長年の研究において、睡眠と健康は深い関係があることが分かっています。
程よく運動をして寝た翌日はスッキリ起きることができたり、寝不足の日中は頭が冴えないなど、睡眠と心身の影響を感じたことがある人も多いのではないでしょうか?
特に睡眠不足による悪影響は、眠気やダルさといったように顕著に身体に現れますが、実は長期的に見ると脳に深刻なダメージがあるかもしれません。
今回はそんな脳に関係する病気と睡眠に関する研究の紹介です。
参考記事)
・Losing Sleep Raises The Risk of Alzheimer’s Thanks to This One Protein(2023/09/15)
参考研究)
睡眠不足とプレイオトロフィン
中国の濱州医科大学の研究チームは、睡眠不足が脳に害を与え、アルツハイマー病などの神経疾患のリスクを高める可能性があるという研究結果を報告しました。
研究では、認知機能が低下したパラクロロフェニルアラニン(PCPA)不眠症誘発モデルマウスを使い、十分な睡眠をとらないときに打撃を受けるタンパク質を単離して分析しました。
不眠症を誘発されたマウスは最終的に、プレイオトロフィン(PTN)タンパク質の減少をもたらし、その結果、学習と記憶に重要な脳領域である海馬の神経細胞死を引き起こすことが示唆されました。
実権では、マウスの認知能力を評価するため、迷路を移動するときの空間的技能と、新しい物体を認識するときの短期記憶をテストしました。
試験そのものが海馬のタンパク質に影響を与える可能性があるため、研究者らは慎重に時間を計り、迷路試験の24時間後に分析を行いました。
分析の結果、不眠症モデルマウスの脳では対照マウスと比較して164個のタンパク質の発現が異なっていることが分かりました。
これらのタンパク質の多くは、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病などの神経変性疾患に関連する海馬の経路に関連していました。
対照マウスの認知データを比較したところ、認知テストの成績が悪かったマウスと、PTNのレベルが低下しているマウスとの間に相関関係があることも判明しました。
さらに、不眠症のマウスで睡眠機能を回復させると、PTNの海馬での発現が増加することも分かりました。
これらの結果は、PTNが睡眠不足に関連する認知障害のバイオマーカーであることを強調するものです。
過去の研究(Behavioral and Neuroanatomical Abnormalities in Pleiotrophin Knockout Mice)においても、PTNを持たない遺伝子改変マウスは異常な認知行動を示しており、ヒトの研究でもPTNがアルツハイマー病に関与していることが示唆されています。
これらのことから、睡眠が脳を保護する役割を果たすという証拠の一つになり得ます。
濱州医科大学の研究者らは、「PTNが睡眠不足による認知障害と関連していることが分かった。プレイオトロフィン(PTN)を介したシグナル伝達が、認知機能を保護する新たなメカニズムである」と、研究の結果と睡眠の重要性について述べています。
科学者たちは現在、睡眠不足がヒトの海馬に対して引き起こす根本的な変化について更に知るため、タンパク質やRNAレベルの変化を調べ始めています。
詳しくはACS Publicationsにて研究を確認することができます。
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