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伝統的なアフリカ料理を西洋食に変更した結果、著しい免疫力の低下が判明

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日本におけるお米を主食とした料理や納豆や味噌、漬物などの発酵食品は、腸内環境をはじめ私たちの健康維持増進に大きなメリットを与えてくれています。

 

これは他の民族でも同様で、長い歴史や培われた文化において健康的とされる食事が、その地域や国に住む人の健康に寄与することは数多くみられます。

 

今回は、そんな伝統食と現代の食事を比較した研究についての論文まとめです。

 

伝統的なアフリカの食事を西洋食に置き換えた場合の変化について、興味深いデータが見られたようです。

 

参考研究)

Immune and metabolic effects of African heritage diets versus Western diets in men: a randomized controlled trial(2025/04/03)

 

 

背景

アフリカ大陸における食文化は、地域ごとの多様性と深い伝統を特徴としています。

  

古くから継承されてきたアフリカの食事には、さまざまな種類の野菜や果物、全粒穀物、さらには発酵食品が数多く含まれており、腸内環境の改善や代謝機能の維持において優れた健康効果があるとされています。

 

しかし、こうした伝統的なアフリカの食文化に焦点を当てた研究は、世界的に見てもまだ少なく、科学的データとして十分に評価されてこなかったのが現状です。

 

このような背景のもと、オランダのラドバウド大学に所属する感染症学の専門家、Quirijn de Mast氏が中心となり、アフリカの伝統食が健康に及ぼす影響を解明するための研究が行われました。

 

研究チームは、タンザニア北部に住む人々の食生活を対象に、伝統的な食事と現代的な西洋型の食事とを比較し、免疫機能や代謝にどのような変化が生じるかを検証しました。

 

 

研究の内容:アフリカの伝統食と西洋食を交換

研究モデル(Immune and metabolic effects of African heritage diets versus Western diets in men: a randomized controlled trialより)

今回の研究では、タンザニア北部の都市部および農村部に住む77名の健康な成人男性が参加しました。

 

彼らの中には、すでに西洋的な食事スタイルを日常としている人々もいれば、伝統的な食事を今も習慣としている人々も含まれていました。

 

伝統的な料理には、たとえば「kiburu(キブル)」と呼ばれる、ゆでた青バナナとインゲン豆を合わせたシンプルながら栄養価の高い食事や、「mbege(ムベゲ)」と呼ばれるバナナと雑穀(主にキビ)を発酵させた低アルコール飲料などがあり、これらは地元の文化や日常生活の中で長年にわたり親しまれてきました。

伝統食(Immune and metabolic effects of African heritage diets versus Western diets in men: a randomized controlled trialより)

  

研究では、まず参加者たちに普段どおりの食生活を1週間続けてもらった後、その一部に対して食事の完全な入れ替えを2週間実施するよう指示が与えられました。

 

例として、都市部でパンやソーセージなど西洋の加工食品を中心とした食生活を送っていた参加者には、kiburuやmbegeを含む伝統料理への切り替えが求められました。

 

逆に、農村部の伝統食に慣れ親しんでいた人々には、パンケーキ、ジャム、ケチャップ、フライドポテトなど、いわゆる「西洋型食事」へと変更するよう求められました。

 

西洋食(Immune and metabolic effects of African heritage diets versus Western diets in men: a randomized controlled trialより)

 

また、別のグループでは、普段の食事にmbegeのみを追加で摂取する方法も試みられました。

 

これは、伝統的な発酵飲料が単独でもどの程度健康に影響を与えるかを評価するためのアプローチです。

 

研究期間中、参加者の血液サンプルが複数回採取され、免疫細胞の構成、サイトカインの産生、ならびに代謝物質の分析が綿密に行われました。

 

その結果、わずか2週間という短期間であっても、食事の内容によって免疫と代謝に顕著な変化が生じることが明らかとなりました。

 

 

免疫力を高める伝統食、炎症と代謝異常を引き起こす西洋食

特に注目すべきは、伝統的なキリマンジャロ地域の食事から西洋型の加工食品へと変更したグループにおいて、炎症マーカーの増加と代謝異常の兆候が顕著に見られたという点です。

 

具体的には、血液中の炎症性タンパク質のレベルが上昇し、サイトカインの不均衡が生じたほか、真菌や細菌への免疫応答の低下が確認されました。

 

また、軽度の体重増加も報告されており、これが代謝機能に悪影響を及ぼす可能性があると指摘されています。

 

一方で、西洋型の食事から伝統的な果物、発酵食品、野菜、全粒穀物を中心とした食事に切り替えたグループでは、抗炎症作用が高まり、免疫システム全体の活性が向上する結果が得られました

 

特に、mbegeを1週間摂取しただけでも、免疫防御の最前線で働く「好中球(neutrophils)」の活性が顕著に増加し、カンジダ菌などの真菌に対する化学応答が強化されたとのことです。

 

このように、食事内容の変更が炎症反応や免疫バランスに即時的かつ大きな影響を与えることが、本研究により実証されたのです。

 

 

食生活の変化がもたらす長期的な影響と文化の課題

さらに驚くべきことに、食事の変更による影響は、元の食生活に戻ってから4週間経過しても持続していたと報告されています。

 

これは、食事が免疫や代謝に与える影響が一時的なものではなく、長期にわたり身体のシステムに変化を及ぼす可能性を示唆しています。

 

こうした研究成果は、現在アフリカ諸国で急速に進行している都市化とライフスタイルの変化に対する警鐘とも言えます。

 

多くの地域では、利便性やコストの観点から、健康的な伝統食が減少し、代わりに高カロリーで加工された西洋風食品が日常化しつつあります。

 

さらに、アフリカから欧米に移住する人々にとっては、伝統的な食材の入手が難しくなることで、健康的な食文化の継承が困難になる問題も存在しています。

 

研究を主導したQuirijn de Mast氏は、「今回の研究は、アフリカの伝統食品が炎症や代謝機能に及ぼす積極的な効果を明らかにする一方で、西洋型の食事がいかに有害な影響を持つかを示す重要な証拠となった」とコメントしています。

 

今後、より多くの地域や文化において、伝統食の再評価と科学的検証が進むことが期待されています。

 

 

まとめ

・伝統的なアフリカ料理は、免疫系を活性化し、代謝機能を改善する可能性があると科学的に証明されました。

・二週間という短い期間であっても、パンやソーセージといった西洋食は、免疫応答や炎症、代謝に大きな影響を及ぼす

・西洋食から元の食生活に戻した後も、食事の影響は長期的に身体に残る可能性がある

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