ギルドと生命保険
生命保険は、古代ローマの相互扶助組織や中世ヨーロッパの職人組合“ギルド”をルーツとしています。
17世紀イギリスでは、仲間内で掛け金を積み立て、誰かが亡くなると遺族に香典を送り合うというシステムが成立していました。
正に今で言う生命保険ですね。
しかし当時のこのシステムには問題もあり、加入者全員が同じ額を徴収されていたり、加入年度に関係なく一律で保険料が支払われたりと不公平な仕組みだったため、広く普及することはありませんでした。
エドモンド・ハレー
何とかならんかハレーよ。
もし数学的に人間の寿命や年齢ごとの死者数を調べられたら、適切な制度やビジネスとしての保険が普及できるはず…!
そんなとき、ある人物に白羽の矢が立ちます。
その人物の名は エドモンド・ハレー(1656~1742年) 。
イギリスの天文学・物理学者で、後に彗星の軌道計算をはじめ多くの数学的な功績を残す人物です。
そもそもデータが無い!
1680年、王立協会の依頼を正式に受けたハレーは調査を始めます。
まず初めにぶち当たった壁は、そもそも死亡者数の正確なデータが存在していなかったことでした。
過去の死亡者数のデータには、死亡者の年齢の記載がないことや、人口の数が少ない割に変動が大きいことなど数々の問題点が浮き彫りになっていきます。
先ずは信頼できるデータを入手すること…。
それが調査の第一歩でした。
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調査を始めておよそ12年が経過した頃、ブレスウラ(現在のポーランドに位置する都市)の牧師が、過去5年間にわたって都市の人口の変動を記録したデータが発見されます。
人口変動が少ない都市での、年齢別、男女別の出生、死亡者数が記録されたデータでした。
これを元にハレーは生命表を作り、年齢ごとの生存確率を求めていきます。
(この表は、人口が1000人から始まると仮定した場合、年齢が上がるにつれてどれだけ生き残るかが書かれています。)
計算してみると、乳幼児は死亡率が非常に高く、9歳~25歳までの死亡率は1%程度。
25歳を超えると年齢が上がるにつれて死亡率が高くなっているということが分かりました。
個別では分からなかった人間の寿命が、集団として予想できるようになったのです。
これによって保険料の計算を見直しがなされ、年齢や確率に沿った料金プランが採用されるようになりました。
ハレーの研究は人口や寿命を大規模かつ数学的に扱うという点で画期的でした。
まだ情報が重要視されていない時代に、データを使ったビジネスモデルを作り上げるという革新的な考えが生まれた出来事でもありました。
現在でもこのハレーの考えは、年金や生命保険料の算出、未来における人口の予想など、人間の生死に関わる分野で不可欠なものとなっています。
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