今回紹介するのは18世紀末期フランスを舞台にした映画「デリシュ!」です。
〜あらすじ〜
宮廷料理長だったマンスロンは、ある時ジャガイモを料理に使用したことが原因で主人から解雇を命じられしまいます。
失意の中田舎に戻るマンスロンは、もう料理はしないと決め、今後の行く末に身を任せようとしました。
そんな中、彼のもとに料理の修行したいと言う女性が現れます。
初めのうちは弟子は取らぬと断っていたマンスロンでしたが、彼女の熱意に打たれ彼は次第に料理に向き合うように……。
彼らは貴族も平民も食事を楽しむことが出来る「レストラン」を目指していくのです。
〜背景〜
フランス革命と言えば、税金を貪る貴族や聖職者への特権に対する不満によって起こった市民革命です。
バスティーユ牢獄襲撃をきっかけに始まり、フランス国王ルイ16世やマリー・アントワネットらの処刑によって収束を見せました。
ルイ16世はぽっちゃり体型で愚鈍なイメージで描かれることがありますが、実際は国民のためを思って政権を動かした名君でもあります。
彼の趣味は、庶民のもとへ直接出向き、視察をすることでした。
貴族との関係から頓挫した改革もありましたが、拷問や農奴制の廃止、困窮時には王宮の穀物庫を解放したりもしました。
そして何よりそれまでフランスで忌み嫌われていた「ジャガイモ」の普及に努めた人物でもあります。
〜悪魔の作物「ジャガイモ」〜
今でこそじゃがいもは栄養豊富で様々な調理法ができる美味しい食べ物と知られています。
しかし、その頃のヨーロッパでは「ジャガイモ」は悪魔の作物と言われ忌み嫌われていました。
その理由は、種ではなく種芋から増えるという聖書には記されていない増え方をすることや、放置したジャガイモの見た目の悪さ、芽や変色した皮に含まれる毒性などさまざまな理由がありました。
映画内でも、鳥や空など“天”に近いものほど神聖なものであり、動物や木の根など“地”に近いものほど悪しきものであるという風潮を踏襲しています。
映画の主人公マンスロンは、味にこだわるあまりにジャガイモを使った料理を考案し、無理を通したために主人を激高させてしまったというワケです。
ちなみに映画の舞台である1789年、ルイ16世はすでにジャガイモの有用性を知っているはずです。
なぜなら、植物学者であり農学者のパルマンティエから報告を受けていたからです。
映画冒頭でジャガイモを食べさせられた貴族が「ドイツ人じゃあるまいし」と口走っています。
これは、隣国プロイセンではこの時すでにフリードリヒ大王の手腕によってジャガイモが普及していた背景があり、そんな悪魔の作物を大量に作っているプロイセン(ドイツ)人を見下す意味が含まれたセリフでもあります。
従軍中のパルマンティエがプロイセン軍の捕虜になっていた際にじゃがいもを食べさせられていました。
そこで彼はジャガイモの価値に気づき、祖国フランスに持ち帰り、ルイ16世に報告していたのです。
しかし、まだまだ長き歴史による偏見は拭いきれない上、悪魔の作物以外にも食べ物がたくさんある貴族にとっては、わざわざじゃがいもを食べるという習慣は浸透していなかったのでしょう。
そんな設定がうまく活用された映画です。
ちなみにジャガイモを普及させた流れは陶磁器と歴史の動画「KPMベルリンとフリードリヒ大王」でも紹介しているのでそちらも良ければ是非!
↓(動画はじゃがいもの行の19:32~からのスタートです)
以上、ここまでの背景を知っていると映画がもっと楽しくなると思います!
観たい映画に迷った際には思い出してみてください。
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