食べるものの栄養価や健康への影響を気にしている人はどれくらいいるでしょうか。
さらに言うと、その食べ物が体内でどのように消化され、どれくらいの速さで腸を通過しているかについて意識する人はもっと少ないのではないでしょうか?
実は、「腸の通過時間(ガットトランジットタイム)」は健康に大きな影響を与える要素のひとつです。
消化が遅すぎても速すぎても、体にさまざまな問題を引き起こす可能性があります。
今回は、腸が正常に機能しているかについての研究がテーマです。
参考研究)
・Gut physiology and environment explain variations in human gut microbiome composition and metabolism(2024/11/27)
食べ物の消化の流れとは?

食事をすると、食べ物は口で咀嚼され、飲み込まれた後に消化管を通っていきます。
消化管は、口から始まり、最終的に肛門へと続く長い経路です。
この間、さまざまな器官が関与し、それぞれ特定の役割を担っています。
【消化の主なプロセス】
1. 口 – 食べ物を咀嚼し、唾液と混ぜて消化を開始
2. 食道 – 飲み込んだ食べ物を胃へと運ぶ
3. 胃 – 食べ物をかき混ぜ、胃酸や消化酵素で分解
4. 小腸 – 栄養素を吸収し、血液へ送る
5. 大腸 – 水分や塩分を吸収し、便を形成
6. 肛門 – 便を排出
この食べ物の移動を促す動きが腸の運動(腸管運動)です。
腸の運動が適切に機能していれば、食べたものはスムーズに消化・吸収され、最終的に排出されます。
しかし、腸の運動が遅すぎると便秘や膨満感を引き起こし、逆に速すぎると下痢や栄養不足につながることがあります。
腸内細菌が果たす重要な役割
腸内には、数兆もの細菌(腸内細菌)が生息しており、消化のプロセスにおいて重要な役割を果たしています。
これらの細菌は腸内フローラ(腸内微生物群)とも呼ばれ、消化を助けたり、免疫機能をサポートしたりしています。(The microbial metabolites, short chain fatty acids, regulate colonic Treg cell homeostasisより)
腸内細菌は、食べたものを分解し、メタボライト(代謝物)と呼ばれる物質を生成します。
メタボライトは腸の神経を刺激し、腸の運動を促進します。
もし腸内細菌が適切に機能しないと、腸の運動が鈍くなり、食べ物が腸内に滞留してしまいます。
その結果、便秘や腹部の不快感が生じる可能性が高まります。
腸の通過時間とは?
腸の通過時間(ガットトランジットタイム)とは、食べ物が口から入り、体外へ排出されるまでにかかる時間のことです。
研究によると、腸の通過時間は12時間から73時間の範囲で変動するとされています。一般的な平均値は約23~24時間です。
この腸の通過時間が長すぎたり短すぎたりすると、腸内環境や健康に悪影響を与える可能性があります。
腸の通過時間に影響を与える要因
腸の通過時間は、以下の要因によって変化します。
• 遺伝的要素 – 生まれつき腸の動きが速い・遅い体質がある
• 食事の内容 – 食物繊維が多い食事は腸の動きを促進
• 水分摂取量 – 水分が不足すると便が硬くなり、通過時間が長くなる
• 腸内細菌の状態 – 腸内フローラのバランスが崩れると、腸の運動が変化
また疾患の有無でも大きく変わるため、身体の状態を確かめる良い指標になります。
腸の通過時間が長すぎる場合の影響
腸の動きが遅いと、腸内細菌が食物繊維をエネルギー源にできなくなるため、たんぱく質を代替エネルギー源として利用するようになります。
この代謝の変化によって有害なガスが発生し、膨満感や炎症を引き起こす可能性があります。
また、消化途中の食べ物が小腸に滞留すると、小腸内細菌の異常増殖(SIBO)を引き起こし、腹痛や吐き気、膨満感などの症状が現れることもあります。
腸の通過時間が短すぎる場合の影響
一方で、腸の動きが速すぎると、水分や栄養素が十分に吸収されないまま排出されてしまいます。
特に、炎症性腸疾患(IBD)や過敏性腸症候群(IBS)の人は、腸の通過時間が短くなる傾向があります。
腸の動きが速すぎる場合、便は水分を多く含み、ゆるい状態になります。これが続くと、脱水症状や栄養不足のリスクが高まります。
簡単に腸の健康をチェックする方法

研究では、腸の動きが正常かどうかを知るには、「スイートコーンテスト」が有効としています。
【スイートコーンテストのやり方】
1. 7~10日間、トウモロコシを食べない(リセット期間)
2. テスト開始日をメモし、トウモロコシを食べる(1本または一握りでOK)
3. その後の排便を確認し、トウモロコシが見えるまでの時間を記録
トウモロコシの外皮は消化されず、そのまま便に現れるため、通過時間を測定できます。
• 12時間以内に排出された場合 → 腸の動きが速すぎる
• 48時間以上かかる場合 → 腸の動きが遅すぎる
腸の動きを改善する方法
腸の健康を維持するために、以下のポイントを意識しましょう。
【 腸の動きが速すぎる場合】
• ストレスを管理する(ストレスが腸の動きを加速させることがある)
• 医師の診察を受ける(IBDやIBSの可能性)
【腸の動きが遅すぎる場合】
• 食物繊維を増やす(野菜、果物、全粒穀物)
• 水分をしっかり摂る
• 適度な運動をする
腸の健康は消化と全身の健康だけでなく、精神の安定に深く関わっています。
食事や水分摂取、運動などの生活習慣を見直し、自分の腸の状態を把握しながら、適切なケアを続けることが健康に生きるための大きなヒントになると言えるでしょう。
まとめ
・腸の通過時間は健康に大きな影響を与える
・スイートコーンテストで簡単に腸の動きをチェックできる
・バランスの取れた食事と運動で腸の健康を維持することが重要
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