心理学

【心理学の歴史㉓】誰かからの報酬より心の中にあるモチベーションを大切に ~デシの内発的動機づけ〜

心理学

【前回記事】

 

この記事は、著書“心理学をつくった実験30”を参考に、”パヴロフの犬”や”ミルグラム服従実験”など心理学の基礎となった実験について紹介します。

   

「あの心理学はこういった実験がもとになっているんだ!」という面白さや、実験を通して新たな知見を見つけてもらえるようまとめていこうと思います。

    

今回のテーマは、“デシの内発的動機づけ”です。

   

         

         

内発的動機づけ

【本書より引用(要約)】

  

人が何かを達成しようと行動するとき、そこには必ず何らかの動機(モチベーション)があるはずです。

  

お金のため、好きな人に振り向いてもらうため、怒られないようにするため、自己実現のため、単なる知識欲……、動機づけの要因は人によって様々です。

  

ハーロウのサル”を紹介した際、あるサルはご褒美がないのに、面白がって研究室のスイッチをON・OFFしていました。

  

その様子からハーロウは、ちょっとしたパズルのようなものであればサルやチンパンジーは餌などのご褒美を与えなくても面白がってやることに気づきました。

  

こういった自身の内面から湧き上がる興味・関心などの欲求による現象を“内発的動機づけ”と表現しました。

  

エドワード・L・デシ(1942年~)Wikimedia より

  

アメリカのロチェスター大学の心理学者エドワード・デシは、そういった心の中のモチベーションを心理学的に研究した人物です。

  

“内発的動機づけ”が人間ではどのように作用するのか……。

  

以下に彼が行った実験のを紹介していきます。

  

  

【実験】デシの内発的動機づけ

  

1971年、デシは大学生を対象に、ソーマと呼ばれるパズルを使った実験を行ないました。

  

ソーマは大きめのサイコロのような形をした立方体で、それらを組み合わせて様々な形を作っていくパズルのようなものです。

  

ソーマを解く大学生は二つの異なるグループに分かれました。

  

一つ目のグループは、ソーマのパズルが一問できるたびに一ドルずつ報酬が与えられます。

  

もう一方のグループはそのような報酬は一切与えられず、ボランティアで実験に協力するという形をとっていました。

  

二つのグループが課題に取り掛かると、しばらくして実験監督者が席を外します。

  

このとき監督者は、「私は席を外しますが、その間自由に何をしていても構いません」と告げ部屋を出ていきました。

  

監督者がいなくなった後、被験者となった大学生たちの行動を見てみると、グループによって明らかな違いがありました。

  

一ドルの報酬があるグループは、監督者が部屋を出た途端にパズルを解くのをストップし、部屋に置いてあった雑誌を読むなどしてくつろいでいました。

  

一方、報酬のないグループは、監督者が出ていっても同じようにパズルを続けていました。

  

この結果をどのように見たら良いでしょうか。

  

ソーマではイメージがしにくいですが、ルービックキューブやクロスワードはどうでしょう。

  

やったことがある人は分かるかもしれませんが、こういったパズルなどは、軽い気持ちで始めたとしてもどんどんはまっていくものです。

  

一般的に考えると、あまり面白くない仕事や勉強に対してはなかなか意欲が湧かないですが、自分で面白いと感じるようなものに対しては、以前とやる気が湧いてきます。

  

これは研究室のサルが報酬を得られる訳でもないのに電気をON・OFFしていたことに通じ、お金を貰わずにソマを解いていた大学生たちは内発的に動機づけられていたのです。

  

逆に、一ドルの報酬をもらっていたグループは外発的に動機づけられていると言えます。

   

  

誰かからの報酬より心の中にあるモチベーションを大切に

この実験が明らかにしたのは、人が内発的動機づけで行動している状態にあるとき、下手に報酬を渡すなどの外的要因を導入してはならないということでしょう。

  

報酬を貰わずにパズルをやっていたグループは、自分で楽しいと考え、自らパズルに取り組んでいました。

  

この状況は、自分で自分をコントロールしているような状態と言えます。

  

ところが、一ドルの報酬を貰ってパズルを解いていたグループは、そのモチベーションは自分の中から湧き出るものではなく、お金を得るという強力な目的によって支えられていました。

  

そして、行動のコントローラーは、自分自身ではなく報酬を与えてくれる実験者となってしまったのです。

  

その結果、実験の監督者が部屋を出て行ってしまうと、本来面白いはずのパズルに気持ちが向かず、やる気を失ってしまう……。

  

このように動機づけにとって大切なのは、報酬があるかないかではなく、自分が環境をコントロールできるかにあるのです。

 

 

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