人類と感染症との長き闘いの中で、救世主とも呼べる功績を残した人物エドワード・ジェンナー。
今回は、近代免疫学の父でありワクチンによる病気の予防という概念を作り上げたジェンナーについてフォーカスを当てていこうと思います。
天然痘
天然痘は3000年以上前から流行を繰り返していた伝染病でした。
18世紀ヨーロッパでもその例にもれず、100年の間で6000万人もの人が天然痘で命を失っていました。
イギリスでは人口の3割~5割が天然痘にかかり、そのうち2~3割は死亡する程でした。
天然痘ウィルスは非常に強力で、一度感染すると高熱と共に身体中に疱疹ができ、最悪の場合死に至ります。
例え治ったとしても一度できた疱疹の痕は消えることはなく、中には失明するなどの後遺症に悩まされる者もいました。
エドワード・ジェンナー
一度天然痘にかかった患者は二度とかからない…?
感染力が強く、人を容易く死に至らせる天然痘。
こんなに強力な感染症が流行っている中で、昔から言われている噂がありました。
「一度天然痘にかかった患者は二度と天然痘にかからない。」
当時の天然痘の予防法として、天然痘の患者の膿を健康な人の身体に擦り込むことで軽度の感染を引き起こし免疫をつける“人痘法”がありました。
しかしこの人痘法、摂取したとしても致死率は1割と依然として高く、感染の脅威を食い止めるまでには至りませんでした。
ジェンナーが8歳の頃、寄宿先で人痘法による接種を受けるも、これによる体調の悪化から転校することに…。
13歳になった彼は「もっと安全な天然痘の予防法があるはず」と、医師であるジョン・ハンターの元で外科医になるべく修業を始めます。
牛飼いの娘
ジェンナーよ、天然痘を研究してみせよ。
ある村での研修中、一人の牛飼いの娘が診療所を訪れました。
彼女の身体には軽い疱疹ができていて、担当した医師は天然痘を疑いました。
しかし彼女は気にする素振りもなくこう言います。
「牛痘にかかった人は天然痘にならないのよ。」
牛飼いの間では昔から娘の言うような言い伝えがあり、牛痘にかかった牛飼いは天然痘への感染が見られないことも事実でした。
牛痘は牛痘ウィルスによる感染症で、ネコ科の動物や牛、人間に対して感染する病気です。
人間に感染しても軽症で済むという特徴がありました。
ジェンナーは、これについて検証する価値があるとハンターに提言。
ハンターもこれに同意し、牛痘と天然痘について研究するよう彼に命じました。
ここからジェンナーの医学的な研究が本格的に始まっていくのです。
後編へ続く。
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