大麻は世界で最も広く使用されている薬物の1つですが、その脳への影響についてはまだ多くが不明です。
特に、一部の使用者において大麻がなぜ精神病を引き起こすのかは、十分に解明されていません。
英エクセター大学が発表した最新の研究によると、高濃度の大麻使用がDNAに部分的な変化を引き起こすことが明らかになりました。
この変化はエネルギーや免疫システムに関わる遺伝子に影響を与えるもので、特に初めて精神病を経験した人と、経験していない大麻使用者の間で異なるパターンが確認されました。
研究者たちは、これらのDNAの変化が精神病のリスクを特定する手がかりとなる可能性があるとし、今後の研究を通じてより安全な大麻の使用方法や予防策の開発が期待されています。
以下に研究の内容をまとめます。
参考記事)
・Cannabis Can Leave a Distinct Mark on Your DNA, Study Reveals(2024/10/17)
参考研究)
・Methylomic signature of current cannabis use in two first-episode psychosis cohorts(2024/10/16)
大麻がDNAに残す痕跡
古くから大麻の使用が問題視されてきた地域(主に英国や米国の一部)では、1990年代ごろから主成分であるTHC(テトラヒドロカンナビノール)の濃度が徐々に増加傾向にあることが問題視されています。
コロラド州では合法的に、THC濃度90%の大麻を購入することが可能です。
THCは、大麻に含まれる144種類以上の化学物質の1つですが、主に大麻の強さを評価する際に使用される化合物です。
過去の研究が示すように、THCの濃度が高いほど、使用者への影響は強くなります。
例えば、THC濃度10%以上の高濃度の大麻を毎日使用する人は、全く使用しない人と比べて、精神病を発症するリスクが5倍高くなるなどが挙げられます。
これらを踏まえエクセター大学では、現在の大麻使用がDNAにどのような痕跡を残すかを探り、高濃度の大麻使用がと精神病のリスクとの関係を調べました。
研究チームは、「DNAメチル化」と呼ばれる分子プロセスに着目しました。
DNAメチル化は、DNAを構成する塩基(A・T・G・C)のシトシン(C)にメチル基(CH3)が結合して起こる化学修飾です。
これによって遺伝子のオン・オフが切り替えられ、遺伝子の発現を制御する役割もあります。
これはエピジェネティクスと呼ばれる重要な生物学的プロセスの一部で、環境や生活習慣(大麻使用や運動など)と私たちの身体的・精神的健康との関係を支えています。
過去の研究では、長期間の大麻使用がDNAメチル化に与える影響が調査されていましたが、異なる大麻の濃度がこのプロセスにどう影響するか、そして精神病のある人にどのように影響するかはほとんど触れられていませんでした。
今回の研究では、ロンドン南部で行われた「Genetic and Psychosis study」と、英仏蘭伊西ブラジルで行われた「EU-GEI study」の2つの大規模なケースコントロール研究からデータが参考にされました。
精神病を経験したことがある239人と健康なボランティア443人が比較対象となり、大麻の使用に関する情報と、血液からのDNAサンプルが提供されました
また、参加者の約65%が男性で、参加者は16歳から72歳まででした。
その後、年齢、性別、民族、タバコ喫煙、各血液サンプルの細胞構成などを踏まえ、DNAの分析が行われました。
DNAメチル化の発見
研究の結果、高濃度の大麻を使用することで、エネルギーや免疫システムに関連する遺伝子のDNAメチル化が変化することが明らかになりました。
また、精神病を経験した人では、異なるパターンのDNA変化が見られました。
これは、外部要因(薬物使用など)がどのように遺伝子の働きを変えるかを示しています。
この研究の発見は、エピジェネティクスが高濃度の大麻と精神病には何らかの相関性があることを示しています。
現時点ではメカニズムは明らかではありませんが、今後の研究で、大麻使用に関連するDNAメチル化パターンが精神病のリスクとどう関係しているのかを調べていきたい、と研究者は述べています。
この分野の研究が進むことで、精神病を特定するバイオマーカーとして利用したり、症状の緩和や治療に役立つ可能性が示唆されています。
まとめ
・高濃度の大麻の使用は、DNAメチル化を通じてエネルギーや免疫システムに関連する遺伝子に変化を引き起こす
・これらのDNA変化は、精神病リスクの特定に役立つ可能性がある
・大麻の使用とエピジェネティクスの変化を研究することで、より安全な大麻の使用方法や予防戦略の開発につながる
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