心理学

【心理学の歴史⑥】経験は役に立つのか 〜ゴットシャルトの認知実験〜

心理学

【前回記事】

 

この記事は、著書“心理学をつくった実験30”を参考に、”パヴロフの犬”や”ミルグラム服従実験”など心理学の基礎となった実験について紹介します。

  

「あの心理学はこういった実験がもとになっているんだ!」という面白さや、実験を通して新たな知見を見つけてもらえるようまとめていこうと思います。

  

今回のテーマは、“ゴットシャルトの認知実験”です。

  

   

   

ゴットシャルトの認知実験

【本書より引用(要約)】

クルト・ゴットシャルト(1902~1991年)

 

ゴットシャルトは、ナチス政権下のドイツで心理学を研究してた学者です。

 

ゲシュタルトの法則が生まれついてものだという考えから、人間の“学習”という能力に疑問を呈した人物でもあります。

 

※ゲシュタルトの法則=全体を大雑把に捉えて認知する際に働く法則

 

早速、彼が行った実験を見ていきましょう。

 

彼はまず2つの図形を用意しました。

 

 

図形aは立方体が一つ、図形bは格子状の図形がパターン化されたものです。

 

はじめに、11名の被験者に対して以下の図形aを見せます。

 

被験者の内3人は、図形aを3秒間隔で3回だけしか見せられませんでした。

 

残りの8人は、3秒間隔で520回ほど図形aを見せられました。(いずれも図形の表示時間は1秒程度)

 

その後、被験者は図形bを見せられました。

 

この時被験者は、「その絵(図形b)を見て何か気づいたことがあれば言ってください」と言われます。

 

図形bを見てみると、図形aが埋め込まれていることが分かります。

  

  

もし、先行経験から何かしらの影響を受けている(学習している)のであれば、事前に520回の図形aを見た8人は、図形bに図形aが含まれていることに気づきやすいはずです。

 

実際には図形aは5種類、図形bは6種類あり、各被験者は5×6通りの30試行ずつ実施されました。(正確には一部の被験者で図形bが7種類あったことから31試行)

 

このことから試行回数の合計は、事前経験無しの3人では92例、事前経験ありの8人では242例となりました。

 

では図形bの中に図形aを知覚した人はどれくらいいたのでしょうか。 

 

その結果はこのようなものでした。

 

【図形aを認めた、もしくは、あることを推測した被験者の割合】

事前経験なし → 6.6%

事前経験あり → 5.0% 

 

ここから分かるのは、520回も図形を見るという事前経験があったとしても、図形bに図形aが埋め込まれていることに気づきやすくなるということは全くなかったということです。

 

今回のような全体がひとまとまりとして知覚されるような場では、その中の個別の刺激についての経験の積み重ねがあっても、それが全体に何かしらの影響を与えることはない(極めて少ない)ことが言えます。

 

この実験をはじめとし、いくつかの実験を経たゴットシャルトは、人は日々の生活の中で様々なことを学習し成長しているのではなく、遺伝的に組み込まれた能力が発現しているのだと考えていたようです。

  

   

洞察による学習

ゴットシャルトのようなゲシュタルト心理学者が、学習に対して完全に否定的であるわけはありませんでした。

  

むしろ、ソーンダイクワトソンのような行動主義の心理学者たちの学習論とは異なるもう一つの学習論を生み出したと言えます。

  

ソーンダイクの問題箱では、箱の中に入った猫がペダルを踏んでドアを開けました。

 

これによる彼の主張は、「このプロセスは全て試行錯誤によるもので、猫がドアの開け方を閃いたというようなことではない」というものでした。

 

ゲシュタルト心理学者はこの試行錯誤に対し、洞察による学習という概念を示しました。

  

ゲシュタルト心理学は人や動物が自分のおかれた状況(場)をゲシュタルトの法則に従って広く知覚するというプロセスを重視しています。

 

ゲシュタルト心理学者によると、洞察とは現在の状況の知覚を再構成し、新たな状況の知覚を行うことだとしています。

 

それだけだと抽象的なので、具体例を本書から引用します。

 

【引用】

たとえば、ある困難な状況に追い込まれ先に進めず困っていたとする。

ところが、一定時間考えたのち、きっかけはさまざまだが、、突然それまで気にかけていたことが些細なことに見え、逆に気づかなかった重要なポイントが見えてきて、全体に対する見方がガラッと一変してしまうような経験をしたことはないだろうか。

そしてそれに伴って今まででは思いもよらなかった打開策が思い浮かんでくる。

これが、洞察が働き自分の置かれた状況の再構成が行われたということであり、ゲシュタルト心理学における学習なのである。

 

実は、このゲシュタルト心理学における学習をしていたことがある人もいるのではないでしょうか。

 

学生の頃に行ったペーパーテストにおいても、その場ではどうしても解けなかったのに、テストが終わってから見直したら簡単に解けた(別の簡単な解き方に気づいた)ということなんてざらにありますね。

 

社会に出てからも、困難なプロジェクトを進めてみて、後から「ああすればよかった」などの改善点に気づくこともそうと言えるでしょう。

 

俯瞰した視点で洞察することが、ゲシュタルト心理学における学習ということが分かります。

  

 

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