カナダ・トロント大学による最新の研究から、離婚した親を持つ子どもは、将来的に脳卒中を発症するリスクが大幅に高まることが明らかになりました。
この研究は、アメリカの65歳以上の高齢者13,205人を対象に行われたもので、特に幼少期に身体的・性的虐待を受けていない人々のデータを基に分析されています。
調査によると、幼少期に両親が離婚した人は、成人後に脳卒中を発症する確率が61%高いことが判明しました。
さらに、このリスクの高さは、男性であることや糖尿病を患っていることと同程度の影響を持つとされています。
本研究は、離婚という精神的ストレスが長期的な心血管系の健康に悪影響を与える可能性を示唆しており、これまであまり注目されてこなかったリスク要因に光を当てるものです。
以下に研究の詳細をまとめます。
参考研究)
・Parental divorce’s long shadow: Elevated stroke risk among older Americans(2025/01/22)
なぜ離婚が脳卒中と関係するのか?

これまでの研究では、幼少期の身体的・性的虐待が成人後の脳卒中リスクを高めることが分かっていました。(Long-Term Effects of Childhood Abuse on the Quality of Life and Health of Older People: Results from the Depression and Early Prevention of Suicide in General Practice Projectより)
しかし、両親の離婚という精神的ストレスが長期的に健康へ影響を与える可能性については、ほとんど研究されていませんでした。
そこで、研究を主導したトロント大学の社会科学者Esme Fuller-Thomson氏らのチームは、幼少期に身体的・性的虐待を受けていない人々のデータを用いることで、離婚が独立したリスク要因であるかどうかを調べました。
調査対象となったのは、65歳以上のアメリカ人13,205人で、そのうち約14%が18歳までに両親の離婚を経験していました。
研究チームは、糖尿病やうつ病などの他の健康要因と比較しながら、両親の離婚がどの程度脳卒中リスクに影響を与えるのかを分析しました。
その結果、次のようなリスクの増加が確認されました。
• 男性は女性よりも脳卒中のリスクが47%高い
• 糖尿病患者は脳卒中のリスクが37%高い
• うつ病を抱える人は脳卒中のリスクが76%高い
• 幼少期に両親が離婚した人は、成人後に脳卒中を発症する確率が61%高い
これらのデータを見ても分かるように、両親の離婚が脳卒中リスクに及ぼす影響は、他の主要なリスク要因と同程度の大きさを持っています。
また、意外なことに、幼少期の精神的虐待、家庭内暴力、親の犯罪歴、親の精神疾患、親の薬物使用などは、社会経済的要因を考慮すると脳卒中リスクとの関連性が見られなかったとのことです。
脳卒中リスクが高まる理由
今回の研究は観察研究であるため、「なぜ両親の離婚が脳卒中リスクを高めるのか」という因果関係を直接証明することはできません。
しかし、研究チームはいくつかの仮説を立てています。
1. 幼少期の長期的なストレスの影響
離婚は家庭内の緊張や争いを引き起こしやすく、子どもはストレスの多い環境で育つことになります。
例)
• 学校を転校する必要がある
• 両親の間で板挟みになる
• 異なる家庭を行き来する生活を強いられる
これらのストレスが自律神経や免疫系に悪影響を与え、成人後の健康リスクを高める可能性があります。
実際に、幼少期の逆境が成人後の心血管疾患リスクを高めることは、過去の研究でも指摘されています。
2. 高血圧との関連性
2022年の研究では、10歳未満で両親が離婚した人は、中年期に高血圧を発症する可能性が高いことが示されています。(The mediating pathways between parental separation in childhood and offspring hypertension at midlifeより)
高血圧は脳卒中の主要なリスク要因の1つであり、幼少期のストレスが血圧調節機能に影響を与えることで、将来的なリスクを高める可能性があります。
3. 睡眠障害の影響
離婚した親を持つ子どもは、以下の例を原因として睡眠の質が低下しやすいことが知られています。(How do children and adolescents of separated parents sleep? An investigation of custody arrangements, sleep habits, sleep problems, and sleep duration in Swedenより)
例)
• 親の離婚による不安やストレス
• 新しい環境への適応困難
• 夜間の家庭内トラブル
さらに、睡眠障害が慢性化すると、高血圧や動脈硬化を引き起こし、最終的に脳卒中リスクを高めることが知られています。
世代による影響の違い
研究者たちは、世代によって離婚と脳卒中リスクの関係が変わる可能性についても指摘しています。
「社会の価値観が変化しているため、Gen X(1965-1980年生まれ)やMillennial世代(1981-1996年生まれ)では、今回の研究結果と同じ傾向が見られるとは限らない」と、研究チームは述べています。
理由として、現在では離婚がより一般的になり、共同親権や心理サポートの充実などが進んでいることが挙げられます。。
そのため、子どもへの悪影響が過去よりも軽減されている可能性があるのです。
今後の研究では、世代間の違いが脳卒中リスクにどのような影響を及ぼすのかを詳しく調査する必要があると考えられます。
まとめ
・幼少期に両親が離婚した人は、成人後の脳卒中リスクが61%高い
・ストレス、高血圧、睡眠障害がリスク増加の要因として考えられる
・今後の研究では、世代間の違いを詳しく調査する必要がある
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