アリゾナ州立大学が発表した最新の研究により、ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)とアルツハイマー病の関連が示唆されました。
ヒトサイトメガロウィルス(Human cytomegalovirus:HCMV)は、ヘルペスウイルス科に属するDNAウイルスです。

このウイルスは、多くの人が生まれつき感染していることがあり、通常は無症状ですが、免疫力が低下している人や、新生児、高齢者などでは重篤な症状を引き起こすことがあります。
研究者によると、HCMVは腸内に感染し、脳へと移動する可能性があるといいます。
ただし、感染がアルツハイマー病の発症にどのように関与するのかについては、まだ多くの疑問が残されています。
今回のテーマはそんなHCMVと腸脳相関に関する研究です。
参考記事)
・New Study Reveals Chronic Gut Infection Could Be Linked to Alzheimer’s Disease(2025/02/05)
参考研究)
腸と脳のつながりに関する新たな証拠
研究チームは、一般的なウイルスが一部の人の腸内に長期間潜伏し、その後脳へ移動する可能性を明らかにしました。
さらに、脳内でのウイルスの濃度がアルツハイマー病と関連するタウタンパク質やアミロイドタンパク質と相関があることも分かりました。
このウイルスは、一度感染すると体内に潜伏し続け、完全に排除されることはないという特徴を持ちます。(About Cytomegalovirusより)
健康な人では、感染しても発熱や喉の痛みなどの軽い症状しか出ないか、まったく症状が出ないこともあります。
しかし、免疫系がウイルスを完全に排除できないため、体内に残り続けてしまうのです。
テュレーン大学医学部のKevin Zwezdaryk博士は、「HCMVに感染すると、ウイルスは一生体内に残る。免疫システムはウイルスを抑えられるが、完全に排除することはできない」と述べています。
そのため、HCMVは再活性化し、腸内で再び感染を引き起こし、最終的には脳へと移動する可能性があります。
この研究は、HCMVを含むヘルペスウイルスがアルツハイマー病のリスク要因となる可能性を示した過去の研究の証拠を裏付けるものです。
特に、アルツハイマー病の症状が現れる何十年も前からウイルスが影響を及ぼしている可能性が指摘されています。
アリゾナ州立大学のBenjamin Readhead博士は、「アルツハイマー病の発症には20~30年の前臨床期間があり、患者が記憶障害を訴える頃にはすでに数十年にわたる病変の進行があると考えられる」と述べています。
ウイルスが腸から脳へ移動するメカニズム
本研究では、アルツハイマー病患者66人を含む101人の死後脳組織が調査されました。
研究者たちは、脳内のミクログリア細胞(神経系の維持や修復を担う細胞)の表面にある特定のタンパク質を分析しました。
このタンパク質CD83(+)は、HCMVが脳の外層や迷走神経に存在することを示す指標とされています。
迷走神経は腸と脳をつなぐ主要な神経であり、気分・免疫応答・消化を調整する役割を担っています。
研究者たちは、この迷走神経がHCMVのようなウイルスが脳へ移動する経路となっている可能性があると考えています。
研究の結果、アルツハイマー病患者の脳にはCD83(+)タンパク質が多く存在し、それがHCMVと強く関連していることが確認されました。

Readhead博士は「CD83(+)が脳に見られる場合、ほぼ例外なくHCMVが腸にも存在する」と述べています。
さらに、ミクログリア細胞はHCMVに曝露されたときのみCD83(+)を産生し、他のウイルスではこの反応が起こらないことも判明しました。
加えて、研究者たちは培養した脳オルガノイド(人間の脳組織に似た人工的な細胞組織)にHCMVを感染させる実験も行いました。
その結果、HCMVがアルツハイマー病と関連するアミロイドタンパク質やタウタンパク質の産生を加速させる可能性が示されました。
ただし、この研究はあくまでHCMVとアルツハイマー病の相関関係を示したものであり、因果関係を証明するものではない点に注意が必要です。
また、HCMVがどのような条件で腸内で再活性化し、慢性感染を引き起こすのかは不明であり、今後の研究が求められています。
まだ解明されていない多くの疑問
HCMV以外にも、アルツハイマー病との関連が指摘されている病原体は数多くあります。
例えば、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)などの真菌感染、ウイルス性脳炎、インフルエンザと肺炎の合併症なども神経変性疾患と関連がある可能性があります。
フィラデルフィア・カレッジ(オブ・オステオパシック・メディスン)のBrian Balin博士は、「人間の感染時期を特定するのは非常に難しいため、研究が困難である」と指摘しています。
また、人間は生涯にわたって無数の病原体に感染するため、HCMV単独の影響を特定するのは容易ではありません。
また、HCMV単体ではなく、他のウイルスとの共感染が腸や脳への感染を助長する可能性も考えられます。
さらに、脳内の病原体が必ずしもアルツハイマー病を引き起こすわけではなく、誤診につながることもあるかもしれません。
Balin博士は、「脳内にウイルスがいること自体が問題なのか、それとも炎症を引き起こし、他の因子が病気の進行を促進しているのかを明確にすることが重要である」と述べています。
まとめ
・ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)は腸内に潜伏し、脳へ移動する可能性がある
・HCMVはアルツハイマー病のリスク要因となる可能性があるが、因果関係は未解明
・アルツハイマー病の発症には複数の病原体が関与している可能性があり、さらなる研究が必要ある
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