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【チャールズ・ダーウィンの歴史⑤】フォークランドオオカミと未開人

歴史
Dogs, jackals, wolves, and foxes London R.H. Porter 1890 http://www.biodiversitylibrary.org/item/57042

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フォークランドオオカミの謎

次にビーグル号が向かったのは、フォークランド諸島(マルビナス諸島)でした。

 

 

南アメリカ大陸の南端から海を東に460キロ進んだ位置にあり、当時からイギリスとアルゼンチンとの間で領土争いが絶えない地域です。

 

冷たい雨が振り、木々の姿が少ない荒野ですが、キングペンギン、ゼンツーペンギン、イワトビペンギン、マカロニペンギン、マゼランペンギンという5種類のペンギンが生息しています。

 

この地でダーウィンが注目したのは、これらの愛くるしいペンギンではなく、フォークランドオオカミという島固有のオオカミでした。

 

Dogs, jackals, wolves, and foxes London R.H. Porter 1890
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オオカミと言えども人を襲うことも恐ることもなく、逆に近づいてくるほど警戒心が薄い種でした。

 

そのため簡単に捕獲され、ダーウィンが訪れた時には相当数数を減らしていたようです。

 

彼はこのオオカミについて、「数年もしないうちに、地球から姿を消した動物に数えられるだろう」と述べています。

 

事実、1876年には乱獲によって絶滅したとされています。

 

この動物を観察している中でダーウィンは、「なぜ、大陸からかなり離れた島に陸生の哺乳動物がいるのだろう」と不思議に思いました。

 

虫のような生物であれば、海鳥に着いたりして海を渡ることができるし、哺乳類でも羽のある種であれば海を渡ることが考えられます。

 

しかしフォークランドオオカミのような動物はどのように海を渡ってきたのでしょう。

 

そんな疑問をさらにかき乱したのは、一番近い陸地である南アメリカ大陸にさえ、彼らの近縁の生物が見当たらないことでした。

 

ダーウィンの推測では、氷河期にフォークランドオオカミの祖先が大陸から海へ渡ったと予想しました。

 

彼がそう考えた理由は、迷子石ができる仕組みを知っていたからでした。

 

迷子石は、氷河によって削り取られた岩石が氷河に乗り、別の陸地へと移動するといういう現象です。

  

その地層に合わない岩石がポツンと存在するため、まるで石が迷子になったようにみえます。

 

ダーウィンも、迷子石をフォークランド諸島で発見しており、このような氷河のいたずらによってオオカミも移動したと考えたようです。

 

現在の研究では、古代DNAという歯や骨の化石にわずかに残された太古のDNAサンプルを用いて、現在の種との関係を解き明かすことか可能になっています。

 

その結果から、数千年前まで遡るとこのオオカミの祖先に当たる種が南アメリカ大陸に広く生息していたことが分かっています。

 

また、最終氷河期の頃は現在よりも海面が150キロも低下しており、南アメリカ大陸とフォークランド諸島まではわずか20キロメートルしかなかったようです。

 

この距離ならオオカミが獲物を狙って大陸から島まで移動することも容易に想像できます。

 

ちなみに、フォークランドオオカミの DNA分析には、このときダーウィンが採集し、後に博物館に保存されているサンプルが使用されました。

 

 

未開人との遭遇

次にビーグル号が到着したのは、南アメリカの南端に位置するフエゴ島でした。

 

 

暗い空に暴風、氷河が崩れ落ちる音は大陸の果てに相応しい場所でした。

 

ここでは彼らを迎えたのは、未開の先住民たちでした。

 

船が近づくと、フエゴ島の民たちは甲高い声を出し船の後を追いかけてきました。

 

この時の様子をダーウィンはこう書き残しています。 

 

カヌーに乗ったフエゴ族は丸裸で、大人の女性でさえ何もまとっていなかった。

髪は乱れ放題で、声もしわがれており、身振りも荒々しかった。

こういう人々を見ていると、彼らがこの世に住む同じ人間だとは思えなくなる。

 

奴隷制度に反対していた彼もこの様子に彼はとてもショックを受けたようです。

 

実はビーグル号は過去にフエゴ島に訪れており、その際子どもの男女を含む数人の未開人を連れ帰っています。

 

三人はイギリスで三年間教育を受け、英語や食事のマナーを身につけていましたが、そのうちの一人は天然痘によって亡くなっています。

 

艦長のフィッツロイとしては、残った三人を島に返すことも旅の目的の一つでした。

 

島に上陸してから間も無く彼らを送還することができましたが、島民との関係は緊張状態が続きました。

 

コミュニケーションが取れず、取引をしようにも物は盗まれる始末で、ナイフや銃を見せても脅しにはなりませんでした。

 

ビーグル号は一旦島を離れることを余儀なくされ、周辺地域の観測を行うことにしました。

 

一年が過ぎて再びフエゴ島に戻ると、かつてイギリスで教育を受けた少年ジェミーと再会しました。

 

ジェミーは他の先住民同様に一糸纏わぬ自然の姿に戻っており、再び船に乗ろうという気もないようでした。

 

彼に愛する妻ができたからです。

 

それでは何も言うまい」と、それまで旅を共にしてきたビーグル号のクルーたちと固い握手を交わし、永遠の別れを告げたのです。

 

ダーウィンは、たとえ未開の先住民だったとしても、教育を受けることで文明人と同じように振る舞うことに気付きました。

 

これは、たとえ人種が違うとしても、教育や発達、情動などは皆同じなのかもしれないという気づきを与えるものでした。

 

後にダーウィンはこういった体験から、進化論みならず人の感情についても強い関心を持つようになっていきます。

 

 

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