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心理的な不安が認知症のリスクとなる

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仕事で失敗した日や悩み事が続く毎日など、精神が不安定になると本来のパフォーマンスが発揮できなくなるばかりではなく、体に不調が現れることがあります。

 

心理的な不安やストレスは体内の炎症と関係していることも多く報告されており、なるべくなら遠ざけておきたい日常のバッドステータスです。

 

そんな不安という状態ですが、近年の研究によると、高齢者が抱える“慢性的な不安”は認知症のリスクを高める可能性があることが明らかになりました。

 

さらに、この研究では、不安が解消されると認知症のリスクも低下することが示されており、この結果を受けた専門家は、「早期の不安スクリーニングと介入が認知症予防に不可欠である」と指摘しています。

 

では、不安と認知症の関係はどのようなものなのでしょうか?

 

また、どのように対策すればよいのでしょうか?

 

今回のテーマとしてまとめていきます。

 

参考研究)

The effect of anxiety on all-cause dementia: A longitudinal analysis from the Hunter Community Study(2024/07/24)

 

 

不安と認知症の関係

不安は一般的な精神状態であり、ストレスや緊張が原因で一時的に生じることもありますが、慢性的な不安は心身に大きな影響を与えることが知られています。

 

英ニューカッスル大学による研究では、70歳以下の高齢者が不安を抱えている場合、認知症のリスクが高まることが明らかになり、不安が認知機能の低下や認知症の発症リスクを高める可能性が注目されています。

 

この研究では、慢性的な不安を持つ人だけでなく、新たに不安を発症した人にも認知症リスクの上昇が確認されました。

 

The effect of anxiety on all-cause dementia: A longitudinal analysis from the Hunter Community Studyより

 

これは、不安が単なる心理的な問題ではなく、脳の健康にも関与している可能性を示唆しています。

 

しかし、不安が解消された場合、認知症のリスクも低下するという結果も示されました。

 

ニューカッスル大学医学・公衆衛生学部講師で本研究の筆頭著者であるKay Khaing氏は、「不安は認知症予防の新たなターゲットとなる可能性がある。また、不安を治療することで認知症リスクを低減できるかもしれない」と述べています。

 

 

慢性不安と新規発症不安の違い

研究では、不安を「慢性的な不安」と「新規発症不安」の2種類に分類しました。

  

• 慢性不安: 長期間持続する不安のことで、通常は不安障害などの精神疾患と関連している

• 新規発症不安: 人生の出来事や病気がきっかけで突然発症する不安のことで、必ずしも不安障害とは診断されないが、精神的・身体的な健康に影響を及ぼすことがある

 

この研究では、オーストラリアに住む2,132人の高齢者を対象に、5年間にわたる追跡調査を行いました。

 

対象者の平均年齢は76歳で、下限は50代でした。

 

研究では以下のように調査されました。

 

1. 調査開始時と5年後に、精神的健康状態を評価

2. 慢性不安のグループ(221人): 調査の両方の時点で不安症状を示していた

3. 新規発症不安のグループ(117人): 2回目の調査時にのみ不安症状を示していた

4. 不安が改善したグループ: 初回の調査で不安症状があったが、2回目の調査時には改善していた

 

この結果、慢性不安・新規発症不安のどちらも認知症リスクを高めることが明らかになりました。

 

The effect of anxiety on all-cause dementia: A longitudinal analysis from the Hunter Community Studyより

 

特に、新規発症不安の人は認知症リスクが3.2倍、慢性不安の人は2.8倍に上昇していました。

 

しかし、最初の調査では不安があったものの、5年後には改善していた人は、認知症リスクが上昇していなかったこともわかりました。

 

この結果から、不安を適切に治療することが認知症予防につながる可能性があることが示唆されます。

 

 

不安は認知症を引き起こすのか?

この研究結果から、不安と認知症の関連が示されましたが、不安が直接的な原因であるとは断定できません

 

不安と認知症の関係について、専門家は次のようなメカニズムを指摘しています。

 

1. 心血管疾患との関連

• 不安は高血圧や動脈硬化などの心血管疾患のリスクを高めることが知られています。

• 心血管疾患は脳への血流を減少させ、認知機能の低下を引き起こす可能性があります。

 

2. ストレスホルモン(コルチゾール)の影響

• 長期間にわたるストレスホルモンの過剰分泌は、脳の記憶や認知機能に関与する領域に悪影響を及ぼすとされています。

• 慢性的な不安は、脳の炎症や神経細胞の損傷を引き起こす可能性があります。

 

3. 不安と他の精神疾患との関連

• 不安はうつ病や睡眠障害と共存することが多いですが、これらの疾患も認知症と関連しています。

• そのため、不安単独ではなく、複数の要因が重なって認知症リスクを高める可能性があります。

 

この研究の結果を受けて、専門家は次のように述べています。

 

「不安が原因なのか、それとも認知症の初期症状として不安が現れるのか、さらなる研究が必要である。」

 

つまり、記憶の低下が不安を引き起こしている可能性も考えられるということです。

 

 

不安の管理と認知機能の保護

専門家は、研究によって示唆された内容を立証するためにはさらなる研究が必要であると指摘しています。

 

それでも、不安の管理が認知症予防に重要である可能性は高いと言えます。

 

研究における不安の治療法としては以下のようなものが挙げられており、私たちがまず最初に取り組める行動は、適度な運動や社会的交流を持つこととされています。

 

• 認知行動療法(CBT)

• 抗うつ薬・抗不安薬などの薬物療法

• 適度な運動・マインドフルネス・社会的交流

 

また、Kay Khaing氏は、「過剰な不安を感じたら、専門家に相談するべきだ。不安は治療可能であり、それが将来の認知症リスクの低減にもつながる」と呼びかけています。

 

 

まとめ

・高齢者の不安は認知症リスクを高めるが、不安が改善されればリスクは低下する

・不安は心血管疾患、ストレスホルモン、精神疾患との関連を通じて認知症と結びつく可能性がある

・早期の不安治療が、将来的な認知症リスクを減らす鍵となる

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