心理学

【心理学の歴史⑪】 学習の記憶保持率を明らかにした実験 〜エビングハウスの忘却曲線〜

心理学
German experimental psychologist Hermann Ebbinghaus.

【前回記事】

 

この記事は、著書“心理学をつくった実験30”を参考に、”パヴロフの犬”や”ミルグラム服従実験”など心理学の基礎となった実験について紹介します。

   

「あの心理学はこういった実験がもとになっているんだ!」という面白さや、実験を通して新たな知見を見つけてもらえるようまとめていこうと思います。

   

今回のテーマは、“エビングハウスの忘却曲線”です。

  

       

        

エビングハウスの忘却曲線

【本書より引用(要約)】

German experimental psychologist Hermann Ebbinghaus.

  

1960年代に入り、“刺激→認知→反応”の考え方が受け入れられるようになると、心理学者らは“認知”の仕組みを解明することに関心をもつようになっていきました。

  

この認知について心理学的に研究する分野を認知心理学と呼びます。

  

認知心理学の研究者は、まず、人間の記憶には情報を保存しておく二つの箱のようなものがあると指摘しました。

  

現在でいうところの短期記憶と長期記憶に当たる概念です。

  

ドイツの心理学者ヘルマン・エビングハウスは、この記憶の法則性を明らかにした人物です。

  

彼は元々歴史や哲学を学んでいましたが、偶然手に取った本から心理学に関心を持ち、個人的に記憶の実験を始めたと言われています。

  

普仏戦争にて研究が中断するも、23歳で博士号取得、実験心理学や認知心理学の分野で活躍することになります。

 

そして、それら彼の代表な業績として有名なもののひとつが“エビングハウスの忘却曲線”です。

 

ここからこの実験の過程を見ていきましょう。

  

被験者はエビングハウス本人一人だけです。

  

過去の学習の影響を排除するため、エビングハウスはローマ字3つをランダムに並べた無意味な音節を作り、それを13個で1セットとしました。

 

実験はこれを8セット用いました。

  

まず、原学習(初回学習時)に、これら13個の音節からなる1セットを記憶するのにかかる秒数が記録されました。

  

記憶したとみなされる基準は、「間違えることなく正確に二度繰り返して言えること」としました。

  

そして次に、“一定の時間”を置いてから同じ音節を再度学習し、同様に正確に二度繰り返して言えるまでを反復し、その時間が記録されました

  

【一定の時間の基準】

原学習から……

・19分後

・1時間後

・8時間後

・1日後

・2日後

・6日後

・31日後

……

 

となっており、8つの音節のセットは、いずれかの時間に数回ずつ割り当てられました。

  

その結果が以下のグラフです。

  

    

ここで、原学習からの経過時間と記憶の保持率の関係をまとめておきます。

 

例えば原学習(初回学習)に3000秒かかったとします。

  

翌日、後覚えたものを思い出そうとしても忘れているのが普通ですが、再学習してみると今度は1200秒で覚えることができました。

  

これは1800秒分は記憶しており、学習する必要がなかったということです。

 

【式】

3000秒(原学習)-1200秒(再学習)=1800秒

  

これを原学習に対するパーセンテージで表すと、1800秒÷3000秒=0.6となり、60%は覚えていたと表すことができます。

  

忘却曲線の記憶の保持率は、このような秒数を基に原学習に対する再学習のパーセンテージを平均化した値です。

  

忘却曲線を見ると、意識して頑張って覚えられたつもりになっても、時間が経つとあっという間に忘れていくことが分かります。

 

19分後の保持率は60%程度、1時間経つと50%を切り、1日たつと30%ほどまで落ち込みます。

 

それ以降はそれほど差がなく6日が経過すると3割弱、31日後で21%ほどになります。

 

ここから言えることは、長期記憶として頭の中に定着したと思った内容は、あっという間に7、8割は忘れてしまい、1ヶ月も経つと2、3割しか残らないということです。

 

ただし、その2、3割の記憶は、忘れにくいと言えます。

  

忘却曲線を例に挙げ、一夜漬けの効果が薄いと主張することがあるのはこのためなのです。

  

  

実験結果の注意点

しかし、この結果には注意点もあります。

 

8時間後の記憶の保持率は35%程度となるこの実験結果。

  

実際に一夜漬けしたことがある人は違和感を感じるかもしれません。

  

前の晩に丸暗記をし、翌日ほぼ8時間後に行われるテストの際、本当に3割強程度しか覚えていなかったでしょうか?

  

実際はもっと記憶に残っていたと感じる人もいるはずです。

 

これにはもちろん理由があります。

 

実験で用いた記憶用の素材が、ひときわ覚えにくい無意味な音節であったことが考えられます。

  

通常何かを覚える際、漢字であれば部首や音で覚えることもでき、歴史であれば前後の時系列や出来事に関係する人物から推測することもできます。

  

そう考えると、実際にはエビングハウスの忘却曲線よりも定着率はもっと高いと考えることができるのです。

  

ここで新たな疑問が湧きます、なぜエビングハウスが並べたような無意味なアルファベットは、一夜漬けで記憶した教科書や参考書の内容より覚えにくいのでしょうか。

  

同じ記憶するという行為ですが、この現象を説明した実験があります。

 

次回、記憶の文脈効果の実験にて説明します。

 

 

次回記事

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