イタリアのチーズ、ドイツのザワークラウト、韓国のキムチ、そして日本の味噌や納豆……。
発酵や塩漬けなどをによって食品の保存性を高めるという文化は、各国の食文化の歴史において重要な役割を担ってきました。
食品が保存できるようになったことで、収穫や狩猟の量が少ない時期を乗り越えることができ、村や集落といったコミュニの存続が容易になりました。
遠い祖先の人々が培ってきた文化が今に受け継がれ、その根本的な作り方や原理は変わっていません。
食文化における縁の下の力持ち的な存在の保存食ですが、その影響は人間の脳に素晴らしい影響を与えたかもしれません。
今回のテーマとして以下にまとめていきます。
参考記事)
・Food Preserving Technique May Have Sparked Human Brain Growth, Scientists Say
保存食品と脳の進化
フランスのエクス=マルセイユ大学の進化神経科学者キャサリン・ブライアント氏らによる研究では、発酵食品の存在によって人間の脳が大きく進化した可能性があることが主張されました。
過去200万年の歴史の中で人類は進化し、人間の脳のサイズはおよそ3倍になりました。
一方、人間の結腸は推定74%ほど縮小し、これは、植物のような消化に時間のかかる食べ物を体内で分解する必要性が減少したことによるものと考えられています。
では、なぜ私たちの脳は腸とは対照的に大きくなっていったのでしょうか。
研究者らは、本来腸内で細菌たちによって行われていた“発酵”が腸の外で行われるようになったことが要因の一つではないかと考えました。
ヨーグルトやキムチなどの外部発酵食品によって、腸が強力にサポートされるようになったということですね。
人間の腸内細菌(腸内細菌叢)によって行われる発酵は、消化中の栄養素の吸収を高める役割があります。
有機化合物は酵素によってアルコールと酸に発酵され、酵素は通常、結腸などの消化器系の一部に生息する細菌や酵母によって生成されます。
発酵そのものは嫌気性(酸素を必要としない)の反応であり、密閉された容器内でも発酵が起こります。
このプロセスによって、私たちの重要な化学エネルギー源であるアデノシン三リン酸 (ATP)の形でエネルギーが生成されます。
外部発酵食品は、生の食品よりも消化が容易で、利用可能な栄養素がより多く含まれています。
そのため、食物がすでに発酵している場合は腸ができることが少ないこともあり、臓器のサイズは進化の過程小さくなっていったと考えられています。
脳の成長と利用できるエネルギー
私たちの祖先であるアウストラロピテクスの脳の大きさは、現在のチンパンジー(パン・トログロダイト)やボノボ(パン・パニスカス)の脳の大きさと同程度のものでした。
人類の系統の脳の肥大は、ヒト(ホモ)の出現とともに加速し、ホモ・サピエンス、ホモ・ネアンデルターレンシスまで及びました。
チンパンジーほどの脳の大きさしかなかった私たちの祖先は、どのようにして外部発酵の力を利用することができたのでしょうか。
研究チームは、認知能力が低く脳が小さいヒト科の動物は、動物の狩猟や火を使った調理など腸からの栄養吸収や脳へのエネルギー変換の効率化よりも“はるかに早く発酵に適応した可能性がある”と示唆しています。
食品が発酵すると、食感が柔らかくなり食べ良くなったり、カロリーの増加、栄養素の吸収の向上、有害な微生物への防御など多くの利点があります。
発酵に必要なのは地面の穴や洞窟の窪みなどの単純な保管スペースだけでよく、ストレスがかからずに栄養価の高いものを手に入れることができます。
狩猟や火おこしなど、準備や道具が必要だったり命を危険に晒すリスクがあるわけではありません。
研究者らは、 「外部発酵の発見はおそらく、単に食べ物を共通の場所に持ち帰り、そこに保管し、断続的に食べたり追加したりしたことによる偶然の産物だろう」と述べており、食品に含まれていた微生物が新しい食品に影響して発酵が引き起こされた可能性を指摘しています。
研究チームは、微生物学的研究、比較分析、遺伝子およびゲノム調査など、仮説を裏付ける、もしくは反駁するための実証研究の必要性を強調しています。
研究の著者らは、「腸内発酵から外部発酵に頼ることにしたことは、人類の重要な革新であった可能性があり、脳が拡大するために必要な代謝条件を整えた可能性がある」と結論づけています。
いずれにしろ、発酵食品と腸内細菌の関係が与える人類への良い影響は計り知れず、日本人においては味噌や納豆などの多くの発酵食品に恵まれています。
今後もそういった食品を積極的に摂取し、腸内細菌を活発化させることが、健康的な生活を送る上での大きな助けになるでしょう。
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