この記事では、著書“図鑑心理学”と自分が学んできた内容を参考に、歴史に影響を与えた心理学についてまとめていきます。
心理学が生まれる以前、心や精神とはどのようなものだったのかに始まり、近代の心理学までをテーマとして、本書から興味深かった内容を取り上げていきます。
今回のテーマは、「心理学の再現可能性」についてです。
ブレイン・イニシアチブ
アメリカ政府は1990年、ヒト細胞の核内にあるDNAの全塩基配列を解読することを目的として、15年間で30億ドルを投入する“ヒトゲノム計画”を実行しました。
2003年4月14日には遺伝子の全容が解読されたことで計画の完了が宣言、2022年4月1日に論文として完成したものが発表されました。(参考:ヒトゲノム計画とヒトゲノム完全解読)
この国を挙げての大計画がひと段落しましたが、アメリカは2013年、次なる大規模プロジェクトとして、「ブレイン・イニシアチブ(BRAIN Initiative)」を掲げています。
ブレインは、“Brain Research through Advancing Innovative Neurotechnologies”の略称で、革新的先端神経学技術による脳研究と訳されます。
ブレイン・イニシアチブは、脳の物理的構造だけでなく神経や活動領域の働きまでを解明しようという試みのもとで研究が続けられており、心理学研究者にとっても、fMRIを使って脳の活動を追跡するのを助けることになります。
記憶や自我の意識と脳の機能にスポットが当てられるだけでなく、うつ病などの精神的課題にも取り組みやすくなるでしょう。
再現可能性問題
このように、心理学においても先進科学が用いられるようになった現在、実験によって過去の研究の再現や結果の信憑性を確かめようという試みが出ています。
2015年、これまで発表されている100件の心理学実験を検証するため、専用の心理学者の研究チームが結成されました。(参考:Estimating the reproducibility of psychological science)
結果は、研究の半分以上が同じ結果を再現できないというものでした。
再現性が担保できないということは、科学としての評価が落ちることにもなります。
研究が歴史的に権威のあるものだとしても、同じ条件で同じ結果が得られなければいけません。
もしかすると、最初に検証したものが偶然の出来事だった可能性もあります。
研究を詳しく見ると、100件のうち、わずか36件のみがオリジナルの研究と同じ結果が得られました。
しかし、他の64件については実験結果に誤りがあったというのは正確ではありません。
この研究の注意すべきところは、追試の結果が“不明”だということです。
心理学の実験においては、ほとんどの場合、人間の参加者が必要です。
しかし、心理的な揺らぎや置かれている社会情勢、時には食にや運動といった食生活やストレスによって情緒が大きく変わってくるのも人間です。
研究チームは、オリジナルの研究者と合同で、検証すべき研究を行っていますが、現時点で示されていることは、無作為に研究を抽出した場合、再現されない研究が80%になると考えられています。
こういった再現可能性の問題は、必ずしも心理学が間違ったデータに基づいているということを意味しているのではありません。
考慮すべき様々な要素が混沌として混ざり合っていることも、今後の心理学の研究の大きな課題となっていくことでしょう。
もしかしたら、「あの有名な心理学の定義も実は間違っていた」、もしくは「現代では通用しない」と言われる日が来るかもしれません。
研究の結果を盲信するのではなく、自らの人生経験も踏まえて心と向き合うことも、また心理学なのでしょう。
まとめ
・「ヒトゲノム計画」の完了に伴い、「ブレイン・イニシアチブ」が始まった
・ブレイン・イニシアチブ=脳の構造や神経を明らかにするプロジェクト
・プロジェクトの進展による心理学分野の発展も期待されている
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