科学

社交的な交流が認知症を最大5年遅らせる

科学

定期的に人と会い、社交的な生活を送ることが、認知症の発症を最大5年間遅らせる可能性があると、新たな研究で示されました。

 

アメリカのラッシュ大学の研究チームが実施したこの調査では、高齢者が積極的に社会活動に参加することで、認知機能の低下を防ぎ、認知症のリスクを軽減できる可能性があることが確認されました。

 

今回のテーマとしてまとめます。

 

参考研究)

Late-life social activity and subsequent risk of dementia and mild cognitive impairment(2024/12/27)

 

 

研究の内容

この研究では、1,923人の高齢者を約7年間にわたって追跡調査し、彼らの社会活動の頻度と認知症の発症時期が分析されました。

 

調査対象者の生活習慣や健康状態を詳しく記録し、社会活動と認知機能の関係性を検証しました。

 

結果として、最も社交的な人と最も社交的でない人の間には、認知症の発症年齢に約5年の差があることが判明しました。

 

Late-life social activity and subsequent risk of dementia and mild cognitive impairmentより

 

このデータは、社会活動が認知機能を保護し、発症を遅らせる可能性を示唆しています。

 

この研究の意義は、認知症予防のための簡単で実践しやすい方法があることを示している点です。

 

特別な治療や高額な医療費を必要とせず、日常の生活の中で社交活動を増やすだけで、認知症の発症を遅らせる可能性があるのです。

  

 

社会活動の具体的な内容

 

研究では、参加者に日常的な社会活動についてのアンケートを実施しました。

 

調査対象となった社会活動は以下のようなものでした。

• 外食をする(友人や家族との食事)

• スポーツ観戦に行く(スタジアムやテレビ観戦など)

• ビンゴなどのゲームをする(グループでのゲーム活動)

• 日帰り旅行や宿泊旅行に行く(観光地訪問や小旅行)

• 親戚や友人を訪問する(定期的に人と会うこと)

• 宗教行事に参加する(礼拝や地域の集まり)

• ボランティア活動を行う(地域社会への貢献)

 

このような活動を頻繁に行っている人ほど、認知症の発症が遅れる傾向が確認されました。

 

 

認知症発症リスクの低減

研究の結果、社交的な人は認知症を発症するリスクが38%低く、軽度認知障害(MCI)を発症するリスクも21%低いことが明らかになりました。

 

この理由について、ラッシュ大学の疫学者であるBryan James氏は、次のように説明しています。

 

社会活動は、認知機能を維持するための重要な要素である。人と関わることで脳が刺激を受け、神経ネットワークが活性化される可能性がある。これは ‘Use it or lose it’(使わなければ失われる)という原則に基づいている

 

つまり、社交的な生活を続けることで、脳の働きを維持しやすくなるということです。

 

特に、高齢者にとっては、人と会話し、情報を処理し、感情を共有することが、脳にとって大きな刺激になると考えられます。

 

 

社会的孤立と認知症の関係

一方で、社会的な孤立は認知症のリスクを高める要因とされています。

 

過去の研究でも、孤立した生活を送る人ほど認知機能が低下しやすく、認知症の発症リスクが高まることが報告されています。(Late-Life Social Activity and Cognitive Decline in Old Ageより

 

さらに、今回の研究では、ペットを飼うことさえも認知症予防に役立つ可能性があるという興味深い結果も示されました。

 

ペットとの交流が、人との会話に近い形で脳を刺激し、精神的な充実感をもたらすためと考えられています。

 

ただし、今回の研究では、社会活動が認知症発症を直接的に遅らせる因果関係は証明されていません

 

社交的な人は、身体的にも活発である可能性が高いため、運動習慣などの他の要因も関係している可能性があります。

 

しかし、これまでの多くの研究と照らし合わせると、社会活動が認知症予防に役立つ可能性が高いことは間違いありません。

 

 

社会活動の重要性と今後の課題

研究チームは、認知症のリスクをシンプルに伝えることで、より多くの人に意識を向けてもらうことが重要だと指摘しています。

 

たとえば、「社交的な生活を送ることで認知症発症が5年遅れる可能性がある」という具体的なデータは、多くの人にとって分かりやすい指標となるでしょう。

 

また、研究チームは論文の中で、次のようにも述べています。

 

社会活動と認知症発症年齢の関係を示した本研究は、公衆衛生の観点からも重要な示唆を与えるものである。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で社会的な交流が減少したことを考慮すると、高齢者の社会活動を促進する施策を開発し、検証することが今後ますます重要になるだろう

 

パンデミックの影響で、多くの高齢者が社会との接点を失いました。

 

その結果、認知症リスクが高まる可能性があるため、今後は意図的に社会活動を増やす取り組みが求められるでしょう。

 

 

まとめ

・社交的な生活を送ることで、認知症の発症が最大5年遅れる可能性がある

・社会活動が活発な人は、認知症リスクが38%、軽度認知障害(MCI)リスクが21%低い

・社会的孤立を防ぐための施策が、今後ますます重要になる

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