心理学

【歴史を変えた心理学㉘】記憶は捏造される 〜フォールスメモリ〜

心理学

この記事では、著書“図鑑心理学”と自分が学んできた内容を参考に、歴史に影響を与えた心理学についてまとめていきます。

    

心理学が生まれる以前、心や精神とはどのようなものだったのかに始まり、近代の心理学までをテーマとして、本書から興味深かった内容を取り上げていきます。

     

今回のテーマは、「フォールスメモリ」についてです。

 

 

エリザベス・ロフタス

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アメリカの認知心理学者エリザベス・ロフタスは、「記憶の思い出し方によって内容が変わる」ことを発見しました。

 

長期記憶に関心を持っていた彼女は、裁判で取り上げられるような目撃証言の信性について、疑問を持っていました。

 

目撃者による証言は、裁判が長引くにつれて遠い過去の記憶となっていきます。

 

曖昧になってしまった証言は、時に、催眠や心理療法を使って“復元”されることもありました。

 

こういった記憶は本当に正確な記憶なのでしょうか。

 

思い出し方によって記憶内容が変容する可能性に気づいたロフタスは、1970年代の初頭から記憶の研究を始めました。

 

彼女の研究のなかでも、有名なものが“フォールスメモリ(実際に起こっていない事柄を、起こったかのように信じ込む状態)”の実験です。

 

以下に、実験の内容をまとめていきます。

 

 

フォールスメモリ(虚偽記憶)実験   

人間はコンピューターのように情報を処理し、性格に認知、処理できるわけではありません。

  

「人間誰しも間違いはある」と言われているように、本人に他意なく真剣に物事を判断したとしても、実際は“間違ってしまう”こともあります。

  

カリフォルニア大学の心理学者エリザベス・ロフタス氏は、認知心理学の観点から人の認知の誤りについて研究を行った人物です。

  

今回は彼女が行った実験についてフォーカスし、人の認知がいかに曖昧であるかを知っていこうと思います。

  

【実験】

・被験者:大学生150人

  

被験者はそれぞれ交通事故を描写した短い動画を見せられました。

 

動画は2台の車が衝突する4秒ほどの短い動画でした。(衝突は中程度の衝撃で、ガラスが飛び散るほどのものではない)

  

動画を見た後、被験者らは事故の様子を紙に書き出すよう指示されました。

  

その後、監督者は被験者に衝突時の“車のスピード”に関する質問をしました。

  

質問は合計で3パターンあり、50人ごとに質問を変えて行われました。

  

質問①「車が激突(Smashed)したときの速さはどれくらいでしたか」

・About how fast were the cars going when they smashed into each other?

  

質問②「車が当たった(Hit)ときの速さはどれくらいでしたか」

・About how fast were the cars going when they Hit into each other?

  

質問③は、車のスピードとは関係のない質問がされました。

  

それから一週間後、被験者らはさらに衝突の動画に関する質問を受けました。

  

被験者は「事故によってガラスが飛び散りましたか」という質問をされ、「はい」か「いいえ」で答えました。

  

その結果が以下の表です。

  

   

動画視聴の日に「激突(Smashed)」と聞かれた50人のうち16人が「はい」と答え、それ以外のグループで「はい」と答えたのは7人、6人という結果になりました。

  

つまり、「激突(Smashed)」という事実とは言えない追加情報を得た被験者は、一週間後にそれがあたかも事実のように受け止めたのです。

  

また、後の1995年に彼女は、「ショッピングモールでの迷子」の研究を行いフォールスメモリの再現性を証明しました。

 

この実験は、成人の参加者に対し、親や養育者から詳細に聞き出した子ども時代のストーリーを“4つ”伝え、どの記憶を覚えているかを答えて貰うものでした。

 

しかし、実際はそのうちの三つだけが親子が経験した本当の話で、四つ目は、“ショッピングモールで迷子になった”という作り話を伝えました。

 

すると、約80%の参加者が四つ目の嘘のストーリーを「強く覚えている」としたのです。

 

ロフタスの「フォールスメモリ症候群」によって、過去の重 大事件が見直されるなど、法曹界には一時期パニックが起こりました。そして現在では、目撃証 言はより用心深く慎重に集められ、分析されるようになっています。

 

ロフタスが明らかにしたフォールスメモリによって、過去の重大事件が見直されるなど、裁判官や弁護士らの界隈では一時的なパニックになりました。

 

現在、日本の司法においても自白や目撃証言は有力な証拠となります。

 

時には、高圧的な取り調べや誘導尋問によって冤罪が生じることもあるため、こういった記憶を根拠とする場合、より用心深く分析がされるようになっています。

 

 

まとめ

・フォールスメモリ=実際に起こっていない事柄を、起こったかのように信じ込む状態

・聞き方(誘導尋問など)によって、記憶が脚色されてしまうことがある

・実験では、同じ事柄だとしても、質問の仕方を変えることで回答も変わったことが明らかになった

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