科学

食事と消化器系がんの関係と最新研究で分かったこと

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近年、50歳未満の人々における“消化器系(Gastro Intestinal;以下GI )がん”の発症率が世界的に急増しています。

 

日本においても大腸がんの罹患率は上昇傾向にあり、食生活の変化が大きな要因の一つとして注目されています。

 

国立研究開発法人国立がん研究センター より

 

フリンダース大学の研究チームは、食事パターンがGIがんのリスクや死亡率にどのような影響を与えるのかを明らかにするため、過去に行われた28の研究を詳細に分析しました。

 

この体系的レビューとメタ分析は、消化器系がんに関連するリスク要因を理解し、予防に向けた具体的な対策を見出すことを目的としています。

 

本研究から、健康的でない食事が消化器系のガンに与える影響を知ることができ、食生活を見直すきっかけとなるかもしれません。 

 

今回のテーマとして以下にまとめていきます。

 

参考研究)

Difference in Gastrointestinal Cancer Risk and Mortality by Dietary Pattern Analysis: A Systematic Review and Meta-Analysis(2024/07/17)

 

 

消化器系がんについて

  

消化器系がんは、消化器官全般に発生するがんを指し、胃、膵臓、小腸、大腸、直腸、肛門、さらには食道にも及びます。

 

これらのがんは世界中のがん死亡の約3分の1を占めており、その中でも大腸がんの割合が特に高いとされています。

 

2040年には大腸がんだけで年間160万人が死亡するとの予測がなされており、消化器系がんのリスクを減らすために予防可能な要因、特に食生活の改善が注目されています。

 

 

食事と消化器系がんの深い関係

  

栄養疫学者のヨハネス・メラク博士は、「不健康な食事パターンと消化器系がんの間には多くの直接的な関連性が見つかっている」と述べています。

 

本研究における不健康な食事とは、次のような食品を多く摂取することを指します。

・赤身肉や加工肉

・ファストフード

・精製された穀物

・アルコール

・甘い飲み物

 

これらの食品を多く摂取することは、GIがんのリスクが著しく増加するとされています。

 

胃腸がんは、全世界のがん死亡の3分の1を占めており、喉から胃、膵臓、腸、直腸、肛門まで、消化器系のどこにでも発生する可能性があります。

 

疫学者のゼゲイ・アベベ(Zegeye Abebe)博士とその研究チームは上記を踏まえ、食事パターンと消化器系がんに関する28件の研究をレビューしました。

 

その結果、健康的な食事パターンががんリスクを低下させる可能性があることが示唆されました。

 

さらに、97,561人のデータを分析した結果、食物繊維や不飽和脂肪酸を多く含む食事を摂取する人々は、大腸がんを発症するリスクが低いことが分かりました。この大腸がんは、2040年には年間160万人の死因になると予測されています。

 

研究では以下のパターンにて、食事とがんの関連性を特定しました。

 

・主成分分析(PCA):複数の食事要素を統計的にグループ化し、全体的な食事パターンを特定する方法

・縮小順位回帰分析(RRR):疾患と関連性の高い食事要素に焦点を当てる方法

 

【分析の結果】

• PCAによる健康的食事パターン:GIがんのリスクを8%低下(RR 0.92; 95% CI 0.87-0.98)

• PCAによる不健康な食事パターン:GIがんのリスクを14%増加(RR 1.14; 95% CI 1.07-1.22)

• RRRによる健康的食事パターン:リスク低下が示唆されるが精度が低い(RR 0.83; 95% CI 0.61-1.12)

• RRRによる不健康な食事パターン:明確なリスク増加の証拠は得られず(RR 0.93; 95% CI 0.57-1.52)

  

【GIがん死亡率との関連】

• PCAによる健康的食事パターンは死亡率の低下に関連

• PCAによる不健康な食事パターンは死亡率を増加させる可能性がある

  

それぞれで分析結果に違いがあることから、PCAとRRRのどちらの手法がより正確にリスクを評価できるかを明確にする必要があることも、今後の課題として挙げられています。

 

 

不健康な食事が引き起こす炎症とがん

  

アベベ博士のチームは、不健康な食事がもたらす主なメカニズムとして、炎症と腸内微生物叢(マイクロバイオーム)の相互作用に注目しています。

 

例えば、赤身肉砂糖入り飲料白パンのような精製炭水化物は炎症を引き起こし、インスリン抵抗性(細胞がインスリンに反応しにくくなる=血糖値が下がりにくくなる)を高める可能性があります。

 

これが最終的に「インスリン様成長因子1(IGF-1)」を活性化し、がんリスクを高めると考えられています。

 

IGF-1成長因子であり、細胞の成長や分裂を促進したり、アポトーシスを抑制したりする働きがありますが、過剰に分泌されると異常な細胞増殖(がん化)につながることが指摘されています。

 

一方で、抗酸化物質を多く含む食品、例えばベリー類、一部の果物、ナッツ類、脂肪分の多い魚、葉物野菜、緑黄色野菜などは、炎症を抑える効果があります。

 

 

健康的な食事への移行がカギ

研究者らは「消化器系がんの診断が増えている現状を受け、食事の教育と健康的な食事パターンの推進が重要な鍵になる」と語っています。

 

食事と消化器系がんとの関係をより深く理解するためには、臨床現場での栄養バイオマーカーを用いた研究が必要とされています。

 

また、健康的な食生活の教育を増やすことで、リスクのある人々の健康結果を改善できる可能性があります。

 

研究者たちは、さらなる研究が必要であると強調しており、特に栄養バイオマーカーを活用した臨床研究が必要としています。

 

 

まとめ

・不健康な食事パターン(赤身肉、加工肉、砂糖飲料など)はGIがんリスクを増加させる

・全粒穀物、豆類、緑黄色野菜や一部の果物などはGIがんリスクを低下させ、死亡率を減少させる

・GIがんのリスクを高める主な要因

①炎症の促進:赤肉や加工肉、砂糖入り飲料は炎症を引き起こし、細胞の異常成長を促進する

②インスリン抵抗性の増加:これが「インスリン様成長因子1」を活性化させ、がんの成長を促進する

③腸内微生物叢の変化:不健康な食事が腸内の有益な細菌を減少させ、免疫機能を低下させる可能性がある

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