注意欠陥や多動性障害と呼ばれ、発達障害として知られているADHD。
普通の人と比べて「集中力がない」、「仕事ができない」という印象があったりと、現代社会では何かとマイナスに働きがちです。
そんな特殊な障害と言えるADHDですが、実は遥か昔においてこの能力が生存に有利だった可能性があるという研究結果が示されました。
今回はそんな発達障害に関する研究についてです。
参考記事)
・ADHD Traits May Have Evolved to Provide Foraging Advantages, Study Says(2024/02/22)
参考研究)
・Attention deficits linked with proclivity to explore while foraging(2024/02/21)
ADHDがもつ進化に有利な点
ペンシルベニア大学の研究から、ADHDのような形質を持つ人々は、野生で食べ物を見つけるという点において利点があるかもしれないという結果が報告されました。
ペンシルベニア大学の神経科学者デビッド・バラク氏らの実験では、457人の参加者を対象に、限られた時間内にコンピュータ画面上の“茂み”からできるだけ多くの果実を摘むというタスクを与え、その結果を分析しました。
【実験で提示された課題】
「この実験では、与えられた時間内にできるだけ多くのベリーを集めることが目標です。
各ステージごとに、今いる茂みに留まるか、現在の茂みを離れて新しい茂みに移動するかを選択します。
現在の茂みからベリーを選ぶには、中央ボックスの隣の茂みの上にカーソルを置きます。
各試行で収穫したベリーの数が茂みの横に表示されます。
同じ茂みから繰り返し摘み続けると、ベリーを摘む数は減少します。
いつでも現在のブッシュを離れて新しいブッシュに移動することを選択できます。
そうする場合、次の茂みに移動するまで待つ必要があります。
ただし、新しい茂みに到着すると、各収穫時に収穫するベリーの量は初期値にリセットされます。
ステージごとに茂みなどの環境が変化します。
環境内に存在する茂みの数は無制限ですが、時間は有限です。
できるだけ多くのベリーを集めてみてください!」
この実験終了後、参加者はアンケートに回答しました。
それらの結果から、ADHDでないと判断された人は、最適な採餌を達成するためにベリーブッシュに長く滞在する傾向がありました。
一方、ADHDのような特性を持つ人々は、茂みのベリーを摘みきる前に次のベリーの茂みに移動しました。
この行動によって結果的に効率が上がり、実験の終わりまでにより多くの果実を集める結果となりました。
この調査結果は、遊牧民のライフスタイルがADHDに関係する遺伝子変異に結びついていることを示唆する研究によっても支持されています。
ADHDの世界的な有病率を説明するために、利点に注目したのはこれが初めてではありません。
以前の研究でも、ADHDの人は検索によって目標となる事柄を調べる時間が通常の人よりな長く、より遠回しくなる傾向があることが分かっており、これは創造性を豊かにし、新しいアイデアを生み出す可能性を高めるかもしれません。
ADHDのような特性が一部の環境で適応的であるという考えは、依然として限定的な考え方であり、今後にさらに研究の必要があります。
また、私たちが感じているように、採餌活動から外れた現代社会では、ADHDの特徴が必ずしも有益であるとは限りません。
ADHD特有の(脳報酬センターのドーパミン経路の機能不全によって引き起こされる)絶え間ない報酬を求める行動によって、ADHDの人が与えられたタスクを完了せずに別のタスクに気をとられてしまうことが多くあるからです。
現代での生活ではADHDの特徴を持つ人にたいしての理解は深まっておらず、学校での勉強や仕事においても度々問題を引き起こす可能性があります。
しかし、今回のような調査結果は、そのようなネガティブなイメージではなくポジティブな側面を知って理解するきっかけすることもできます。
もしかしたらかつては、ADHDの特性がある者が集団の中にいたからこそ、グループとしての生存率の増加や種としての繁栄が成されていたのかもしれません。
この研究はProceedings of the Royal Societyにて確認することができます。
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