【前回記事】
この記事は、著書“心理学をつくった実験30”を参考に、”パヴロフの犬”や”ミルグラム服従実験”など心理学の基礎となった実験について紹介します。
「あの心理学はこういった実験がもとになっているんだ!」という面白さや、実験を通して新たな知見を見つけてもらえるようまとめていこうと思います。
今回のテーマは、“記憶の文脈効果”です。
記憶の文脈効果
【本書より引用(要約)】
ジョン・ブランスフォード(1943~2022年)ワシントン大学HPより
前回、エビングハウスの忘却曲線にて心理学における“記憶”の分野について触れていきました。
今回は記憶の定着について研究し、認知心理学や学習科学の家元として知られるジョン・ブランスフォード氏の実験を見ていこうと思います。
1972年、彼は文脈と記憶力との関係にフォーカスした実験を発表します。
実験の流れは、まず、被験者に文章を示し、それを記憶させ、その後に理解の程度を7段階で評価させました。
・よく理解できた=7点
・理解できていない=1点
実験の被験者に示された文章は以下のようなものでした。
【本書より引用】
その風船が空に打ち上げられたとしても、音は達することができない。
なぜかというと、根本的に必要な高さのフロアからあまりに離れているからである。
窓が閉まっていることもまた、音を届きにくくしている。
大抵のビルはよく音を遮断するようになっているのだ。
ことがうまく運ばれるかどうかは天気が安定して流れているかどうか次第なので、電線の途中が切れることも問題が生ずる原因となる。
当然のことだが、人は大声を出すことができるが、人間の声は十分ではないので遠くまでは届かない。
さらなる問題は、その器具の弦が切れることである。
こうなるともうメッセージに伴奏をつけることができないのだ。
あまりにも明らかであるが、一番いい方法は距離を短く取ることである。
そこには潜在的な問題はほとんどない。
すぐ顔が見えるぐらいのところでやれば、まずいことが起こる数は最低限にできるのである。
(著者訳)
この文章を読んでよく理解できたという人はそんなにいないでしょう。
どちらかと言えば「理解できない」という印象を受けるはずです。
実験の被験者は50人の男女の高校生のボランティアで、10人ずつ五つのグループに分けられました。
【各グループの条件】
①文脈なし条件
文章を聞かされるだけで、予備知識など一切提示されない
②記憶前文脈提示条件
文章を聞かされる前に、文脈に関係する絵を提示される
③記憶後文脈提示条件
文章を聞かされた後で、文脈に関係する絵が提示される
④不完全文脈提示条件
記憶すべき文章は同じであり、この文章でも文章が提示される前に絵が提示される
ただしこの絵は、文脈に関係のあるものが列挙してあるだけのもの
⑤文脈なし繰り返し記銘条件
文章を聞かされるだけだが、2回聞くことができる
これら五つの条件のうち、どのグループが最も文章を記憶できるでしょう。
結果は以下の通りでした。
当たり前に感じる方もいると思いますが、文脈に関係のある絵を見せられた後に文章を聞かされた②のグループが最も成績が良いものとなりました。
その他のグループはほとんど成績が変わらないことが分かりました。
興味深いのは、絵を見せられる条件が後になっただけ(グループ③)なのにも関わらず、グループ②に比べて成績がガクッと下がっていることです。
これは文脈が記憶する時に役立つのであって、後で思い出す時には役立つわけではないことを示しています。
また、グループ④のように、ものを列挙しただけで文脈に関係のない状態を見せられたとしても、記憶が定着しやすいというわけではないことも分かりました。
この実験から言えることは、記憶とは、空いている記憶の容量に隅から物を置くように記憶していくのではないということです。
記憶する際は、まず思い出す手がかりとなるような文脈に紐付けし、その文脈と一緒に記憶しているのです。
記憶は紐づけが基本
人間の認知というのは、これだけのことを覚えるにしても、複雑な情報処理を行っていることが分かります
一問一答の暗記がとても覚えにくく、何回もやってるはずなのに日が経つと忘れてしまう。
一方、歴史のマンガやアニメ、ドラマなどから得た人物像や歴史背景などはよく覚えており、その出来事を中心によく覚えることができた……。
他人の名前を覚えるのは苦手で、何度か会っているはずなのに自信を持って名前を呼べない。
一方、「あの人はイガグリのように髪がツンツンしているから、確か栗田さんだ!」と、ぱっと見でも分かる見た目と名前の共通点を見つけて覚えることができた。
そんな経験がある方もいるのではないでしょうか。
どうやら記憶とは無駄なことをインプットするようにはできていないようですね。
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