アルツハイマー病の原因の一つは、脳内に微細な細菌が入ってしまうことが考えられています。
その結果起こった炎症に対して、アミロイドβタンパク質やタウタンパクの部分的の蓄積が見られ、アルツハイマー病のサインとなります。
普段はなど機能に悪影響をもたらす物質を侵入させないように働いている血液脳関門ですが、何度も病原体や毒素の脅威にさらされているうちに、1部を通過させてしまうことがあります。
今回の研究はそんな血液脳関門についての研究のお話です。
参考記事)
・First Potential Treatment to Repair Blood-Brain Barrier Trialed in Mice(2023/07/05)
参考研究)
血液脳関門の修復
2013年6月に発表されたスタンフォード大学、コロンビア大学らによる研究では、マウスで血液脳関門を修復できる治療法を開発したことを明らかにしています。
この治療法はヒトではテストされていませんが、病原体や毒素が脳細胞に侵入するのを阻止する方法が見つかれば、脳卒中、がん、アルツハイマー病など多くの人が苦しむ病気の治療法に大きく影響を与えるかもしれません。
血液脳関門は、脳に栄養を送る血管を取り込む細胞の層です。
脳の機能を維持するのに必要な物質だけが、脳組織内を通過できるようになっています。
しかし、これが正常に機能していない場合、毒素や細胞、病原体などの異物がバリアを突破してしまいまうことがあります。
バリアを通過したがん細胞は腫瘍になる可能性があったり、悪い病原菌などではなくても、白血球が多く通過しすぎると多発性硬化症などの自己免疫疾患を引き起こす可能性があります。
本来、血液脳関門のバリア機能のコントロールはとても強力です。
血液脳関門への漏れを修復させることも難しいとされ、これまで血管の関門に特化した治療法はありませんでした。
スタンフォード大学の血液学者カルビン・クオ氏は「血液脳関門の漏れは、多くの脳疾患に共通する原因です。関門を封鎖することは、医学界の長年の目標でした」と述べています。
研究では、frizzledと呼ばれる受容ファミリーを中心に研究していました。
これらのタンパク質はWntシグナル伝達経路を介し、組織再生や創傷治癒を促進するだけではなく、血液脳関門を健全に維持するためにも重要です。
マウスを使ったこれまでの研究で、frizzled遺伝子に変異があると血液脳関門、特にFZD4と呼ばれる特定のfrizzled受容体に問題が生じることが示されていました。
この研究に基づきスタンフォード大学の研究チームは、ある研究会社と共同でFZD4に結合してWntシグナルを活性化させるL6-F4-2と呼ばれる遺伝子を開発しました。
この分子はFZD4に結合することが知られている他の分より100倍も効率よくWntシグナル伝達経路を活性化させることができました。
この新しい治療法を検証するために、研究者らはノリー病(NDP遺伝子の変異によって引き起こされる遺伝性疾患)に似た症状を引き起こす遺伝子変異を持つマウスを分析しました。
この突然変異により、マウスはFZD4と結合するタンパク質であるノルリン(Norrin)を作ることができなくなることが分かりました。
ノルリンを持たないマウスは、血液脳関門と同様の働きをする女の血液網膜関門に問題があるため失明します。
しかし、研究チームが出生時にマウスの片方の目にL6-F4-2を注射したところ、網膜周囲の血管は密度が高くなり、漏れも少なくなりました。
高齢のマウスを使った実験では、L6-F4-2が網膜と小脳の両方でWntシグナル伝達を活性化させることに成功しました。
研究チームは次に、より一般的な疾患である虚血性脳卒中について研究しました。
脳卒中を発症して、マウスにL6-F4-2を投与したところ、未治療の脳卒中発症マウスと比較して、脳卒中の重症度が減少し、生存率も改善しました。
そして最も重要な発見は、L6-F4-2は虚血性脳卒中後の脳血管の漏れを改善させたのです。
クオ氏は、「血液脳関門を修復する新世代の薬を開発する第一歩になればと願っている」と研究の成果に期待を持たせる発言をしています。
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