心理学

【歴史を変えた心理学⑳】ヒューリスティックとバイアス

心理学

【前回記事】

 

この記事では、著書“図鑑心理学”と自分が学んできた内容を参考に、歴史に影響を与えた心理学についてまとめていきます。

  

心理学が生まれる以前、心や精神とはどのようなものだったのかに始まり、近代の心理学までをテーマとして、本書から興味深かった内容を取り上げていきます。

   

今回のテーマは、「ヒューリスティック」についてです。

 

 

ヒューリスティック

ヒューリスティック(ヒューリスティクス)とは、人間が意思決定をする際、完璧な分析のもとで判断するのではなく、経験や先入観などの直感的に考えて判断する思考法のことです。

 

この根底には、“人間の思考”という、人間的な活動の歴史や心理的な要素が詰まっています。

 

デカルト「我思う、故に我あり(Cogito, ergo sum)」

 

フランスの哲学者ルネ・デカルトは、今自分が信じているもの全てに疑問を投げかけ、疑うことのできない事実だけを真理として認めようとしました。

 

ルネ・デカルト(1596~1650年)

 

目の前にあるリンゴが本当にリンゴであるのか……、他の者から見ても同じように見えるのか……、リンゴを触っている感覚は何者かによってそう思わされているだけではないのか……、そもそも目の前のものをリンゴと認識している肉体自体が幻影ではないのか……。

 

そのように考えていくと、世界のあらゆる物や事象を疑うことができます。

 

しかし、「このことを考えている自分が今まさに存在するのだから、自分という意思や思考、精神が存在することは疑いようがない事実である」という考えに至り、デカルトは「我思う、故に我あり」という言葉を残しました。

 

哲学的な面からも科学的な面からも、人間が思考することが確からしいと言えます。

 

ただし、思考に関しては、私達が思っているほど、正確ではないようです。

 

何か物事を判断する際、私たちは悩みながら考えますが、結局のところ、経験から得たあいまいな知識や直感で決めたりすることがほとんどです。

 

時には、非合理的な行動をあえて取ってしまうことさえあります。

 

痩せるために食べ物を控えたり運動した方がいいとは分かっていても、ついつい食べ過ぎたり簡単な運動すらサボってしまうのがその例です。

 

1974年に、ダニエル・ カーネマンとエイモス・トベルスキーの共同研究の結果、人間は、物事の判断に関してまったく合理的でないことが示されました。

 

ダニエル・カーネマン(1934~) nrkbetaより

 

私たちはヒューリスティックに依存し、その情報が偏っているために、頻繁に間違った判断を下しているというのです。

 

これには脳の思考システムが関係していると考えられています。

 

 

システム1とシステム2

カーネギーらは、システム1システム2という二種類の思考方法を特定しました。

 

システム1は感覚的なモードです。

 

どちらかというと自動的で無意識に働き、ステレオタイプや感情によって導かれます。

 

・簡単な足し算をする。

・人がもっているかどうかを判断する。

・音がどこから聞こえるのかを判断する。

・物体がどれくらい離れているのかを判断する。

 

などの単純で頻繁に繰り返される課題では、理想的に働きます。

  

システム2は理性的なモードです。

 

理性や熟慮が必要な計算に基づいて判断がなされ、時間と努力が必要となります。

 

よく似た二つのものがあるときにどちらがよいかを比較したり、物や人に注意を向け続けるような、日常的ではない問題に取り組むときに適切に働きます。

 

 

ある課題にシステム1を適用するのと、システム2を適用するのとでは、結果は全く異なってきます。

 

システム1は時間の節約になりますが、課題が複雑であったり、新しいものであったりするとエラーを起こすことが少なくありません。

 

システム2は思考(推論)を用いて物事の解決をすることができますが、推論で解決できないものもあります。

   

例えば、眠れない日が続くとき原因不明の肩こりなどです。

  

このようなシステム2でも解決できそうにない問題は、システム1が経験を用いて結論を出そうとします。

  

・眠れない日が続くのはストレスのせいではないか……

・肩こりが酷いのは目が疲れているからではないか……

  

