今からおよそ5億年前、カンブリア紀(約5億4300万年前〜4億9000万年前)に生きた生物の化石の発見によって、その頃には生物の多様化が起こっていたことが分かっています。
あるものは外的から身を守るために堅牢な骨格にトゲのような殻を身につけ、またあるものは捕食する生物をより多く発見するため、海中を自在に泳げるような付属肢を発達させていきました。
古生物の化石の調査は今なお続けれられ、年々新しい発見が期待されます。
今回紹介するのは、そんな古生物の化石についての新たな調査結果です。
参考記事)
・450 Million-Year-Old ‘Golden’ Fossil Reveals a Prize Arthropod Ancestor(2024/10/30)
参考研究)
・A pyritized Ordovician leanchoiliid arthropod(2024/10/30)
ロマンクス・エッジコンベイ
ニューヨーク州でおよそ4億5千万年前の海洋生物「Lomankus edgecombei(ロマンクス・エッジコンベイ)」の化石が発見されました。
黄鉄鉱によって形成されたこの化石は非常に保存状態が良く、“金色の化石”と呼ばれています。
L. edgecombeiはメガケイラ類という絶滅した節足動物に属しており、カンブリア紀後期(約5億4100万年前〜約4億8500万年前)に大いに繁栄したグループの一種です。
メガケイラ類は、体の前方に獲物を掴むための大きな大付属肢を持っていることが特徴的で、当時の捕食生活に適応するために発達した種が生き残っていったと考えられています。
三葉虫層と黄鉄鉱
L. edgecombeiの化石が発見されたのは、ニューヨークにある三葉虫層と呼ばれる場所で、この層は「ラガーシュテッテ」として知られる化石保存層です。
この場所は鉄分を豊富に含む土壌が堆積しており、黄鉄鉱が自然に形成されやすい環境が整っています。
この場所での化石化の過程は、硫酸還元細菌が酸素のない環境で有機物を分解し、水素硫化物を生成することから始まります。
この水素硫化物が鉄と反応して黄鉄鉱(鉄の硫化物)が形成され、L. edgecombeiの死骸が包まれる形で保存されました。
また、本来化石になりにくい軟組織が黄鉄鉱に置き換わったことで、骨格の詳細な造りが明らかになりました。
研究者のルーク・パリー氏(オックスフォード大学)はこの発見を受け、「この環境はL. edgecombeiの保存に理想的だった。まるでそのまま動き出しそうなほど美しい状態で保たれている」と述べています。
L. edgecombeiの進化的意義
L. edgecombeiは、オルドビス紀(約4億9000万年前〜約4億4300万年前)まで生存していたメガケイラ類の最後の種の一つとされています。
この発見は、節足動物の進化の流れを理解するための鍵となり、メガキランの体の構造がどのように進化し、現代の昆虫、甲殻類、クモ類の特徴に繋がっているのかを知る手がかりとなります。
L. edgecombeiの化石に見られる大付属肢は、他のメガキランに比べてサイズが小さく、また、より長くてしなやかな3本の触角状の器官を持っていました。
この構造の変化は、L. edgecombeiが視覚的な捕食よりも感覚器官として大付属肢を使用していた可能性を示唆しています。
ルーク氏は、「Lomankusはメガケイラ類の進化の新たな側面を見せてくれた。彼らはカンブリア紀後も多様に進化を続け、獲物を掴むための恐ろしい器官であった大付属肢が、感覚器官として新たな役割を果たすようになったことが推測できる」と説明しています。
今日、節足動物は海水、淡水、陸上、空を問わず世界で最も多様な動物群を形成しています。
その進化の過程には、頭部付属肢が生物の環境適応に合わせて進化したことが関係しているようです。
特に、今回発見されたL. edgecombeiの付属肢の研究は、現代の昆虫や甲殻類、クモ類の触角や鋏角(かにやクモの鋏のような器官)の進化的な起源を知る手がかりとなります。
ルーク氏は「節足動物の頭部とその付属肢は、あたかも生物のスイスアーミーナイフのように、さまざまな機能に対応するように適応してきた。この多様性こそが節足動物の大成功をもたらした要因の一つである」と述べています。
まとめ
・4億5千万年前に生息していた節足動物L. edgecombeiが極めて保存状態の良い化石で発見された
・化石の分析から、それまでの生物では捕食器官として使用された大付属肢が、オルドビス紀(約4億9000万年前〜4億4300万年前)の時点で感覚器官として進化していたことが明らかになった
・L. edgecombeiの頭部付属肢の変化により、現代の昆虫や甲殻類、クモ類の器官の進化の過程が明らかになった
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