を送るように挑戦状を叩きつけ、19人の患者をニセも者と判断した

・しかし、ローゼンハンはこのとき一人もニセモノを送っていなかった

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