しかしシステム1の本来の使い方とは違うことから、ある特定のパターンにおいてエラーが起こります。

  

このエラーのことを“バイアス”といいます

  

このエラーとバイアスを少し体験してみましょう。

  

クイズ

【条件】

文章を読んだ後、問いの中からどちらかひとつを選んでください。

  

【文章】

ソフィーは32歳の独身女性です。

社交的な性格で、大学では哲学を専攻し、差別問題に高い関心を持っています。

  

【問い】

①ソフィーは銀行員である

②ソフィーは慈善活動に積極的な銀行員である

  

さてどちらを選んだでしょう。

  

この問いの正解は①です。

  

理由は、この例題について論理的に考えたとき、“ソフィーが銀行員である確率”より“ソフィーが慈善活動に積極的な銀行員である確率”の方が低いからです。

 

普通に考えると、銀行員という大きな枠組みの中に慈善活動に積極的な銀行員がいるのですから、銀行員の数の方が多いに決まっています。

  

カーネマンらの研究においても、同様の質問をした場合には②を選んだ人が多かったといいます。

  

哲学が好きで差別問題に積極的ならば、きっと慈善活動にも積極的だろうという“印象”で答えを出してしまったのです。

  

このようにシステム2で解決できない問題にはシステム1が現れ、その上で間違いを生み出す可能性があることが分かります。

  

このように心の中で都合よく解釈してしまうことが“代表性バイアス”です。

 

最後に、これら思考のシステムに影響するいくつかの認知的バイアスについて見ていきます。

 

  

認知的バイアス

 

システム1では、すでに知っていること(または知っていると思っていること)を利用するために時間の節約になりますが、憶測で歪められた手っ取り早い方法に頼っているため、間違った判断も出てきます。

 

このような認知的バイアス(偏見、傾向)は、すでに数多く特定されています。

 

今回は、「アンカリング」、「利用可能性ヒューリスティック」、「自信過剰バイアス」、「バンドワゴン効果」について紹介します。

 

【アンカリング】

アンカリングとは、最初に目にしたものに基づいて答えを出してしまうという傾向のことです。

ですから、複雑な足し算をするときに、計算の最初が大きな数字で始まっていると、答えが大きな数値に偏り。

逆に小さな数字で始まっていると、答えも小さな数値になりがちです。

 

【利用可能性ヒューリスティック】

利用可能性ヒューリスティックとは、簡単に頭に浮かぶことから判断してしまうという傾向のことです。

「あ」で始まる単語と「け」が3番目に来る単語では、どちらの数が多いでしょうか?

こう聞かれると、3番目に「け」が来る単語より、最初に「あ」が来る単語の方が頭に浮かびやすいので、Aの回答をする人が多くなります(正解はBです)。

 

【自信過剰バイアス】

自信過剰バイアスとは、他人の考えよりも自分の直感を信じ、自信をもつという傾向のことです。

私たちは、何においても100%正しいはずはないのですが、思っていることが正しいと感じることはあります。

しかし、実際には半分近くは間違っていることがほとんどなのです。

 

【バンドワゴン効果】

バンドワゴン効果とは、大勢の人が支持している物や事に同調し、いっそう支持が大きくなるという傾向のことです。

周りの人が人気のスイーツを買っているとき、別に好きでもないのに自分も欲しく感じてしまうのはこういった心理効果によるものです。

 

こういった様々なバイアスによって、私達は無意識のうちに思考がコントロールされているのです。

 

特に行動経済学においては、これら心理的効果を利用することで、経済活動に繋げていく方法が常々研究されています。

 

認知バイアスを知っておくことは、自分が何か行動しようとした時、それが合理的かどうかを判断する材料となり、お金や時間を無駄にせずに済むというメリットもあります。

 

 

まとめ

・ヒューリスティック(ヒューリスティクス)とは、完璧な分析のもとで判断するのではなく、経験や先入観などの直感的に考えて判断する思考法のこと

・思考は、感覚的な思考のシステム1と論理的な思考のシステム2によって分けられる

・無意識や直感的な判断はシステム1が担っており、脳のエラーを引き起こすことがある

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