加工赤肉の摂取が認知症リスクを高める可能性があることが、大規模な長期研究で明らかになりました。
特に、1日あたりわずか0.25サービング(おかずに数切れ入る程度)以上の加工赤肉を摂取するだけで、認知症リスクが13%増加し、認知機能の老化が加速することが示されています。
(※サービング(単位)=1日にどれだけ食べれば良いかの指標)
今回紹介するのは、そんな赤身肉と脳の健康との関係についての研究です。
以下に研究の背景から結果までをまとめていきます。
参考記事)
・Decades-Long Study Links Red Meat to Up to 13% Higher Dementia Risk(2025/01/22)
参考研究)
・Long-Term Intake of Red Meat in Relation to Dementia Risk and Cognitive Function in US Adults(2025/01/15)
研究の背景
赤肉(牛肉、豚肉、ラム肉など)は、これまでに癌のリスクを高める可能性や、気候変動への寄与が指摘されてきましたが、認知機能との関連については一致した結果が得られていませんでした。
本研究は、赤肉摂取が認知症やその他の認知的アウトカム(記憶力や認知機能の老化)にどのような影響を与えるかを詳細に調査することを目的としたものです。
方法
研究は、アメリカで実施された2つの大規模コホート研究、Nurses’ Health Study(NHS)とHealth Professionals Follow-Up Study(HPFS)を基盤とした前向き研究です。
1980年から2023年までのデータを用い、ベースライン時点で認知症を持たない約13万人の成人を対象としました。
調査は以下の通りに実施されました。
• 食事調査
赤肉の摂取量は、半定量的食品頻度質問票を用いて定期的に評価されました。
この質問票は、摂取した食品やその頻度を詳細に記録する方法で、信頼性が高いとされています。
• 認知症の発症確認
認知症の発症は、医療記録や診断情報に基づいて確認されました。
• 認知機能の評価
電話による認知状態インタビュー(Telephone Interview for Cognitive Status, TICS)を用いて、一部の参加者の客観的な認知機能を評価しました(1995年~2008年)。
• 主観的認知低下(SCD): NHSとHPFSの参加者が自己申告したデータを用い、主観的な認知機能の低下も調査しました。
統計手法
• 赤肉摂取と認知的アウトカムの関連を評価するため、Cox比例ハザードモデル、一般線形回帰モデル、ポアソン回帰モデルが使用されました。
以上の手法から、赤肉摂取量が認知症リスクや認知機能の老化速度に与える影響を定量的に解析しました。
結果
本研究の主な結果を以下の通りです。
1. 対象者の基本情報
認知症解析には133,771人が含まれ、うち65.4%が女性、平均年齢は48.9歳でした。
客観的な認知機能解析には17,458人(全員女性、平均年齢74.3歳)が含まれました。
SCD解析には43,966人(77.1%女性、平均年齢77.9歳)が参加しました。
2. 赤肉摂取量と認知症リスク
加工赤肉を1日あたり0.25サービング以上摂取する人は、0.10サービング未満の人に比べて、認知症リスクが13%高いことが分かりました。
SCDリスクも、加工赤肉を多く摂取する人で14%増加しました。
3. 認知機能の老化
1日あたり加工赤肉1サービングを追加摂取するごとに、全体的な認知機能の老化が1.61年加速することが判明しました。
言語記憶についても、1サービングあたり1.69年の老化が見られました。
4. 非加工赤肉の影響
牛肉、豚肉、ラム肉などの非加工赤肉については、認知症リスクとの明確な関連は見られませんでした。
しかし、非加工赤肉を1日1.00サービング以上摂取する人は、0.50サービング未満の人に比べて、SCDリスクが16%高いことが示されました。
5. 赤肉を他の食品に置き換えた場合の効果
加工赤肉をナッツや豆類に置き換えることで、以下のような効果が得られる可能性が示されました。
• 認知症リスクが19%低下(HR 0.81, 95% CI 0.75–0.86)
• 認知機能の老化が1.37年遅延(95% CI -2.49~-0.25)
• SCDリスクが21%低下(RR 0.79, 95% CI 0.68–0.92)
考察
本研究では、特に加工赤肉の摂取が認知症や認知機能低下と関連していることが示されました。
この結果から、赤肉摂取を減らし、ナッツや豆類などの健康的な食品に置き換えることが、認知機能の維持や認知症リスク低下に役立つ可能性が示唆されます。
ただし、研究にはいくつかの制限があり、
認知症リスクには、睡眠の質、アルコール摂取量、遺伝的要因など、多くの要因が関与する可能性があるため、直接的な因果関係を証明するものではありません。
研究チームは今後、赤肉摂取が認知症リスクを高めるメカニズム(例:腸内細菌叢への影響など)を調査し、より多様な人々を対象とした解析を行う予定です。
結論
・加工赤肉の高摂取は認知症リスクと認知機能低下に関連する
・赤肉摂取をナッツや豆類に置き換えることで、リスク軽減が可能である
・多様な背景を持つ人々を対象とした追加研究が必要である。長期間の研究で赤肉摂取が認知症リスクを最大13%高めることを発見
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