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パンデミック中に早期思春期が急増した理由とは

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新型コロナウイルス(COVID-19)がもたらした健康問題は多岐にわたりますが、その中でも特に異例だったのが「突発性早発思春期」の増加でした。

 

これは通常よりも早い年齢で思春期が始まる現象であり、先のパンデミック中に突然増加したことで医学界でも注目されました。

 

早発思春期の子どもたちが世界各地で増えた原因として、新型コロナウイルスの感染自体に関連があるのではないかとの見方がありましたが、トルコのガジ大学とアンカラ市病院の研究によると、感染症そのものではなく、パンデミック期間中の行動や生活習慣の変化が影響している可能性があることがわかりました。

 

特にロックダウン中にスマートデバイスを長時間使用したことが、子どもたちの早発思春期を引き起こしたのではないかと考えられています。

 

今回のテーマとして取り上げていきます。

 

この研究により、スマートフォンやタブレットなどのデバイスから発せられるブルーライトが早発思春期の要因になり得るという新しい視点が示されました。

 

参考記事)

Early Puberty Surged During The Pandemic, And This Could Be Why(2024/11/13)

 

参考研究)

Is blue light exposure a cause of precocious puberty in male rats?(2023/06/20)

COVID-19 and increased prevalence of female precocious puberty in Germany

 

 

スマートデバイスとブルーライトの影響

  

2023年に発表された2つの研究にてガーズィ大学の研究チームは未熟な雄と雌のラットをLEDスクリーンから発せられるブルーライトにさらす実験を行いました。

 

その結果、ブルーライトに長時間さらされたラットは、対照群と比べて早く成熟の兆候を示しました。

 

ガーズィ大学の内分泌学者で研究の主著者であるアイリン・キリンチ・ウールル博士は、この現象について次のように説明しています。

 

ブルーライトへの曝露により、メラトニンのレベルが変化し、それに伴って生殖ホルモンのレベルも変わることで、思春期の開始が早まることが確認された。さらに、青色光にさらされる時間が長いほど、その効果が顕著に現れた。

 

メラトニンは通常、睡眠に関与するホルモンとして知られていますが、思春期の開始時期にも影響を及ぼす可能性があることが示唆されています。

 

この発見は、特にデジタル機器が日常生活に深く根付いている現代において、重要な課題です。

 

デジタルデバイスのブルーライトが、子どもたちの成長にどのような影響を与えているのか、より慎重に検討する必要があるでしょう。

 

 

早期思春期の基準と原因の謎

一般的に、子どもたちは12歳前後から思春期を迎えますが、これは男子で9歳から14歳、女子で8歳から13歳までの範囲に含まれます。

 

早発思春期は、女子では8歳未満で二次性徴が現れること、男子では9歳未満で現れることを指します。

 

しかし、この現象の発生率は地域によって異なり、正確なデータの収集が難しい場合もあります。

 

また、早発思春期の原因は完全には解明されていません。

 

中枢神経系の障害や特定の疾患が原因の場合もありますが、多くのケースは「突発性」とされ、明確な原因がわからないのです。

 

例えば、トルコでは女子における突発性早発思春期の症例が2019年4月から2020年3月にかけて急増しました。

 

この期間に早発思春期の症例数が25件から58件に倍増したのです。

 

この異常な増加に対し、研究者たちはいくつかの仮説を立てました。

 

高カロリー食品の摂取が増えたこと、パンデミックに対する不安やストレスが影響したのではないかとも考えられましたが、最も注目されたのはスマートデバイスの使用時間の増加でした。

 

具体的には、スマートフォンやタブレットなどから発せられるブルーライトが身体にどのような影響を与えているかという点です。

 

 

ブルーライトとメラトニンの関係

 

ブルーライトの影響については、私たちの体内時計を調整するメラトニンとの関係が重要な要素です。

 

人間は昼行性の生き物であり、進化の過程で昼の青空の色を覚醒時間とし、夕方や夜間の薄暗い光を休息のサインと捉えるように体が調整されてきました。

 

このため、日中にブルーライトを浴びることで目が覚め、夕方以降に光の刺激が減ると眠気を感じるようになっています。

 

ブルーライトがこのリズムに影響を与えることで、体内のメラトニンレベルが抑制されると、発育の一環としてのホルモン活動が早まる可能性があります。

 

具体的には、メラトニンが抑制された状態が続くと成長ホルモンや生殖ホルモンが早期に分泌され、思春期が早まる原因になると考えられています。

 

トルコの研究チームは、ブルーライトにさらされたラットの実験を通じて、この仮説を実証しました。

 

実験では、雄と雌のラットがブルーライトに長時間曝露された結果、通常よりも若い年齢でラットの思春期に相当する成長段階を迎え、さらにメラトニンのレベルが低下していることが確認されました。

 

また、性ホルモンであるエストラジオールや黄体形成ホルモンの濃度も高まっており、光が成長にどのように影響するかが一部解明されました。

 

 

今後の課題と警鐘

ただし、今回の実験結果はあくまでラットを対象としたものであり、これが人間にも同様の影響を及ぼすかどうかは明らかではありません。

 

それでも、このデータはブルーライトへの長時間の曝露が早発思春期のリスク要因として考慮されるべきであることを示唆しています。

 

さらに、早発思春期のメカニズムには多くの要素が絡んでいるため、ブルーライト以外にもさまざまな要因が影響している可能性があります。

 

思春期の発達には非常に複雑な生理機構が関与しており、人間の成長に影響を与える要素は一つではないことにも注意が必要です。

 

 

まとめ

・ブルーライトがメラトニンを抑制し、早期の思春期開始を引き起こす可能性が示唆されている

・パンデミック期間中のスマートデバイス使用の増加が、思春期の早期発現に影響を与えた可能性が考えられる

・ラットを対象にした研究結果からも、子どもたちの成長に与えるデジタルデバイスの影響をさらに調査する必要性が明らかになっている

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